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フェイクビレッジ

「昔々、ドイツの町を連合軍が夜中に無差別爆撃してね。困った町の人達は町の外に偽物の町を作ったんだ。ショーウィンドとかネオン看板とか、路面電車まで走らせて、映画のセット顔負けのすっごい奴を完成させた」

 

 秋山さんの昔話は、そんなに昔じゃなかった。爆撃機ってなんだよ? 飛行機が登場する昔話なんて聞いたことがない。

 それでもセーラちゃんなんかは面白そうに聞いている。娯楽が少ない世界だと、聞き手は辛抱強く聞いてくれるんだ。話し手のハードルはかなり低い感じ?

 

「それでどうなったの?」

 

 竹井が馬鹿な質問をする。でも、秋山さん的には嬉しい合いの手だったみたいだ。

 

「結果的には、まあ、失敗した。爆撃機からしたら、いい目印になったんだ。飛んできて、近くの本物の町を探して、爆弾を落としていったんだよ」

 

「町の人達はどうなったんですか?」

 

「死んじゃったよ。戦争だからね、仕方ないんだ」

 

 バッドエンドだった。皆えーって顔をしている。昔話はやっぱり、ハッピーエンドがいいよね。

 

「何それ? そんな下らない話をするために、わざわざ呼んだの?」

 

「いや、これは失敗した例だよ。町のすぐ近くに作ったから駄目だったんだ。我々は、もっとずっと遠くに作ろうと思う。三井寺君と赤松さんの力があれば、距離なんてあまり関係ないだろう?」

 

 秋山さんの中では、すでにやることは決定しているらしい。なんか面白そうだから別にいいけど。

 

「なるほど。どうせ聖女一味に村を乗っ取られるなら、奪われても惜しくないのを別に用意しようって作戦ですね」

 

 花村はさすが理解が早い。

 

「いや、だって、意味なくない? 回りくどいことしなくても、鈴木なんてボコって追い返せばいいじゃん。ミー君のドカーンってぶち込もうよ」

 

 竹井の意見も、そんなに悪くないかな。過激だから支持されないとは思う。

 

「いきなり暴力に訴えるのは、納得できない者もいるだろう。私としても若者達にはできればチャンスを与えてやりたいと思う。万一裏切られた場合にも、最小限の被害で済む方向でやってみないか?」

 

 いや、みないか? って言われてもねえ。結局、やるのはほとんど僕だよね?

 

 

 候補地なら、心当たりがある。北に少し行くと、放棄されて廃墟になった島があるんだ。グラさんの島から直線距離で、沖縄と北海道くらいは離れているから、近過ぎってことはないだろう。

 かつては耕作もされていたようで、畑の遺構もある。寒いから稲は難しいだろうけれど、ジャガイモが全てを解決するだろう。

 

 早速、皆で飛ぶ。

 

「うわー、雰囲気あるなあ。城塞都市って感じ?」

 

 何故か梅木さんがハイテンションだ。

 石造りの砦は、確かにいかにもファンタジーって感じだけれど、天井が無くなってるからねえ。崩れそうだから近づかない方がいいよ。

 

「鈴木にくれてやるには勿体なくない?」

 

 何故か悔しそうな竹井。

 

「周辺の海にはあまり魚がいないんだ。カニとかウニもほとんどいない」

 

「ならいらないか」

 

 カニがいないと聞いて、興味をなくしたようだ。



「土地も酷く痩せているね。おそらく、薪にするために森を全て伐採してしまったのだろう。ジャガイモ無双はできそうだけれど、連作には気をつけなければ。ソバや麦や豆類で試してみよう」

 

 秋山さんは広い土地を前に興奮気味だ。面積だけならグラさんの島の四倍はあるからね。

 一応雑草は生えているから、焼き畑をすれば最初の一回はなんとかなりそうだという。

 

 砦のそばには泉が湧いていた。そりゃあ人が住んでいたんだから水源くらいあるか。

 

 石切り場も近くにある。目の粗い砂岩みたいな岩で、見た目ちょっと良くないけど、量は沢山ある。

 石積みで家を建てるとして、問題は天井だよ。アーチ構造にして、天井も石材で組んでみようか? でも、地震とかあったら怖いしなあ。木材は運んで来ればいいかな?

 

 何軒も建てまくってるので、家づくりのリアルスキルも随分上がったよ。今回、変に拘りが無かったのも良かったのかもしれない。わりと簡素に建てたつもりが、かえってシンプルに、お洒落になった。

 

「しばらくこっちに住んでもいいかもね。別荘感覚?」

 

「いい村になっちゃったら、聖女達にはまた別の村を用意すればいいんだしね」

 

 女子達は死蔵していた家具とかを持ち込んで、自由に内装を弄っている。買ったのはいいけど、いざ使ってみるとガッカリだったあれやこれやだ。

 大金が手に入って、ショッピングを楽しんだりすると、そういう余計なものを買いこんでしまうらしい。

 邪魔なのでそのうち売り飛ばす予定だったので、有効利用と言える。

 

 こっちは寒いので、竈の煙突を壁の中を通る経路にしてみた。燃料は、どうせ火魔法くらい使える奴はいるだろうけど、一応ガスボンベとガスコンロを設置しておく。

 丸いガスボンベは銅製の特注品で、液化メタンを充填してある。安いものではないけれど、沢山注文したので余ってるし、まあいいか。

 

 

 ジャガイモが芽を出す前に、新しい村は完成してしまった。

 

「見た目はどこかの観光地みたいね。立派なものよ。住みたいとは思わないけど」

 

 吉田は、ほとんどこっちには来ない。というか、毎日通ってるのはコロと秋山さんくらいだ。

 コロは思いっきり耕せてご機嫌だ。

 

「やっぱり寒いのは嫌だよね。冬になったらもっと寒いんだろうけど」

 

「鈴木さん達がここを力ずくで占領したら、笑うわね」

 

「そうかな? ジャガイモ畑とセットなら、そんなに悪くはないんじゃない?」

 

「ここだとプリンに至る道は遠いわね。牛と鶏を飼って、サトウダイコンを育てて」

 

「いや、そもそもサトウダイコンを見つけられないと思うし」

 

 それ以前の問題として、この島を見つけられるのだろうか? 航路から離れているしなあ。

 ああ、鈴木達以外が上陸してくる可能性もあるね。

 

 今まで誰も見向きもしなかった島でも、家と畑ができれば欲しがる者がでてくる。

 力づくで来るなら戦うけど。目には目をって奴だ。

 

 わりとどうでもいい島だからこそ、いろいろ試して皆で勉強していけばいい。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 秋山さんのうんちくもたまには役に立つ? 万が一の時に使える面白い試み。秋山コロの趣味セーフハウスと化したが。 [一言] あとは裏切りさえ出なければ本丸は守れる? 本来はかなりの労力が必要な…
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