リハビリびりびり
「事情はわかったけど、働かざる者食うべからずよ。生きていきたいなら何か自分にできる仕事を見つけなさい」
竹井には甘々だった梅木さんが、久保には随分厳しい。
期待外れだったからだろうか? それとも大人しい子には強く出る大人の事情って奴かな?
梅木さんは馬鹿教師とは違うと思ってたのに。
来たばっかりの久保に、いきなり自分で仕事を見つけろと言っても、何をしていいかわからないだろう。
ジョブに関係する仕事をしてもらえれば一番助かるけれど、それが無理なら本人がやりたい仕事をしてもらえればいい。
干物作業は料理に通じるみたいで、久保のトラウマスイッチが入ってしまうみたいだ。
なら畑仕事かなあ?
耕したりする力仕事なんかは、レベルが上がれば楽勝なんだ。ただ、超人的な腕力に鍬の方がもたない。
力をセーブして、優しく効率よく耕せるようになるまでには、一体何本の柄がへし折られることだろう?
鍬の柄なんて安いものだし、別にいいんだけどね。
あ、そういえば最近は畑を耕すのはコロの仕事だった。本人は砂遊びのつもりだろうけど。
タマゴンに搭乗した竹井と一緒に、やりたい放題掘り返して山とかトンネルとか作っている。遊び終わった後に整地すれば、ふかふかの耕作地の出来上がりだ。
ため池や用水路も遊びの延長で作ってしまった。重機みたいなものだし、そりゃあ捗るよ。
赤松の結界で作っても良かったんだろうけど、島に埋まっている遺跡とかを傷つけないためにはコロの手作業の方がいいしな。
タマゴン関係では、竹井はむっちゃ働いてるけど、コロと一緒に遊んでいるようなものだし。遊びの言い訳に仕事してるよなあ。成果が出ているから別にいいけど。
楽しみながら働くとか、日本の労働者の皆さんに謝れとか思うよ。
赤松は最近はほぼ働いていないように見える。毎日、思いつくままに結界の修行をしている。
でも、島を護っている各種の結界は彼女が維持してくれている。貢献度としてはぶっちぎりだよ。
見た目で一番サボって見えるのは吉田だよな。
朝食の後で二度寝するし、昼食の後は昼寝するし、おやつの後は夕食まで寝てる。
仕事はプリンのダメ出し? まあ、吉田に関しちゃゴロゴロさせておけば、結構いろいろ役に立つからね。
セ-ラちゃんも遊び回っているように見えるけれど、虫取りや磯遊びは食材探しなんだ。遊ぶことが地母神への祈りでもあるんだ。
食事の準備も積極的に手伝ってくれるし、収穫も皆と一緒にやっている。
ああ、穀物の収穫作業は、総出でやるからね。慣れるまでは、ああいうのを手伝ってくれるだけでいいんじゃないかな?
吉田には何も言わない梅木さんが、久保にだけ厳しいのはちょっと解せないよ。
皆が嫌がる仕事としては、お金の勘定とか倉庫の管理とかもあるけどね。お茶っ葉とか香辛料とかでトラウマスイッチが入らないか心配だ。食器なんかも多いし。
「焦らなくていいからね。困ったことがあったら何でも言うといい」
優しく言ったつもりだけれど、怯えられてる気がするなあ。何も言わずにモジモジされると対応に困る。
『チッコイノ ダレ?』
『新入りの久保だよ。チビだからって虐めちゃ駄目だぞ』
空気を読まずに乱入して来たのは、コロと竹井&タマゴンだ。竹井って絶対に干物作りが嫌でコロと遊んでるよな? 最近干物は余り気味だから別にいいけど、そのうち梅木さんに怒られるぞ。
「ひいい」
間近にコロを見て久保は真っ青だ。そりゃあ当然だ。
『コロコワクナイ ダイジョウブ アソンデ』
「ああ、こいつはでっかい子犬みたいなもんだから。悪さはしないけど、うっかり踏み潰されないようにだけ注意して」
『シツレイナ コロ ウッカリシナイ』
『あれれ? さっき屋根に穴を開けたのは誰だコロ助?』
『ヒミツ ソレハ ヒミツナノ』
「コロ! 悪いことした時は?」
『ゴメンナサイ ワザトデハナイ ダケドアヤマル エライカラ』
あれ? 久保が笑った?
まあ、コロが相手じゃストレスは溜まらないからな。しばらくこいつらと遊んでるといいよ。
さて、僕はコロの壊した屋根の修理でもしますか。ついでに久保の家も建ててしまおう。
プライベート空間の確保って大事だからね。
不可侵の縄張りを守るために、生き物は時に命だって懸けるんだよ。
厨房の隅で震えて寝ていた久保には、安心できる自分の縄張りが必要なんじゃないだろうか?