クッコロさんが通る
バッタを食べさせた鶏は極上の卵を産む。もうね、超美味しい。
日本でも一つずつ桐の箱に入れて売られていたお高い卵とかあったけれど、ああいうのって多分こんな味がしたんだろうね。食べたことはないけれど。
今日も生みたて卵を楽しみに、アイナ村へ向かう。
村上空で異変に気付く。イフリート、ミストルーン、アフロダヨンの三機が集合しているのは、そう珍しいことじゃない。だけど、その隣に神の国の聖鎧が三機、仲良く駐機している。
何かあったらコロが知らせてくれる筈だけど、特にそういうことはなかった。いや、何か訳のわからないことを言っていたか。特にヤバそうな感じでもなかったから、適当に聞き流してたかも。
最近はコロの奴も知恵をつけてきて、語彙とかも増えてるんだけれども、相変わらずわりと意味不明なことを言う。言葉を覚えたせいで、さらに難解になったかも。
見たところダメージを受けてるのは神の国の三機だけなので、戦って負けた訳でもなさそうだ。青く塗られているから、青の騎士団なんだろうな。青ボスは上品そうなお婆さんで、紅茶を沢山買ってくれたからいい人だと思う。紅茶代は無利子で貸し付けたんだけどね。
「くっ殺せ! こんなものを食べるくらいなら死んだ方がマシだ!!」
良く通る女性の声でクッコロしてるのが聞こえて来たので、お客さん達の居場所はすぐにわかった。
アイナ婆さんの宿屋の新築の離れだ。お客さんが増えた訳でもないのに、金回りが良くなった婆さんが調子に乗って建てちゃったんだよ。
覗いて見ると、青いパイロットスーツを着たお姉さん達が三人、アイナ婆さんに虐められているところだった。
鎧の下に着るパイロットスーツは、この世界の基準では体の線が出ちゃうので、異性に見られるのは恥ずかしいかもしれないな。
地球の基準じゃぜんぜんピチピチじゃないんだけどね。使われている布の伸縮性とかがそこまで良くないので、せいぜいジャージレベルだよ。
「入るよ」
一応声をかけてから入る。
「はしたない姿を男に晒すことになろうとは! 屈辱だ! くっ殺せ!!」
「申し訳ありません御師匠様! この馬鹿どもをすぐに黙らせますので」
「あー、もう、面倒なんでこれでも着せてやって」
島で使ってる麻の作務衣モドキを三着出して渡してやる。結構スケスケなんで、女の子がこれだけ着るとむしろエッチっぽいんだけど、クッコロさん達的にはOKみたいだ。
「それで、何があったの?」
どうやら正々堂々と一騎打ちを挑まれて、三人ともワンパンで倒したらしい。
ライルは一応騎士だったけど、リシアさんとイステアはほぼ素人だったのに。まあ、短期間で随分強くなったね。
「あんなのズルいです。竜骸の、聖鎧の性能の差ですよう」
クッコロ三人組のちっこいのが文句を言う。
「何を言うか! 竜骸で戦う以上は当然それを含めて実力である」
ライルがいいこと言うよ。たまにポンコツになるけど、こいつって基本しっかりしてるから。
「それで、何故拷問してたの? 何か秘密をはかそうとしてたとか?」
「いえ、秘密は、その、簡単に白状したのでありますが。この者達はアイナ様お手製の鶏の水炊きが食えぬと」
鶏の水炊きって、言ってしまえば鍋に鶏肉と野菜を入れて煮るだけの料理だ。誰でも思いつきそうなのに、この世界では知られていなかった。
僕が教えたら、アイナ婆さんは水炊きにハマった。白菜ではなくカブの葉だったりするけど、普通に美味しい。
「鳥は二本足ではないか! そんなものを口にすれば地獄に堕ちよう。くっ殺せ!」
「ミー様がお食べになるのだから、そんなのは迷信だ」
そういやライルは普通に食べてたけど、あれって僕が食べてたから? なんか師匠としてすごく信頼されてるなあ。
「あー、アイナさん、丸鶏ありますか?」
首は落とされ、内臓は抜かれているけど、翼が外されていないからまあいいか。
「いいかい、鳥は四本足なんだ。空を飛ぶために前足を翼として使ってるんだ」
骨を見せながら解剖していく。外した肉はあとで水炊きにして食べよう。
「なんてこと、本当に鳥の翼は前足だわ! 骨で見ると良く分かる」
「そもそも四つ足しか食べないなんて、人間が馬鹿なだけだよ」
あー、そうだった。人間が鳥や魚を食べない方が、資源は保護できるんだった。
「これは秘密だから。絶対誰にも言わないように」
「こんなことが言えるものか! 異端審問にかけられてしまう」
やっぱりあるんだ異端審問。
でもまあ、三人は納得したみたいで、皆で水炊きパーティーした。
「鳥がこんなに美味だったとは! ウミガメより美味しいかもしれない」
いや、ウミガメ食べるなよ。美味しいせいで乱獲がたたって激減している。卵を掘り出して食べちゃうのが駄目だよね。
あれだけ嫌がっていた鶏肉を、最後は競い合うように食べていた。この三人、実は結構チョロい?
こうなったらアレをアレして絶対逆らえない体にしてやろう。
最終兵器、それは、プリンアラモードだ! 美味しいだけじゃなくて、見た目の豪華さが半端ないんだよなこれが。
今日の皆のおやつだけど、数は余裕を見て作ってある。おかわりができなくなるだけだ。
「これはっ! これが魔族の食べ物ですかっ?」
「ミー様の英知のなせる御業であるっ! 頭が高い! 跪け!」
アイナ婆さんまで魂を奪われたようになっている。リシアさんやイステアも顔を赤くしてハアハア言ってるし。
「もう、いつ死んでもいいよ。くっころ……いや、ぷりんあらもーど! もっと食べたい!!」
計算通り、我が策成れり! でも、僕の優秀な頭脳が、おかわりのできなくなった女子達の怒りを予知しているぞ!
どうしよう? 今から作って間に合うだろうか?
プリンは、もっと大量に作ってストックしておくべきものだ。魔力消費は半端ないけど、インベントリの時間経過を超遅くできなくもないんだ。時を止めて、賞味期限無限のプリンをため込めば……
仕方ない。プリン量産計画を発動して誤魔化そう。キャッチコピーは『好きなだけおやつをおかわりできる幸せ』うん、これだよ。