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居住区の闇

ふぅ……いい気分だ。


森の中にある小さな泉、そこで私は水を浴びる。体に染み付いた汗が流すと木々の隙間から溢れる陽の光に目を細める。

柵の修理を終えて体に染み付いた汗を流しに森の中にある泉に来てみたが、温度が適温で水浴びには丁度いい。


「よいっしょ……」


泉から出て異界から取り出した布で体の水分を適量になる程度に拭き取る。


食事を必要としない代わりに日光や水分を適度に欲するというのは少々問題があるか。


「……で、そこにいるのは誰だ?」


森の木々に目を向ける。同時に草むらが動き、顔を真っ赤にしたクォーツが出てくる。その手に持った服を見て納得する。


おおよそ水浴びしに来て鉢合わせた、といったところか。いやまあ、別に構わないが。


「れれれれれレスティアちゃん!?ご、ごめんなさーい!!」


顔を真っ赤にして動揺したクォーツが全速力で森を駆け抜ける。


やはりこの姿を見せるのは刺激が強いか。今はまだ幼児体型だが後数年もすればそれなりのものになるだろうしな。


異界から取り出した白いワイシャツと黒いズボンを着ると空気を操作して一気に駆けて森を出る。


さて、と。協力関係を築く時間は終わりだ。ここからは暗躍の時間といくか。


異界の中から青い宝石を精巧に加工して作られたアミュレットを取り出して首に掛ける。


パリスの主な商品は宝石。その宝石の使い道を聞いたら高品質な魔法を込めた道具に使うと言っていた。


そして、私に渡されたアクセサリーの中にはこういったものもある。


「姿隠しのアミュレット。まさか、こんなタイミングで使うことになるとはな」


小麦畑のあぜ道を通り、丘の上にある工場のような場所に向けて歩き始める。


時折、農民たちが横を通るが私には気づかず素通りしていく。


姿隠しのアミュレットの効果もきちんと効いているようだな。これなら、簡単にいける。


地面を蹴り、普通に走り始める。それもまた、他の農民たちは何も見えてないから咎める事はない。


さてさて、どんな秘密があるかな〜。……ま、私の予想なら極めて悪趣味なものだと思うけどね。


10分ほど走り、丘の上まで登り終える。息を整え、丘の上に設営された建物を見る。


全体的に高い木の柵が作られている。しかも、出入り口は兵士たちで警備されている。どう考えても、異質な施設だ。


ま、入らせてもらうけど。


空気を蹴ってトランポリンの要領で空を翔ぶ。木の柵を飛び越えて中の建物の屋根に音もなく着地して低めの柵で区切られた広場に着地する。


今は使われていないようだな。これなら、内部に侵入するのは早い……おっと、人が出てきた。隠れよ隠れよ。


「おーし、30分程度の休憩時間だ。しっかり休めよー」


男の声と共に扉が開かれる。扉のすぐ近くに積まれ木箱の中に隠れながら覗き見る。


……なんだ、ありゃ。


建物の中から出てきたそれを見て、内心動揺が走る。


まず、服という服を着ていないこと。絶対に見せてはいけない場所だけを隠した布しか身に着けてない。


次に、全員が『ミノタウロス』の女性であること。居住区には男性の『ミノタウロス』しかいなかったが、こちらには男性の『ミノタウロス』がいない。


最後に、全員の背中に文様が刻まれていること。鷲のような文様が赤く背中についており、どことなく焼印のようにも見える。


うん、異常だ。どこをどう見ても異常だ。少なくとも、私からすれば、だ。見るからに、女性たちはこれを異常だと認識しておらず、昼寝したり、会話を弾ませたりしている。


洗脳教育を当たり前のように行っている国だ、奴隷にだって洗脳していても可笑しくない。いや、自分は奴隷だと小さく時から教えこんでおけば、抵抗しない精神的な奴隷にする事も容易い。


「それにしてもよぉ……あんなに肉つきの良い女たちに手を出せないのかよ。酷な仕事だよ、全く」


おん……?


すぐ隣で見張り役と思われる男たちの会話に耳を傾ける。


どことなく、不満そうな口調だな。どういうわけだろうか。

「確かになぁ……。女を孕ませて産ませて、男だったら強制労働、女だったら孕み袋。使えなくなれば肥料にする。使えなくなった連中をこっちに回してくれても良いのにな」

「それによぉ……あの女たち、胸から牛乳を出しているんだろ。飲んでみてぇよ」

「そりゃ無理だろ。『ミノタウロス』の母乳は高級品なんだぜ。飲んだら首が飛ぶ。物理的に」

「だよなぁ……。あーあ、種牛の連中が羨ましいよ。あんな娼館でもそうそうお目にかかれない女を毎日抱けるんだからよ」

「でも、あれって毎日薬を打たれて理性を吹っ飛ばして性欲のままにぶつけてるだけだろ。あんなのになりたいのか?」

「うへっ、そいつは嫌だな。あ、種牛の連中は今どうしてるんだ?」

「今の時間だと……十歳当りのガキに手を出してる筈だ。壊れないかが心配だよ」

「ちげぇねぇ!!」


……予想はしていたが、不愉快な内容だ。


笑い合う男たちに殺意を向けないようセーブしながら、木箱の中で怒りを滾らせる。


これが居住区の闇か。なるほど、パリスが言っていた通りの代物だ。……情報のすり合わせをする必要が出てきたな。


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