侵略者達
咄嗟のことに、どう対応すればいいのかわからなかった。
おならで焼き払うのは簡単だ。でも、ただ近くを通っただけの相手を殺しにかかるのは、どう考えてもおかしいよ?
あれこれ考えている間に、二機の聖鎧が住居前の広場に強行着陸してしまう。干してあるバッタがかなり吹き飛ばされた。
残りの一機は上空を旋回している。空から支援するつもりか。この三人、手慣れてる感じがする。
「ワハハ、私が一番乗りだな。この島は私の領地だ」
何言ってるんだコイツ? コクピットから飛び降りたのは、アメコミヒーローみたいな金髪の暑苦しい男だ。あっちのアニメとかだと、こういうタイプが王子様役だったりするからなあ。美的感覚が違うんだな。
「ちょっとあんた達! どこに降りてきてんのよ。せっかく干したバッタが台無しじゃない!」
竹井の奴、物怖じしないな。馬鹿でも極めればカッコイイかもしれない。一瞬そう思った。
だけど男の反応は想像の斜め上というか、ほぼ脊髄反射でヤクザキックを繰り出して来た。
わりと隙だらけな蹴りなんで、勢いに乗る前に足首でも掴んで捻り上げてやれば、なんとでもなりそうだったけど……竹井は見事に蹴り飛ばされてしまった。
「虫を食す野蛮な原住民が、高貴な私に近づくんじゃないよ。見せしめに何人か殺せ、誰がご主人様か教えてやるのだ」
後ろの聖鎧が竹井に杖を向ける。こいつら躊躇ないなあ。
おならバリアーでカバーしようとしたら、すでに赤松が結界を張っていた。これなら大抵の攻撃は防げるだろう。
『キーック!』
え?
いきなり飛び出して来たコロが、蹴りを入れてグシャッと聖鎧を潰してしまった。
「いいぞコロ助! なんだよこいつら無茶よわっ」
蹴られても相変わらず竹井だった。
「ひいいっ」
慌てて聖鎧に乗り込もうとする男。だが、結界に捕らえられている。
「飛んでる奴はミー君お願い」
あ、ああ。上空の一機はすでに逃げに入ってるな。情けない奴だけど、適切な状況判断と言うべきか。
島のことを知られたからには、逃げられると厄介だ。
バフなしなら、クラスター一つ分のおなら気化爆弾で足りるかな?
「クラスターワンッ」
右手を空にかざして呪文を唱える。ポーズも呪文も必要ないけど、カッコイイのは大事なことだ。
空に光り輝く大火球が出現し、数秒後に耳をつんざく爆音、そして吹き付ける突風。ああ、干してあったバッタは全て吹き飛んでしまった。
当然、聖鎧は影も形も残さず蒸発してしまった。火力調整のミスだ。おなら気化爆弾単発でも十分だったかなあ。
聖鎧をパイロットごと潰しちゃったコロを叱ろうと思ったのに、僕まで人殺しをしちゃったんじゃ叱れないじゃないか。
「す、凄い! 核兵器並みじゃないか」
秋山さんは分かってないなあ。キノコ雲ができれば核兵器とか思ってそうだ。ただのメタンガスと酸素を燃やしただけなのに。
でも気をつけよう。今回は少し近すぎた。最低でも十キロは離れて使うようにしようと心に誓うのだった。
「あ、コイツ漏らしてるよ。ダッサー! クッサー!」
結界内に囚われている金髪男は、腰を抜かして悲惨なことになっていた。
「このまま燃やして海に捨てちゃう?」
赤松が凄く嫌そうだ。漏らしたのが結界の中で良かったじゃないか。
「お助けください! 私が悪かった!! あなた方こそ真の勇者様だ! 救世主様ですっ!!」
「胸糞悪いなあ、やっぱこいつ殺そう」
竹井を蹴飛ばしたツケが回って来たな。
「待ちなさい。無抵抗な者を殺すのはどうかと思うんだよ」
「おお! あなたは話が通じるようだ。哀れな虜をお助けくださいませ!!」
「秋山さんって、やっぱ馬鹿なのかな?」
「待ってください、私、試してみたいことがあるんです」
羽山の思わぬ提案で、男の命は救われることになった。
「いいですか、あなたは何も見なかった。お仲間達は事故にあいました。どこか遠くの海で、大ウミヘビにでも呑まれたんですよ、きっと」
「は、ハイ。私は何も見ておりません。騎士の名誉に誓って!」
「別に誓わなくていいです。あなたが私を裏切ろうとした瞬間に、あなたは死んじゃうので」
虫使いの羽山が操れるのは、昆虫だけじゃなかったみたいだ。元々男に巣食っていた寄生虫を支配下に置いて、生殺与奪を握ってしまった。
上手くいくとは限らないけれど、この男を殺したところで捜索隊とか出されると面倒だし。羽山に任せて様子を見よう。
戦争になったらなったで、こっちから聖鎧を壊しに行けるならむしろ有利かな。
島への奇襲が一番困るし、今度から近海に近づく聖鎧は全て焼いちゃうか? レーダーみたいな魔法があればいいのに。
聖都ごと焼き払うのが一番簡単だけれど、住民は悪い人ばかりじゃないんだよ。難しいね。