ユニークジョブはおならマスター
クラス召喚って本当にあるんだなあ、とか。
なんでわざわざ修学旅行の最中を狙うかなあ、とか。
観光バスの運転手さんやバスガイドさんは巻き込まれたんだなあ、とか。
召喚された直後は、とりとめもないことをいろいろ考えていた。
少し落ち着いてくると、大変なことに巻き込まれたもんだと、なんだかとっても怖くなってきた。
そりゃあ、ラノベの召喚物はたまに読むよ。でも、実際に自分がモンスターと戦いたいとは思わない。
野良犬相手だって怖いのに、ドラゴンと戦うとか頭おかしい。それなのに、喜んでいるクラスメート達。
大学受験や就職は大変だから召喚されてラッキー、とか浮かれているのが信じられない。
イージーモードからヘルモードに難易度変更されたのがわかんないのかな?
で、キンキラの派手な服を着た神官っぽい人が、僕たちのステータスを読み上げ始める。
みんなはもうお祭り騒ぎだ。
そりゃあ勇者とか聖女とか凄いよ、でもそれは、敵もそれだけ強いってことじゃないか。
しかも全員が勇者ってわけでもない。二流どころが魔法使いや僧侶で、戦士や武闘家は三流扱いみたいだ。異世界カーストかよ。嫌だなあ。
ラノベとかだとこういうのってスクールカーストと同じってパターンが多いけど、顔ぶれを見るとほぼランダムに選ばれている感じがする。
何人かは明らかに不服そうだ。勇者や聖女をやりたいんだろうな。こりゃあひと悶着ありそうだ。
負けず嫌いなのは悪いことじゃないと思うよ。そういうのでモチベーションを高める人だっているだろう。クラスメートは手頃なライバルだしね。
でも、何も今じゃなくていいと思うんだ。何故誰も元の世界に戻れる方法を聞かないんだ?
生徒はともかく、賢者になれたとか浮かれてないで仕事してよ先生!
仕方がないから僕が質問してみようか。勇気を出して前に進み出る。
「そなたのジョブは……お、おならマスター! 聞いたことないぞ、ユニークジョブじゃな。すかしっ屁が得意とな? ふふふ、あはは、ゲラゲラ」
神官の爺さんが僕の顔を見て腹を抱えて笑い出す。失礼な。
なんか今のでステータスの出し方のコツがわかった。ウインドウを開いてみると本当におならマスターだった。
周囲は爆笑の渦だ。
皆が笑ってる。先生もバスガイドさんも王様もお姫様も。
「ぷげらー、おなら男は噛ませ犬にもなりゃしない!」
こいつ誰だっけ? 名前は忘れたけど、不良グループの下っ端君だ。なんでそんなに楽しそうなんだ? 家に帰れないかもしれないのに。
全然面白くもない発言なのに、何故か周囲は大爆笑だ。おならと言えば笑うのか? 今どき小学生でもおならネタで笑わないぞ!
「おならを笑うなよな。人は誰でもおならをする。おならを笑っていいのは、生まれてから一度もおならをしたことのない奴だけだ!」
僕の発言に、一瞬辺りは静まり返る。
「おならプー」
沈黙を破ったのは誰かのウケ狙いのギャグ。こんなのギャグって言えるのかな? 幼稚園レベルだぞ。
だけど堰を切ったように皆笑い出す。特にクラスメイト達は、ヒステリックに、必死に笑っている。
なんだよもう。一周回ってなんだかこいつらが哀れに思えてきた。笑った奴ら、もう一生おならするなよな。
さんざん笑われた後、あっさりお城の裏口からつまみ出された。本当は役立たずは殺されてしまうみたいだけど、ゲラゲラ笑われて終わりだった。
おならじゃ脅威にならないもんな。ザコ過ぎて憐れみを買ったみたいだし。あれ? 中途半端に強いよりいいんじゃないか?
だけど異世界に無一文で放り出されたんじゃ、どのみち野垂れ死にするしかない。
僕のステータスはこの世界の村人以下。だってただの村人でも畑仕事で筋肉ついてるし。腕とか凄く太いし。
力はない。一応魔法は使えるけどランク0のすかしっ屁だけ。おならでお金儲けは難しいよな。
街並みを観察したところ、どっちかといえば西洋風? そしてかなり不衛生だ。
おならをしなくても街中がなんとなく臭い。道端に普通に動物の糞が転がっている。
王様達はよく僕のことを笑えたもんだよ。
建物はほとんど平屋だな。二階建てが少ないから遠くの方まで良く見える。屋根の向こうを帆柱がゆっくり動いていく。あっちに港でもあるのかな?
ん、港? 外国! 閃いた。
急いで港に向かう。別に船乗りになりたい訳じゃない。海の男は力仕事が多いから僕には無理だと思う。
でも、通訳ならできるんじゃないかな? 異世界の人の言葉を普通に理解できるんだ。テレパシーのような能力を与えられているに違いない。
英語が苦手だったから、それがどんなにチートな能力かはよくわかる。おなら能力よりよっぽど役に立つ筈だ。
通訳と言えば高給取りなイメージがある。しかも二か国語だけでなく、あらゆる言語が理解できるんだ。凄腕通訳として大活躍できるよ!
「ワターシはスゴーイ通訳アルヨ。ドコノ言葉でもペラペーラよ! 正味の話儲かりまっせ!」
人通りの多い酒場の前で、怪しげな外国人風喋りでアピールしてみる。
この世界じゃ珍しいジャージ姿で目立っていたのも良かったのかもしれない。すぐ貿易商の船に乗せてもらえる話になった。
小さな木造帆船に乗り込むと、期待していた扱いとは違った。荒くれ男達と一緒に、汚い部屋にぎゅうぎゅう詰めに押し込まれてしまう。
ひょっとして奴隷にされた? 奴隷商人にでも騙されたのかもしれない。
でもまあ、奴隷でも食事くらい貰えるだろう。野垂れ死ぬよりはマシだと思う。僕の考えは甘いかな? 異世界舐めてるかな?