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運命の始まり(視点:エリザ)

「これは……酷いな」


私が到着した現場は凄惨としか形容する事が出来なかった。


昨日、とある貴族が私たちに助けを求めた。そして半日かけて向かった森の入り口は、血に染まっていた。


「キケロ卿、グルータス卿、バルト卿……」


貴族院の中でも位の高い貴族。それ以外も上位貴族やその従者たち。彼らは全員が血の海に染まっていた。


「これは、何があったんですか!?」

「お、『鬼』だ。白髪の初老の『鬼』が貴族たちや従者、目についた連中を片っ端から殺していったんだ……!」


『鬼』……?他種族が何故私たち人族を殺すことが出来る……?彼らの首には人族に対して危害を加えれないよう首輪が装着されている筈だが……。


「他に何か分かりますか、グエン卿」

「し、知らん!私は何も知らん!」


……ダメだ。グエン卿は精神的なショックで何も冷静さを欠いてしまっている。


「エリザ一等騎士。森の中にも死体が……。そして、奴隷たちの死体も。恐らく、ここは……」

「ええ。ここは領主様の『狩猟場』でしょう」


奴隷を獣として使った金持ちの娯楽の一つ。そこで何かしらのトラブルが起きて奴隷の首輪が外れ、一掃したといったところでしょう。


「とりあえず、生存者がいないか確認するよう探索し、奴隷たちの死体は処分して下さい。私はここでもう少し調査したいと思います」

「わかりました」


部下たちが森の中に入っていくのを確認すると私は小さくため息をつく。


神様に転生させて貰い、この世界に来たけど……騎士という職業は大変だ。才能もあって、高い位に上がる事はできたけど……。あまり指揮をするのは得意じゃないのに。


そもそも、私の前世は介護福祉士を目指していた大学生。人を殺すのは好きじゃないし、死体を見るのはもっと嫌なんだけど。


森の入り口に入ってすぐ近くに倒れている奴隷の死体の前にしゃがみ込み、装着された首輪を外して目を細める。


これ、旧式だ。確か旧式は力を加えれば簡単に壊せる設計になっている。こんな安物を使ったら、他種族の中で最も怪力な種族である『鬼』なら壊せるか。


他にも確認しておく必要が……。


「何やってるの、お姉さん」

「ッ!?」


声をかけられ、振り返ろうとすると同時に首筋に冷たい物が当たる。


目線を移せば鈍く輝くナイフが首筋に触れていた。


あと少し振り返ろうとしていたらナイフで血管が切られていた。


「お姉さん、駄目だよ?薄暗い場所で背後に気を使ってないと鞭打ち百回だよ?」

「生憎と、私はそっちの訓練はしてませんのでね……!」


声は幼く、僅かに見える手は小さい。恐らく子ども。しかも、会話の内容から察するに暗殺者として育てられたのだろう。


他種族の奴隷を暗殺者として仕立て上げるのは貴族だとよくある事だ。私の実家でも、お父様が何人か持っている。


「お姉さん、レスティアちゃんを知らない?」

「レスティア?」


聞いたことのない名前だ。


「えっと、新緑のような緑色の髪をしていて、目が瑠璃色、頭に赤と白の花が咲いている女の子だよ」

「……ごめんなさい。私は知りませんよ!」


肘を引くと柔らかいものに触れる感触がする。


「キャッ!?」


少女の可愛らしい声を聞きながら立ち上がりざまに剣を引き抜いて反転しながら水平に振るう。


「おっと」


少女は手に持ったナイフで剣を防ぎ、後ろに跳躍。太い木の枝に乗る。


「獣人ですか」

「うん。正確には『金色白面』かな」


金色の髪を伸ばし、年相応に笑う少女は狐の耳と尾、手に持ってるナイフさえ無ければ普通の少女に見える。


だが、幾ら少女とはいえ彼女は獣人。人ではない。


……他種族は人ではない。何せ、彼ら彼女らは人の規格から逸脱しているから。例え子どもでも危険な事には違わない。


「貴女が行った事は法律で死刑相当の犯罪。それを知っての犯行ですか?」

「そっちだって私たちに何人も、何十人も殺させておいて使えなくなったらゴミ箱行き。どう考えても人としての倫理から外れてるのはそっちでしょ?」

「……何を言っているんですか?」


他種族の扱い経済動物とそう大差がない。使えるだけ使い、使えなくなったら処分する。それが当たり前だし、動物が私たちを糾弾することはできない。


元より、この少女が言っている事は常識から乖離している。そんな少女の倫理何てどう考えても受け入れられない。


「貴女たちは私たちが生かしてあげているんです。その事に感謝される事はあっても、糾弾される謂れはありません」

「私たちはあくまで人。人である以上人を糾弾するのが当然では?」

「人族以外は人ではありません。何を馬鹿なこと言っているんですか」


もういい。この少女はどう考えても社会から逸脱している事がわかった。社会からの逸脱、それは絶対的な悪だ。


断罪しなければならない。愚かな思想はここで摘み取らなければならない。


「でも、レスティアちゃんがいないのか。うーん……それじゃあ、戻ってきた意味がないか」

「何を言って……」

「それじゃあバイバイ、お姉さん」


私が部下を呼ぶよりも速く、少女は森の中に消えていく。

獣人を森の中で追うのは愚策か。まあ、いい。今は生存者の保護が優先だ。


「エリザ一等騎士、生存者がいました!」

「そうか。それは良かったです。連れてこれますか?」

「可能ですが……彼は心神喪失状態なので安静にしておきたいところです」


心神喪失か……。まあ、こんな惨状を見せられたら当事者は気が滅入るか。


「わかりました。その彼は馬車に寝かしておいて下さい。引き続き、生存者の探索と死んだ奴隷の死体の処分をしてください。私も調査を終えましたので森の中に向かいます」

「了解しました!」


部下が走っていくのを見送り私も森の中に入っていく。


絶対的な悪である少女とレスティアという少女、そして数多の人を殺した『鬼』。他種族の獣が人族に逆らったことを後悔させなければならないな。

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