時間よ止まれ
正直に謝ったのが良かったのかもしれない。アイナ婆さん達にプリンアラモードを無断で振舞った件は、とりあえず不問に付された。
その代わりに、オヤツ作り大会が始まってしまった。
いや、あのね。インベントリに入れて時間を止めておくの、凄くMPが必要なんですけども。
インベントリに入れておくと、お湯や氷の温度を長時間維持できることは体験でわかっていた。
数千円で買える保温ジャー程度の効果はある。逆に言えば、電気も魔力も使わずにそれだけの効果があるんだから、魔法瓶とは言い得て妙だ。
まあ、ただの発泡スチロールだって相当に保温効果はあるんだけどね。
ただし、インベントリーの効果はただの保温ではない。腕時計を借りて実験してみた結果、本当に時間の流れが遅くなっていた。魔力を大量に使えば、ほぼ時間を止めることだってできる。
コスパを考えれば、経過時間十分の一くらいがいい感じだよ。それでも賞味期限一日の生菓子が十日持つ。
インベントリに生き物は入れられないというのが常識だけれど、無理すれば入るようだ。安全装置を外す的な裏技? 少なくともバッタはちゃんと生きていた。
日常的にインベントリに出し入れしているコロに、中はどんな感じかと聞いてみた。
『クライ セマイ コワイ?』
あまり怖がっているようには見えなかったけど、まあ、暗くて狭いらしい。
コロは呼吸しないけど、バッタとか酸素はどうしてるんだろうね? 長時間入れておけば窒息して死ぬかもしれない。
バッタはどうでもいいけど、細菌とかの繁殖にも関わってくるから大事なことだ。
「できたわよ、追加のプリンアラモード2ダース。時間停止でよろー」
「いや、時間停止じゃないから。賞味期限十日だから」
「ま、十日もあればどうせ食べちゃうっしょ。余ったらあたしが責任を持って頂きましょ」
プリンに関しては吉田はブレない。何かにここまで夢中になれるなんて……とりあえず素晴らしいね。
プリンアラモードだけでは飽き足らず、クリームあんみつまで四ダースほど。何故かモンブランケーキまで渡される。
MP足りるかな? プリン一つ時間停止させるだけで、おなら気化爆弾1クラスター分くらいの魔力が必要になるんだよ。
最近はMPも天文学的な感じになってきていたけれど、あったらあったで結局使っちゃうんだねえ。
「熱いものもいけるんでしょう?」
梅木さんが焼き上げたエビグラタンを持って来た。30皿はあるぞ……
「ミルクとチーズが余ってたしー、昨日のムキエビ使っちゃわないとそろそろ駄目っぽかったしー」
梅木さんは最近、幼児退行というか女子高生退行してるね。そんなに違和感がないのが凄いけど。
梅木さんのためなら頑張るしかあるまい。それに僕もグラタンは大好きだよ。
考えてみればインベントリはおなら魔法でも何でもない。セーラちゃんは覚えたし。他の皆もぼちぼちって感じだ。
ただ、容量がMP依存なので、僕が一番上手くインベントリを扱えるんだ。
「それで、そのクッコロさん達は美人なのかなあ?」
花村が妙に笑顔でそんなことを聞いてくる。こいつは竹井より腹黒いからなあ、裏表があるという意味で。
なんだか女子達が一斉に聞き耳を立てている、ような気がする。何かの罠か?
「あの三人は、多分しばらくアイナ村にいると思う。今度行った時に会ってみるといいよ」
「チッ」
あれ? 今舌打ちした? なんでだよ?
最近わかったことがある。女子の言う美人は、男子のイメージするそれとはだいぶ違う。
クッコロ三人組は、なんか残念なお姉さん達だったけれど、顔立ちは整っていたし軍人らしく姿勢とかも良かった。黙っていれば美人で通ると思うけどさ。
女子的にはどういった評価になるかわからないし、自分の目で確かめるのが一番いいじゃないか。
どうも花村が期待していた答えとは違っていたようだ。そんなの知らないよ。
まあそうだね。クリームあんみつが余ったら、またアイナ村で振舞ってみるのも面白いかもしれない。
貴族階級でも碌なもの食べてないみたいだからね、リアクションが面白いよね。ちょっと悪趣味だけど、裏切られないようにするためにも意味のあることなんだ。