早期警戒レーダー
やばい、セーラちゃんが泣きそうだ。
僕だって悲しいよ。せっかくみんなで作った干しバッタが全部吹き飛んでしまったんだからね。
味見して凄く美味しかったからなおのことだ。
許せないな、黒の騎士団。僕が吹き飛ばしたのが九割以上だけど、そもそも奴らが来なければバッタは無事だったんだよ。
頭で理解していても、感情というのは時に論理的ではない。このままではセーラちゃんに嫌われてしまうかもしれない。どうしよう。
「そうか、足して引けばいいんだ」
赤松が何やら訳の分からないことをブツブツ言っている。ここは彼女に乗っかろう。
話題を切り替えて有耶無耶にする作戦だ。その後はセーラちゃんの大好きなアイスクリームで悲しいことは忘れてしまおう。
「足して引くと、どうなるの?」
考え事をしている最中に、邪魔されると腹が立つことがあるよね。だから慎重に聞いてみた。
「うーん? 早期警戒レーダー?」
「いいね、早期警戒レーダー。今の僕らに一番必要なものだよ」
「やっぱりそうよね? あたしって天才」
僕もおなら魔法でレーダーが作れないか考えたよ。でも、おならは電波を出さない。結界魔法と電波も関係なさそうだけど、足して引く? まったく想像がつかない。
「じゃーん、これがその結界でーす」
いや、手を突き出されても、赤松の結界は僕達には見えないし。
おならスモークを出せってことかな? コップの水にドライアイスを入れてフーフーする。
白い煙は素通りしていく。
「まんまと騙された。結界なんてなかったし」
「結界はありまーす。何の効果もないだけでーす」
何の効果もない結界かー、そう来たか。
「なんか哲学的だけど、それって意味あるの?」
「範囲指定するだけだから、MPをほとんど消費しなくてお得感がある。あと、結界に何かが出入りするのがわかるよ」
「なるほど、だからレーダーか」
「簡単じゃないのよ。結界を少しズラして二重に設置するでしょ。そうすると通った物の大きさがわかるじゃない」
「なるほど。何メートルか離れている結界を同時に通過するものがあったら、それが竜骸ってことか」
島から100kmほどを、ぐるりと二重の結界でカバーするんだそうだ。
「どうせなら50㎞くらいの辺りにもう一セット設置しない? 大変?」
「あ、そのアイディア頂き! 10㎞刻みにチェックしよう」
「ああ、通過する物体の大きさだけじゃなく、移動スピードも計測できるのか」
「ミー君天才! 凄く早期警戒レーダーっぽいじゃない」
赤松は早期警戒レーダーって言いたいだけな気もするけど、確かにそれっぽい感じになってきた。
「なるほど、敵が島に近づいて来たら、スクランブルをかけて警告するわけだね。これで無駄な争いをせずに済むということだ」
秋山さんは何を言ってるんだろう。スクランブルをかけたら撃墜するよ? 竜骸のオーブだけ頂いて、中の人は海の藻屑にするか、身ぐるみ剥いで惑星の裏側に放り出そう。
こっちに余裕があるうちは殺さずに済ませたいけど、数が多かったら焼き払うしかないもんね。
「駄目だわ! どうしよう? 距離はわかるけど、方位まではわからないわ」
赤松がまた悩み始めた。ああ、半球状の結界を考えてるみたいだね。
「大丈夫。いい方法があるよ」
インベントリからホールのチーズケーキを取り出して、人数分に切り分ける。
あ、セーラちゃんがニコッとした。いいよね、レアチーズケーキ。今夜のデザートの予定だったけど、おやつに食べちゃおう。
「ああ! そういうことね。ケーキみたいに切り分ければいいんだ。簡単じゃない」
コロンブスの卵だよ? 簡単なことでも気づかない時はいくら考えても気づかないんだから。
早速、赤松が早期警戒結界を展開し、海上を移動中のバッタの群れを発見。
やっぱ捕まえるのね? セーラちゃんの笑顔のためだ。
あと、そう、美味しい卵のため。特上の卵が手に入ったら……やっぱり卵かけご飯? スキヤキもいいかなあ。イノシシ肉のスキヤキなんて変化球もいい。ボタンスキヤキだよ。