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色々  作者: 横井 竜胆
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6. 不思議炸裂★アムールハイパー!!

アムールハイパーというのは、どうやら私の双子の弟の別人格であるらしい。


私と弟は二卵性双生児で、割に見た目が違う。

弟はなんとゆうか、絵に描いたようなモデル体型のイケメンで、でも中身はガチ寄りのライトオタクである。

見た目と中身のギャップに折り合いがつかず、彼には高校卒業まで仲のいい友達がいなかった。

クラスの人気者たちは、顔はいいけれどコミュ障すぎる弟と付き合おうとせず、趣味が同じなはずのオタクくん達は弟のイケメンすぎるところに若干どころかかなり引いていて、仲良くなれなかった。

異性交遊という方面で言えば、たまに弟の外見に目をつけた先輩が私に弟を紹介するよう言ってくることがあった。

そんな時には断り文句を捻り出すのに苦労した。


「うちの弟、ドがつくほどのコミュ障なんです。」


体も態度もデカくて顔がバカ広いと評判だった私がそう言っても、あまり信じて貰えなかった。

それで、仕方なく私は弟をファミレスに呼び出し、にやにやしてる部活やらバイト先やらサークルの先輩に弟を紹介するのだが、弟はもう、なんというか、文字通り挙動不審で、まるで飼い主から捨てられた子犬のようにキョロキョロするばかりだった。


「なんで姉ちゃんは、怖そうな女の人ばっかり僕に紹介するの?」


いつだったか、弟からそう聞かれたことがあって、その時は悪いなあと思った。

でも、弟は見た目だけはその辺のモデル顔負けなので、彼への秋波はその後も誰からともなく寄せられ続け、私はその度に弟をファミレスに呼び出した。

産まれたての子鹿のようにフルフル震えながら、ハイエナのような目つきの、メイクの濃い年上の女子に舐めるような視線を向けられる弟。

それを横目に、先輩の奢りでハンバーグ定食やら牡蠣と秋野菜のドリアやらを食べるのが、あの頃の私の日常の確かな一部だった。

弟よ、すまん。

おかげで姉ちゃんは縦にも横にもすくすく大きく育ったよ。


そんな弟は、高校卒業後に進学した専門学校在学中にコスプレに出会い、おっかなびっくりしながらレイヤーの世界に足を踏み入れ、ようやく何人かの友達ができた。

レイヤー女子たちは弟のことをよだれを垂らして尊がりはすれども、肉食動物が獲物を狙う目で見たりしなかったのが良かったらしい。

弟も、歪んだなんちゃら癖を思う存分話し合える同年代の同性の友人にそこで初めて巡り会ったようで、一時期はそれなりに楽しそうにしていた。

私には20前後の男子が延々とイソギンチャクや吸盤の話で何時間も盛り上がれるのが理解出来なかったが、随分明るくなったのでそれはそれで良かった。

ところが、仲良くしていたオタク友達の彼女が弟のことを好きになってしまったという、大変しょうもない痴情のもつれで、弟はやっと見つけた同性のお友達を失くしてしまったのである。

弟よ、すまん。

正直姉ちゃんには、アンタも友達もその彼女も、全員バカじゃないかとしか思えなかったよ。


それから、弟はレイヤー友達の伝手でインスタ専門の素人モデルになり、孤独を深めながら世を儚んで暮らすようになった。

素人モデルなんて金にならないから、専門学校で取った資格を活かして就職しろと私は言うのだが、弟は聞く耳を持たない。


「僕はさ、そのうち灰になって消えるんだからいいんだよ。

そしたら姉ちゃん、僕の灰を海に撒いてよ。

南の島の、綺麗なとこにさ。」


そんなアホなことを言う弟は、綺麗な南の島に行くための旅費のことなんか口にしない。

南の島に灰を撒くのが法に触れるのかどうかも考えてないのだろう。

でもそんなことより、灰になりたいだなんてとんでもないと、ガサツではあれども優しかった姉を自認していた私はその時本気で弟を叱り、ついでにその頃通っていた総合格闘技のジムで教わったばかりの絞め技を軽くかけた。

そうしたら弟は驚いたことに、あっさり私の絞め技を外して、儚げに笑った。


「姉ちゃん、僕、割と本気だよ。」


腹が立ったので、本気を2割増しにして三角絞めをかけてしまった。

弟よ、すまん。

それでも姉ちゃんは、大事な弟がそんなバカなことを言うのが見過ごせなかったんだよ。


どうもその時の本気割増しの三角絞めが良くなかったのか、それから弟は私にアムールハイパーの話しかしなくなった。

アムールハイパーがどうした、アムールハイパーがこうした、と、こっちの知らないことをさも知っているかのように言う弟。

それに戸惑う私。

新しく始まった漫画かアニメなのかと思い、ネットで検索をかけたのだがまったくヒットしない。

唯一引っかかっるのは、「不思議炸裂★アムールハイパー!!」というTwitterのアカウントで、そこでは悪い愛のパワーで世界征服を目論む悪の組織と日々戦う影のヒーロー、アムールハイパーの葛藤やぼやきが延々と呟かれていた。

フォロワーはたったの3人しかおらず、うち2つは絶対フォロバするbotだったので、実質的なフォロワーは1人である。

そのフォロワーとアムールハイパーは相互フォローの関係にあり、お互いのツイートを頻繁に引用したりリツイートしている。

フォロワーのアイコンは、弟によく似た顔立ちのレイヤーがコスプレしている写真だった。


「アムールハイパーも頑張ってるから、僕ももうちょっとだけ頑張ってみようかなあ」


そんなことを言う弟の声を聞いたその日のアムールハイパーのツイートは、悪の組織の悪い愛のパワーに対抗するために「こんにちは赤ちゃん」を大音量で流しながら街をドライブしていたら警察に注意されたとか、そういう感じの、何を頑張っているのかわからない内容だった。

弟は本当は大音量で「こんにちは赤ちゃん」を聞きながら街を爆走したいのだろうかと聞こうと思ったのだが、それから弟には連絡が取れないでいる。

アムールハイパーのアカウントの呟きは止まらない。

ラブホテル街の路上で真実の愛を訴える動画を撮影するからカメラマンを募集するとか、オリンピックで配られたコンドームに穴を開けるイベントをやるので参加者を募ったりだとか、不穏な内容の呟きばかりだ。

弟よ、すまん。

このままだと姉は心配だから、アムールハイパーにクレームのDMを送ってしまうかもしれないよ。

おまえのせいで、うちの弟が変なやる気出してるけどどうしてくれる、って。

その時アンタは、どっちの人格で返信してくれるんだろうか?

正直、アムールハイパーと話し合うことは、うちの可愛い弟を返せってこと以外、何もないんだけどな。



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