庭には鶏
「ミーさん、肉ありがとね。美味しくてびっくりしてね、本気で食用の牛を育てるって、村中で盛り上がったよ」
「それはどうも。あの、お腹の調子とか大丈夫でしたか? その、おならとか」
「何? 屁? そんなの誰も気にしちゃいないよ。お貴族様のお嬢様じゃあるまいし」
思わずカッシャの方を見てしまう。本物のお貴族様のお嬢様だ。
「我々は騎士になると誓った時から女など捨てている。美味い肉のためなら、お、おならなど屁でもないわ!」
いろいろツッコミどころの多いクッコロさんだよ。女を捨てたとか言いながら、おならと言うだけで真っ赤になっている。
「あたしまで一緒にしないでよお姉。女は捨てないわ! 肉も食べるけど!」
「わ、私もだ!」
「裏切ったなお前達!」
クッコロトリオはいつも面白いな。毎日こんな漫才を素でやっているんだから、録画できないのが残念だよ。なんかそういう魔法もあるみたいだけどね。
「騎士様だかなんだか知らないけど、あたしに言わせりゃあんた達なんかまだまだ小娘だよ。そこんとこ勘違いしないように!」
「ハッハイィ! 今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!」
仮にも元騎士が、老婆一人を本気で恐れている。何故だ?
当然、力ではない。力以外で人を従わせる手段があるのなら、勇者が相手でもなんとかできるかもしれないぞ。
「あ、ミーさん。頼まれてた鶏が手に入ったんだけどさ」
庭の隅に籠が伏せられている。中には小さな鶏が二羽。雄雌のペアだ。
「チャボですか?」
「名前は知らないけど、小さい鶏さね。肉は少ないけど、大人しくて飼い易い」
どうせ肉にはしないだろうし、問題ない。なんだかんだ言って、皆現代っ子だからね。動物の解体はハードルが高い。魚なら得意なんだけれど。
まあ、僕は、生きるためならやるよ。でも、アイナ村がある限りその必要はないんだ。
今日は一人で来たので、鶏もインベントリに入れてしまう。死んじゃったらアイナ村で肉にしてもらおう。まだ今はペットじゃない、ただの鶏だ。
「何こいつらちっさ! チャボ? だったら雄はチャー坊ね。雌はコッコ」
一瞬で竹井に名前を付けられてしまった。これでこいつらはペットだ。もう食べられないよ。
「うわあ、可愛い。今日の糸虫持ってきますね」
これからは森の小鳥達の食べ物が減りそうだな。
「菜っ葉の端っこ、はないから、何か菜っ葉を使う献立を考えなきゃ」
久保は本末転倒なことを言っている。
とにかくこうして、二羽の鶏は島に受け入れられた。イタチみたいな肉食動物もいるから、完全に放し飼いはできないけれど、結界の中なら大丈夫だ。
放っておいてもあまり遠くにいかないので、そんなに手もかからない。
そのうち卵を産んだら、食べずにひよこにして増やしてみようと思う。ああそうか、卵を食べてしまえば増え過ぎる心配もないんだな。