カボチャ大学
「フハハハハ! 私は異世界の神となった! 農業の神だ!!」
あー、秋山さんが増長してるな。何かいいことあったんだろうな。
気持ちはわかるよ。自分で何かやって、達成した時の全能感は凄いもんな。
魔法の力があれば、普通じゃ難しいことも簡単にできたりする。所詮は借り物の力? 企画したり計画するのは自分だからね。魔法は便利な道具みたいなものだよ。
僕のおならカッターだって、丸太でも石材でもスパスパ切断できるけど、いい道具ってだけでズルじゃないと思うし。それで立派な家を建てるには、僕自身のセンスが重要だからね。
「神よ」
「神だわ」
「神ね」
甘くて香ばしい匂いがする。なんだろう?
女子達の評価が凄くいいぞ。こんなのプリン以来かもしれない。
あ、セーラちゃんがモグモグしている。あれは……そういうことだったか。
「大学イモかあ。懐かしいなあ」
「はいこれ。大学カボチャもあるわよ」
吉田が木の椀に取り分けてくれる。
まだほんのり温かい金色に輝く一切れを口に入れる。
うわあ、なんだこれ? 大学イモなのは間違いない。凄く普通に美味しいんだけど、なんというか、全方位に一段レベルが上というか……普通に凄く美味しいとしか言いようがない。
砂糖は使っていないのだろう。芋の自然な甘さと、コーティングしている水飴の甘さが、くどくなくていい感じ。
ホクホク感は素材のサツマイモがいいからだ。秋山さんの作るイモは、多少焦げていても生焼けでも、気にならないくらいに美味しい。
揚げるのではなく炒めたんだね。分厚いフライパンで余熱調理したみたいだ。
余熱調理に失敗はないというのは梅木さんの名言だ。おかげで世界中で鍋やフライパンを買い漁ることになった。なんだったら、ただの鉄板でもいい。厚みのある鉄板や石板の上で、分厚いステーキを焼けば、それだけで激ウマになるから魔法だよ。
そしてカボチャが、イモ以上に美味い。昔から、栗より美味い十三里って言うけれど、この大学カボチャは大学イモを超えている。
気がつくと椀のイモとカボチャは消えていた。もっと欲しい、もっと食べたい!
「まだまだあるわよ。食べ過ぎちゃう味だよねえ」
「おイモは美容と健康にいいのよ。食物繊維が豊富だから。アンチエイジングにもなるし」
「カロリーは運動して消費すればいいのよ。こっちに来てから贅肉とか無縁だし。毎日無茶体動かしてるし」
そうなんだよ。小さい島といっても、ちょっと移動するだけで数キロあるし。一番ゴロゴロしている吉田ですら、林と食堂を三往復してるんだから、陸上部並みの運動量はあるよ。
「幸せの味です。地球の文化は本当に素晴らしいです」
「違うわよセーラちゃん。食文化というものは、いろいろあってみんないいの。あなたの作ってくれたバッタの炒め物だって素晴らしかったわ」
梅木さんはやっぱり真面目だね。教師より余程教師らしい。
「わかりました。私も頑張って、イモムシのパンとか作りますね」
「ごめんなさいセーラちゃん。私がカッコつけ過ぎました。イモムシはホント無理」
あー、そういえばイモムシ食べたなあ。口に入れてしまえば案外イケル味だったけど、生きている状態でグロテスクだし、あれは触りたくもないよ。
まあ、セーラちゃんが料理してくれれば食わねばなるまい。美味しいのは間違いないし。
結局は慣れなんだよなあ。鶏肉で大騒ぎしていたアイナ村の新人三人娘も、今じゃ普通に虫料理まで食ってるし。
「秋山のオッサンが増長するのもわかるわあ。日本で店出せば行列できるレベルだし」
「調理魔法恐るべしよね。HP上昇のバフまでついてるし」
「え? そうなの? 魔法料理だったんだ」
「農家の田舎料理ですよ。日本に戻れたら農家レストランを開いて大儲けできますなあ。フハハ」
なんか、野菜限定の料理魔法みたいのに目覚めたみたいだ。
「料理魔法恐るべしね。本職の料理人だったら一体どうなっちゃうんだろう?」
「誰かいた?」
「メイドさんが料理魔法持ってるって聞いたけど、本職はいたかなあ?」
「非戦闘職なら、あたしらのグループに入れられてる筈じゃん? いなかったんじゃない?」
コックさんじゃなくても、秋山さんみたいにオマケで料理魔法を覚えるジョブはありそうだよな。
誰がどんなジョブだったかなんて、僕はほとんど覚えていない。
「いたわよ。久保さんが賄い方ってジョブだったじゃない」
吉田はしっかり記憶していたみたいだ。久保って、たしか、小さくて凄く大人しい子だったよな。ほとんど声を聞いたことがない。
「え? 賄い方って料理人だったの? てっきり帳簿つけたりするジョブだと思ってた」
「あの子、初日に賢王にどこかに連れて行かれたのよね。人探しの魔法に反応無いから、てっきり消されちゃったんじゃないかと思ってたんだけど」
「人探しの魔法に見つからない方法なら、いろいろある。古い寺院なんかの中に入ればいいとも聞いたよ」
「そうよ、そうなのよ。だとすると、怪しい場所は限られてくるわ」
「賢王ってまだ生きてるの? 国は亡びたんでしょ?」
「神の国の属国になって、王は城の地下に軟禁状態よ。あー、久保さんの居場所なんとなくわかっちゃったかも。多分、閉じ込められて料理を作らされてるんじゃないかしら」
「許せない! 助けなくちゃ!!」
皆の心が一つになった。久保に美味しい料理を作って欲しいって下心が見え見えだけれど、正義感もあると思う。
今の今まで久保の存在すら忘れてたんだけどなあ。
そして、救出となると、実際に行動するのは僕だよなあ。戦いは嫌いだけれど、囚われている女子を救い出すためなら是非もない。