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貴族

「よい……しょっ!」


飛びかかってくる犬の鼻先を殴り、怯んだところで首を掴んで首の骨を折る。


また犬か。


はあ……歩き始めてもう10分近くが経過したが、犬ばかりだ。別段私は動物を進んで殺したくはないけど……と、危ない危ない。


草むらに隠すようにトラバサミが設置されてるな。ささっと解除して、と。


裏社会の人間のアジトに潜入した際に色々と小技を学んでおいて正解だ。特に、罠の見分け方や設置されやすい場所は学んでおいて良かったと思える。


それにしても、犬ばかりとエンカウントしているけど、これが本当に狩猟ゲームなのか些か変だと思うのだが……。いや、反抗できる私達なら問題ないってだけどね。


けど、あまり人の気配が感じない。想定外のイレギュラーでも発生したのだろうか。


……あのクローリアとオグマが動いている、と考えても良いかもしれない。それなら、少しは安心できる……かもしれない。


「……泉か」


森を少し歩くと、泉が見えた。私は少し駆け足で近づき膝を地面に着けて覗きこむ。


水は綺麗だし、透明度も高い。水を両手で掬って見たけどそこそこ冷たい。少し水を飲むか。


「んぐ……」


手尺で掬った水を口の中に入れ、飲み込む。


ふぅ……水分補給ができて良かった。植物系は食事を取る必要はないけど水分は定期的に摂取しないといけないからな。


「ん……?」


水面に写る見慣れない人の姿に動きを止める。


……ああ、これが今の私の姿か。存外、可愛い顔立ちしているな。


水面に写る私の顔はおっとりとした雰囲気を持った可愛い顔立ちをしている。瞳は『ミストルテイン』の特徴的な瑠璃色で、頭には白と赤の大輪の花が咲いている。髪は新緑を想起させる緑色で腰までかかっている。


美少女、なのだろう。あの神様、良いセンスしてるよ。まあ、この世界では色々と不都合だが。頬の辺りに傷をつけても良さそうだ。


さて、小休憩も終わり。そろそろ動くとする……、


「おっと」


立ち上がると同時に弦の音が聞こえてきたためとっさに泉の中に転がり込む。


同時に放たれた矢が地面に突き刺さる。


あっぶねぇ……反応が遅れていたら、確実に射抜かれていた。生命力や治癒力に長けた植物系の種族だが、当たりどころが悪ければ死ぬのは共通なんだよ。


少なくとも、そんなつまらない死に方はしたくない。


「ちっ……外したか」


泉から上がると森から少年が現れる。


丸々と太った身体に短い金髪とまるで豚のような少年だ。年齢は多分同い年。とりあえず、豚と呼ぶか。


「グルルルルルル……」

「よしよし、落ち着けよパトラッシュ。やっと一匹だ、きっちり食べさせてやるか……」


五月蠅い犬だ。


唸る犬に身体を前に屈めて接近し下顎を力一杯蹴り上げる。


「キャイン!?」

「パ、パトラッシュ!?」


下顎が砕かれ大きく飛ばされた犬を見ていた豚を反転しながら蹴り飛ばす。


「がっ!?」


無防備な太鼓腹を蹴ると豚は腹に手を当てながら何歩か後ろに下がる。


それにしても、パトラッシュって……その名前の犬に人食い何てさせるなよ。


「ゴホッゴホッ……な、何でボクちんに攻撃が……」

「首輪が無ければ効力も発揮しない。当然の事だ」


というか、ボクちんって……凄い一人称だな。まあ、どうでも良いか。


豚は目を見開き、口をパクパクと開閉させながら私の首を指差す。


「ば、馬鹿な!?あれは正式な手順を踏まないと外せないはずだぞ!?」

「そんなの、私に言われても知らん」


オグマの話だとこれは旧式で破壊に対するデメリットはないと言っていた。破壊と外すのは意味合いが違ってくる、そういうことだろう。


「それじゃあ……始めるか」


私は拳を握り豚に接近する。


豚は咄嗟に拳を放つ。体重も乗ってないへなちょこパンチだ。

豚の拳を裏拳で弾くと豚はよろけ、体勢を崩す。すぐにもう片方の拳を顎に向けて振り上げる。


「ぐっ……おおお!」


豚は寸前のところで後ろに転がり拳を躱す。


今のを避けるか。無駄な肉さえなければそれなりの才気はあるようだな。


だが、ここで死ねば意味がない。


「死ね」

「ひっ!?」


尻もちをついた豚の脳天目掛けて足を振り上げ、振り下ろす。

確実に、ここで殺す。


「【風よ】!!」

「っ!?」


突然の突風にあおられて体勢を崩し、地面に倒れる。


すぐさま地面を押して飛び起きて風が吹いた方に顔を向ける。


一体何だ……!?


「大丈夫か、息子よ!」

「お、お父様!?」


森から豚を大人にしたような男が走ってくる。豚は地面を這いながら男に近づく。


……強いな。確実に殺しがいがある。


「っ!!首輪がない……。早く逃げろ!出入り口の方は他の連中が押し寄せているからそっちからは逃げるな!」

「う、うん!」


男は豚を庇いながら私に向けて剣を向ける。男は私をつま先から脳天まで観察し、歯ぎしりする。


「獣風情が……私達人族に逆らう気か!」

「逆らう?違うな、生きるためだ」


私は人を殺す事に躊躇いがない。復讐を誓ったあの日から心の箍が外れてしまった。


そのための戒め。私は何があっても功利目的の殺人は絶対に犯さない。だが、ここで抵抗しなければ私は殺される。殺されるくらいなら殺してやる。


「生きるためだと?バカバカしい。獣がおいそれと巫山戯たことを抜かすな!」

「……巫山戯たことだと?」


生きることの何が巫山戯たことだ。好きに生きて、好きに死ぬ。それのどこが巫山戯たことだ。


「そうだ。貴様ら獣は私達が生きろと言えば生き、死ねと言えば死ぬ、貧弱な生き物だ!」


貧弱……ねぇ。


ま、それはお前らが他種族を奴隷や家畜、ペットとしか思っていないからだろう。


私からすれば、それは愚かでしかない。


「貴様らの命なぞ、私達に比べれば遥かに軽い。それを理解しろ、獣め」

「……そうか」


それがお前らの答えか。


私は男との間合いを詰めて地面を蹴り、男の顔面目掛けて足を打ち出す。


男は剣の腹で蹴りを止める。剣の腹を蹴って後ろに跳び、間合いを開ける。


男は顔をトマトのように真っ赤にし剣を構える。


「……貴様は生かして捕まえる。拷問と陵辱の果てに精神を砕き、従順なペットとして飽きるまで使ってやる」

「そうか」


まあ、そんなものになるつもりは一切ないが。


……ああ、そういうことか。あの神様がこの世界を地獄だと言っていたのはこれが原因か。本当に悪趣味だよ。




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