チャボビームの伝説
「美味しい! めっちゃ美味いぞこのタンポポ! コッコもサボテンばかり食ってないでタンポポ食えよ! 時代はタンポポっしょ」
セーラちゃんとコロが夢中でチャボの観察をしていると思ったら、竹井の奴がデタラメな同時通訳をしている。何やってるんだか。馬鹿なことをやらせたら右に出る者はいないな。
「それはサボテンじゃなくスベリヒユですよ。秋山さんが言ってました」
セーラちゃんが真顔でチャボのチャー坊に教えている。スベリヒユ、一応食べられるんだよな。いくらでも生えて来るから、鶏の餌には丁度いい。
「こちとら鶏なんだから細けえことはいいんだよ。世の中にゃ食える物と食えない物の二つしかありゃしねえんだ」
チャー坊が江戸っ子になった?
「あたしもたまにはタンポポを食べてみようかねえ」
今度は牝鶏のコッコが喋っているのか? なんか年寄り臭いキャラになってるし。
「あ、ミミズ! およこしったら! 仕方ないねえ、ポッキーゲームからの、あたしの勝ち」
「ねえ竹井さん、ぽっきーゲームって何ですか?」
「あらやだおませさんね。大人になったらわかるのよ」
ふむ、竹井と遊ぶのはセーラちゃんの教育上良くないかもしれない。一応配慮はしてるみたいだけど、竹井だからなあ。
『コロモ クサアゲル』
「ぎゃー、大きい怪獣が来たよー! 怖いよー!」
コロには悪いけれど、鶏達の動きにセリフがシンクロし過ぎていて、思わず笑ってしまう。
いつの間にか僕以外にもギャラリーが増えている。娯楽が少ないからね。こんな寸劇でも忘れていた何かを思い出させてくれる。
「こら怪獣! コッコを虐めるな! 俺のチャボビームが火を噴くぜ!」
牝鶏を庇ってコロに立ち向かうチャー坊は勇敢だけれど、チャボビームって何だよ?
「ちゃぼびーむって何ですか?」
「え? ああ、チャボビームはチャー坊の必殺技よ。あらゆる物を焼き尽くす無敵のビーム」
おいおい。
「あらゆる物を! 大変よ、コロ! 逃げないと」
『コロハニゲナイ ウケテタツ』
あーあ、コロが無意味に勇気を発揮している。この展開、どうするんだよ?
「しまったあ。チャボビームは一日一回しか使えない! 今朝オケラ大王をやっつけるのに使ってしまったあ」
明らかにホッとするコロ。いくらなんでも簡単に騙され過ぎだ。少し心配だな。
まあ、悪い人間に騙されないためにも、日頃からこうやって学習していく必要があるのか。
「さあさあ、オケラ大王だよ。一杯捕れたから、腹一杯食ってくれ」
秋山さんの登場だ。布袋をバサバサすると、ボトボトと太ったオケラが沢山落ちた。
鶏達は血相を変えてついばみ始める。オケラ達は地面に潜って逃げようとするも、電光石火で食われていく。
農家にとっては害虫なんだっけ。オケラも大変だ。
「そんなに美味しいのかしら?」
セーラちゃんもオケラは食べたことなかったのか? 鶏にとってはご馳走でも、人間にとって美味しいとは限らないからね。
『オケラ ヨワッ』
コロはオケラの戦闘力について学習したようだ。おそらく無意味なことだろうけど、それを決めるのはコロ自身だ。
こいつ、無意味なことは本当に良く覚えるからね。
「私、竹井さんってもっと怖い人だと思ってました」
「何よ! 久保の癖に生意気よ! ぶつよ!」
「竹ちゃんのクセに生意気ね。馬鹿な真似したら、私はその十倍ぶつからね」
やっぱり、梅木さんがいないと竹井は駄目だな。
根は悪い奴じゃないんだろうけどなあ。竹井に凄い力が与えられなくて本当に良かったと思う。