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色々  作者: 横井 竜胆
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8. 手紙案文、宛名なし。令和4年6月

 僕にも14歳の時があって、四六時中何もかもが気に食わなかった。

 悪いことがかっこいいと思っていて、理由もなく悪態をついていた。

 おまえの部屋の衣装棚の古ぼけた小さいな穴は、何となく力任せに殴った僕が空けたんだ。

 もう20年以上も前のものが残っているのがどうしようもなく恥ずかしいけど、今に至るまで買い替えはしなかった。


「ぶっ殺してやる」

 そう叫んだところで、そんなことをする度胸はおまえにはないよ。

 違うな、それは度胸じゃなくて、臆病とかそういう類の感情だ。

 臆病だから殺すと言ってたんだよな?

 そう言って笑ったよな?

 仲間だと思ってた、同じように臆病な連中と一緒に。

 全然違うよ。

 あいつらは仲間じゃなくて、ただその場にいて寂しさをしゃぶり合ってただけ、たまたま月単位、年単位でそこに居合わせただけの行きずりの他人だよ。

 寂しくないのなら、臆病じゃないのなら、度胸があるのなら、気に食わない誰かを殺そうだなんて思わない。

 生き死に以外の決着を選ぶだけの度量があるはずなんだから。


 あと4年の辛抱だから、我慢しろって言ったって、きっとおまえには待てるような気がしないんだろう。

 それでも僕は今のままのおまえを誰かの手に委ねたいだなんて思えない。

 一人で生きていくのは大変だって、学校の先生も言っていたと思うけど、何が大変なのかって誰か教えてくれたか?

 バランスよく飯を食べて、毎日身支度を整えて、風呂に入って、体は清潔に保って、週に2回は洗濯機を回す。

 洗濯物はすぐに干す、それもできるだけすぐ乾かす。

 乾燥機を使えばすぐだけど、その分も金もかかる。

 掃除はしないとほこりがたかって、それでもほっとけば家に帰る度に花粉症にかかったみたいになる。

 だから最低でも週に2回は掃いて拭く。

 そうしないといけないけど、忙しくてできないよな。

 別に忙しくなんてないけど、掃除をするような暇はないよな。

 そういうもんだよ、若いってのは。

 だからそういうことを学べりゃいいんだけど、そんなことをしている暇もないように思うんだよな。


 何をしても誰も何も言わないのが気楽で外食ばっかり。

 栄養のことはともかくとして、そりゃあ財布には優しくはないわな。

 もう30年くらい不況が続いているこの国じゃ、節約ってのがかわいいと並んで正義なんだよ。

 でも節約の仕方なんて学校じゃ教えてくれないし、家計管理のやり方も身に着けるのに時間がかかる。

 数万円、十数万円なんてすぐに生活必需品に化けて、空気吸うまにまに宙に溶けて消えてなくなるよ。

 おまえは働かなきゃと思うかもしれない。

 それで出入りし始めたバイト先で、理不尽な敵意や悪意や隔意や加虐心に初めて晒される。

 昔、おまえの周りにいた優しかった人たちはどこにもいない。

 みんな自分の都合で生きてて、みんな時間を金に換えに来てて、みんな自分の都合を押し付ける。

 それでおまえは押しつぶされて、世の中を憎みはじめるかもしれない。

 昔、おまえの周りにいた優しかった人たちはどこに消えてしまったんだろうって?

 あれはおまえのことを愛していた大人が、おまえのために必死になって作り上げた優しい世界だったんだよ。


 ふざけるなって思うこと、それ自体は咎めない。

 それでも誰かを殺して、何か解決になんかなりゃしない。

 何かを壊す銃とミサイルじゃ、何も作り上げることなんかできやしない。

 新聞もテレビもインターネットもSNSも、声を大にしてそんなことは言わないけどさ。

 僕が14歳の頃に欲しかったのは、生き死に以外の決着を選ぶだけの度量が僕にはあるっていう誰かの言葉だった。

 おまえが同じ物を欲しいかどうかは知らない。

 でも僕に言えるのはそれだけだから、どうか繰り言になるのを許してほしい。

 おまえが僕の作った優しい世界の外に出ていく時、傷つくのも構わないと強がって笑ってみせる時、願わくば寂しくなく、臆病でもなく、度胸と度量が心の中に末永く残りますように。

 悪意に押しつぶされて、世の中を憎んだ後も、それでも優しい世界を他の誰かのために作ることを選ぶだけの余地が残されていますように。

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