増長
フハハハハ! 絶好調だ。
最大MPがいきなり倍近くなっただけでなく、魔法の威力そのものが三倍は超えている。
つまり、六倍パワーだ!
勇者とやりあうかもしれないんだから、戦闘力はいくら上がっても困ることはない。
「はあっ!」
片手を沖に向けて、火球を放つ。竜骸など一撃で蒸発だろう。この程度の技であれば、MPの自然回復量以下だ。つまり、無限に放ち続けることができる。
まあ、すぐ飽きるだろうし、眠くなるだろうから、無限には無理だな。一時間くらいは余裕だけど。
気になることといえば、僕の技は二酸化炭素を放出するものが多いということだ。最近、地球では二酸化炭素は絶対悪だ。宮沢賢治の時代には、二酸化炭素で世界を救うヒーローも許されたんだけれど、価値観は時代によって変わるから仕方ない。
ここは地球じゃないし、沢山の活火山が二酸化炭素を出しまくってるから、僕が放出する分なんて誤差の範囲だけどね。ドカンと一発噴火すれば、それだけで数年は世界中が異常気象になる。
増長したところで、僕一人の力では火山に到底及ばないのか。諸行無常を感じるよ。
それに、僕の場合は急激なパワーアップはデメリットも大きい。
おなら魔法そのものには、空を飛ぶ能力なんて無いからねえ。メタンを燃焼させて、推力を得ているだけだから。
結局、一から飛行訓練をする羽目になる。一度取った杵柄だから、そんなに難しくはないけどね。
復習することで、いくつかの問題点にも気づけたし。メタンが有り余っているのに、燃焼効率とか改善する必要があるかといえば微妙だけど、そこは趣味みたいなものだ。
墜落すれば痛い目にあうことを嫌という程思い知ったので、おならバリアーもさらに強化する。
弾道飛行が怖くなったけれど、死ぬ時は死ぬんだし。それに新鮮なミルクや卵も欲しいから。
十日ほど訓練して、再びアイナ村を訪れた時はちょっと感動。皆も喜んでくれた。
この世界じゃ行商人が不定期なのは当たり前なので、心配される程じゃなかったんだけれど。
そして、よせばいいのに、またプリンを追加で時間停止させてみた。
一度上手くいったからといって、次もまたそうだとは限らない。下手すると死んでしまうかもしれない。
そもそも、魔力って何なんだよ? エネルギー保存の法則とか完全に無視してるよね。未知への挑戦。危険を冒したがるのは、人間の性なのかもしれない。
結果は、やっぱり気分が悪くなった。前回の反省があるので、無理に飛んだりはしない。そのままベッドで横になっていただけだ。
女子達には病弱だと思われたみたいだ。前回より扱われ方が雑だった。事前に用意しておいた経口補水液を飲んで過ごしたよ。
体調が回復すると、最大MPは七割増しってところだった。魔法の威力は二倍強? 法則性がイマイチわからないけれど、お手軽に強くなれる方法ではあるよね。
でも、まだ気づいていないペナルティとかあるかもしれない。例えば、代償として残りの寿命が半分になるとか。ありがちだよね。
対価はあるかもしれないし、ないかもしれない。でも、これ以上この方法で強くなっても仕方ないだろう。
火力をいくら上げたところで、根本的な解決にはならないんじゃないだろうか? 電撃魔法を無効化する方法とか、そういうのを見つけない限り、勇者には勝てないと思うんだ。