離反
「この僕に逆らおうとは、愚か過ぎるにも程があるよ」
「待ってくれ! 砂糖の次の入荷がいつになるか聞いただけじゃないか。教えてくれたっていいだろう? 元クラスメイトなんだし」
「まったく、いつまでも学生気分が抜けない馬鹿はこれだから困る。一度しか言わんぞ、良く聞け。勇者の元クラスメイトだということは名誉なことだが、権利ではない。僕が君達の生活を支援しているのも慈悲であって義務ではない」
「そんな言い方はないだろう! たまたま勇者に選ばれたからって、調子乗り過ぎなんじゃないか?」
勇者須田は、その言葉にカチンときた。以前の彼なら即座に殺していただろう。だが今となっては力に差があり過ぎる。コバエ以下の存在をいちいち相手していてはきりがない。
「お前だって、それなりの何かを与えられたんだろうに。現地人以下の役立たずなのは、自己責任以外の何物でもないな」
「今にみてろよ、俺だってなあ!」
「その意気だぞ。支援は打ち切るから頑張って生きるんだな」
「待ってくれ! 俺が……僕が悪かった。これからはキミの言うことに従うから、だから」
「あはは、気づくのがちょっと遅かったな。一瞬の判断が明暗を分ける。戦いとはそういうものだ」
笑いながら立ち去る勇者須田。睨みつける野村の顔は屈辱に歪むのだった。
「砂糖禁止令? 横暴だわ」
「須田の奴は、俺達の人権を無視する気なんだ。ただ飼い殺しにして、優越感に浸りたいだけなんだ」
「ここんとこ砂糖どころか肉も碌に食えないじゃん。丸イモとか家畜の餌食わされてんだぞ! こんなことなら賢王の方がまだマシだった」
「だけど、あいつ馬鹿みたいに強いからなあ。逆らったらソッコー殺されるぞ」
「だから逆らわなきゃいい。この町を脱出して、皆で協力して暮らそう。須田の奴も僕達の自立の邪魔はしないって。ちゃんと言質をとったんだ」
野村の暗躍によって、クラスメイト達は真剣に自立を考え始める。何より食事の質が低下したことによる不満が大きかった。野村以外は支援を打ち切られたわけではなかったのだが。
「問題は聖女様だ。神の国の連中は聖女様の力を利用している」
「聖女様を人質にして僕達を逃がさないつもりなんだ! なんて卑怯な」
真実の中に嘘もかなり混ざっていたが、須田憎しの流れの中で気にする者はいない。
いかにして聖女鈴木を連れて聖都を脱出するかに議論は終始したのだった。