肉をたくさん食べるとおならが臭くなる
女子達の態度がよそよそしい。なんとなく距離をおかれてる気がする。虐めか?
セーラちゃんまで僕が近づくと逃げてしまう。ショックだ。
秋山さんだけが普通に接してくれる。
「そりゃあ乙女の恥じらいって奴だ。おっと失礼」
爆音と共に放たれるおなら。ワンテンポ遅れて凄い悪臭だ。通常のおならの何倍も臭い。なんだろう? 臭さの質が違う?
失礼だと言っても失礼だよ。そんなだからデリカシーがないって言われちゃうんだぞ。
「食べ慣れない脂っこい肉をしこたま食べたからね。なんかオナラが止まらないんだ」
さらにプップーとリズムをとるように、おならを連発する。
そうか、肉のせいか。いくら美味しいからってさすがに食べ過ぎたよなあ。
サツマイモを食べるとおならが出るという話は有名だ。食物繊維が豊富だから、腸内で善玉細菌が活発になってガスが出るんだ。健康的なおならと言える。そりゃあ、おならだから少しは臭いけれど。
でも、秋山さんのこの匂いは異常だよ。悪玉細菌の仕業な気がする。
やっぱり野菜が少な過ぎたか。糸こんにゃく……シラタキも入れなかったしね。コンニャク芋は発見済みだけれど、収穫までめっぽう時間がかかるのと、コンニャクの製法を誰も知らなかったこともあって、先送りにしている。栄養はほぼないみたいだけれど、整腸作用は凄いらしいから、そのうち大量生産したいねえ。
「食物繊維豊富な野菜って、どんなのがあります?」
「やっぱりイモ類じゃないかい? それと寒天も多いらしいね」
イモか。やっぱイモだよねえ。ハンバーガーのお供にフライドポテトが定番なのにも、ちゃんと理由があったんだ。
よし、久保に頼んで肉じゃがにしてもらおう。デザートは寒天プリンだ。
腸内フローラル改善作戦は、完璧な作戦だと思われたのだが……僕と秋山さんは食堂に入れてもらえなかった。
屋外にテーブルを置いて、星の下で肉じゃがをつつく。
「こういうのもビヤホールみたいでいいねえ」
秋山さんは、前向き、とはちょっと違う。やせ我慢? なんとなく哀愁が漂ってる気がする。
「男は辛いもんなんだよ。君だって今にわかる」
いや、当面の問題はおならだろう。秋山さんがひっきりなしにおならをしているということは、症状は改善していない。
無臭化すれば済む話なんだけど、おなら魔法の対象は自分自身だからなあ。味方全体を対象にできればいいのに。そういう魔法はないものだろうか? あるかもしれないな。
毎日のようにレベルアップしてるし、新しい魔法もしょっちゅう覚える。最近じゃ面倒になって、勇者を倒せそうな攻撃魔法以外は放置していた。
とりあえず秋山さんで実験だ。
コンバートリンクⅠというのを試してみよう。対象のおならを対価に、HPを常時回復するおなら魔法だ。
「お腹の具合はどうですか?」
「そういえば、ゴロゴロ言わなくなってきた。腸内フローラル効果が始まったかな?」
よし、効いてる効いてる。とりあえず全員にかけまくるぞ。味方であればスクリーン上から指定できるから便利だ。ショートカットとか登録できれば便利なのに。
しばらくすると、天の岩戸が開いた。女子達がゾロゾロ出て来る。
「一時はどうなるかと思ったけど、やっぱ肉じゃがよね。ポテトは美容と健康にいいわ」
「寒天プリンが効いたのよ。プリンの偽物とか言って悪かったわ。腕のいいパティシエの手にかかれば、究極のプリンになり得るのね」
誰もおなら魔法の効果だと気づいていないようだ。おならが女子にとことん忌避られることが判明した以上、この魔法は誰にも知られちゃいけない。
あれ以来、イモが女子達の免罪符となった。肉だけを爆食いするのではなく、つけ合わせに大量のイモ類も用意する。
久保が味だけでなく栄養バランスまで追求しだした結果、牛肉とポテトが共演する素晴らしい新作メニューが次々に生まれた。
牛肉たっぷりのサツマイモの肉じゃが。肉サツマと呼ぶべきだろうか? 甘過ぎやしないかと危惧したんだけれど、口に入れて感動した。もはや肉じゃがではないのだけれど。肉じゃがのニュアンスはしっかり掴んでいる、そんな感じ。
あと、やっぱり糸こんにゃくがあればなあと思う。
根菜と牛肉ゴロゴロのトマトソース煮込み。竹井が超ハヤシライスと命名。ライスが無くてもいくらでも食べられるから、分類するならビーフシチューの一種だと思われる。
美味しくて栄養もありそうだけれど、野菜をたっぷり使い過ぎなのでコスパは悪そうだ。野菜の摂り過ぎだって良くないんじゃないかな?
肉を食べる量を減らせば問題は解決するのにね。でも、美味しいから食べたくなる気持ちもわかるんだ。
あと、シチューにコンニャクも合うと思う。豚汁のコンニャク美味しいもん。
そして牛肉だらけのビーフカレー。やはり大量の野菜が使われている。
一口食べると口の中がきゅうっとなって、唾液があふれてくる。そうなったらもう止まらない。素晴らしい味をゆっくり楽しみたいのに、体が勝手に貪り喰ってしまう。
つけた名前が大魔王カレー。究極にも程がある。
カレーにコンニャク、アリでしょう。どんな味がするか普通に食べてみたい。いくら煮込んでも溶けてしまわないのもコンニャクのいいところだ。
整腸作用が素晴らしいのみならず、美味しいんだからコンニャクは偉い。おかずのみならず、スイーツだって作れるしね。
これは、僕にコンニャク探しをせよということか? 野生のコンニャク芋の自生地は突き止めてるんだ。周辺を探索すれば、食べている民族だって見つかるかもしれない。
そういえば、糸こんにゃくって、ところてんみたいに押し出して切るんだろうか? 知ってるようで知らないことが多すぎる。