聖女注意報
「ピンポンパンポーン 聖女注意報をお知らせしまーす。なんか勇者と喧嘩別れして、全員で聖都から出たみたい」
吉田がまた変な遊びを始めたと思ったら、聖女鈴木の新着情報だった。正直どうでもいいんだけれど、知らないまま放置は怖い。
「注意報って、こっちに来るの? やだなあ」
「来るかどうかはわからないけど、人探しの魔法に引っかからなくなったわ。なんだかんだで皆成長してるみたいね」
そりゃあ対策もとるだろうねえ。簡単に居場所を探し出せるとか、相当にヤバイ魔法だよ。
神の国には魔法使いが掃いて捨てるほどいるから、人探しの魔法が使える人間も珍しくはないだろう。
監視社会だデストピアだ。
「皆さんが逃げて来るなら、まとめて沢山作れるメニューをもっと増やさないといけませんね」
「なんでだよ? 鈴木達なんてこの島に入れるわけないっしょ」
これは竹井が正しいと思うよ。
「なんでって、クラスメイトじゃない。きっと皆お腹をすかしているわ」
「困っていたら助けるって? ふざけるな! この島は私が苦労して楽園にしたんだ。あいつらに食わせるプリンはないっ!」
あー、竹井的にはそういう認識だったんだ。竹井の貢献なんてせいぜい数パーセントだと思うけれど。
「久保さんは、困っている人達を全員受け入れるつもりなのね? 聖女の鈴木さんは、皆で公平に分配しようって言い出すんじゃないかしら? それでもいいの?」
「公平ならいいんじゃないですか?」
「良くない! あいつらそのうち全部欲しがるに決まってるし。どうせ多数決とか言ってさ」
ああ、確かにそんなこと言い出しそうだ。竹井がやけに鋭い。
多数決で何もかも奪い取られて、労働力としてこき使われるか、追い出されるか。まさか殺されるとは思わないけど、状況次第じゃわからないな。
どうせ竹井とかは黙っちゃいられないだろうから、どこかで暴力沙汰になるだろう。
むしろそれを口実に、僕達を力で支配しようとするかもしれない。
「そんなの考え過ぎですよ。みんなで協力すれば、未来はもっと素晴らしいものになるんです」
確かにそうなる可能性もゼロじゃないだろうけれど、まずあり得ないから。
「島には入れないよ。対価を払えば食料を分けるくらいはしてもいいけど」
最初にビシッと釘を刺しておく。なんだかんだで皆人がいいからね。鈴木達が実際に困っているのを目にしたら、助けたいとか言い出すに決まっているんだ。
「どうして? 私は正しいことを言ってるのに……」
人として正しいことだけれど、間違った判断なんだ。
「なんでこんな簡単なことがわからないかなあ」
竹井にわかることが、久保にはわからない。何故だ?