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食い散らかされた獣たちの末路

息を潜めながら見つからないよう森の中を駆け抜ける。


「ふう……」 


足を止め、手頃な岩場に身を隠して辺りを見回す。


周囲に人影はなし。少し休憩をするか。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


辺りから響き渡る悲鳴に耳を塞ぐ。


近くで捕まった連中がいるな。まあ、もう助かる事はないだろう。


助けに行こう、という善性そのものと呼べる考えが過るが無視する。


相手は人族だが、相手にはこの世界の技術である魔法がある。魔法の能力も人族は低いが、数があればそれでも脅威足り得る。


それを理解した上で、助けにいったところで死体が増えるだけだ。


「……悲鳴が止んだか」


10分後、森に響いていた壊れたラジカセのような声が止んだ事を確認して耳から手を離す。


貴族の遊びである以上、何かしら放置している可能性が高い。……あいつらの所業を確認するためにも、少し見に行った方がよさそうだ。


私は岩場から出て森の中に戻る。


森の歩き方にも慣れ、体力の損耗を少なくできるようになった。視線の低さにも走り続けた事で慣れたし、前世と遜色ない動きが出来るようにはなった。


まあ、それでも正面戦闘だけは避けないといけないが。


それはそうと、悲鳴が聞こえていたのはこっちだった筈。そろそろ目的のものが見え……!?


「何だ、これ」


それを見た瞬間、私の内側が怒りの炎に焼かれる。


あったのは、惨劇だ。


犠牲となったのは二人の少女。どちらも狼の獣人ということから恐らく姉妹。


金色の髪の少女は私と同じ服を力業で引き裂かれ、腹部には生々しい拳による打撲傷、首には締められたのだろう痣が刻まれていた。また、全身に考えたくもない液体がついている事から死ぬ直前までヤられていた事が分かる。


銀色の髪の少女は金髪の少女よりもより悲惨だ。体のいたるところに噛まれたような傷があり、肉が千切られている。両腕両足が曲がってはいけない方向に曲がっているし、抵抗できないようにされてから食い殺されたのが分かる。


「うっ……」


頭の理解が完了したのと同時に腹から込み上げてくるのが分かり、木の陰に入る。


それと同時に口から昨日食べた食事を吐き出す。


「おえぇ……」


腹からすべての物が無くなった後、私は口を拭う。


うう……やはり、死体には慣れない。前世から他人が殺した死体を見るのは、あまり好きではなかったからな。


気分が落ち着いたところで私は二人の死体に近づき、瞼から漏れ涙を指で拭う。


「……すまない」


私が動いていれば、多分生きていたかもしれない命だ。謝罪くらいはしないといけない。


二人の冥福を祈り、立ち上がるとすぐ近くの草むらがガサガサと揺れる。


風か……?いや、そんな筈はない。となれば……。


「ぐっ……ごふっ!?」

「ッ!?大丈夫か!?」


木々の間から出てきた少女が口から血を吐いて倒れ、慌てて近寄る。


赤い髪に枝のような角、両腕両足に生える鱗に背中から生える蝙蝠のような翼、こいつの種族は神様のところで見たことがある。確か名前は『ドラゴニュート』。現存種族の中だと鬼に次ぐ身体能力とエルフ並の魔法の適性、『ハーピィ』を凌駕する飛行能力に強力な特殊能力と特典を持った紛れもない強者の立ち位置を持つ種族だ。


だが、そんな種族でもこんな有り様になってしまうのか。反抗を封じられただけでこうもなるとは思わない。恐らく、飛行することも禁止されているのだろう。


正座して少女の頭を膝に置いて少女の身体をくまなく見る。

外傷は両足に切り傷と刺し傷、その他多数だが致命傷なのは腹と首筋。形状からして魔法ではなく人族なら確実に死んでいるが、植物系には劣るが高い生命力を持つ『ドラゴニュート』だから生きてここまで来たのだろう。


「貴方は……」


少女が私の目を合わせてゆっくりと起き上がる。


もうその傷では助かる見込みはない。


「レスティア」

私が名前を答えると少女はにっこりと儚い笑顔を浮かべる。

「レスティアちゃんね……ねぇ、少し頼んでもいい?」

「……何を」


少女は自分の角を一本、枝を折るような手軽さで折り私の手に握らせる。


これは……。


「これを、故郷の……ラプス山脈にある、集落にいる、レストていう人に渡して……欲しいの」

「……分かった」

「ありが……と……う……」


少女は涙を流しながら笑顔で地面に倒れる。


……この角に何の意味があるのか分からない。だが、渡したというのならそれなりの意味があるのだろう。それこそ、心の底から感謝をするほどの。


少女の頭を地面に置き、地面に角を置き、瞼を閉じ、冥福を祈る。


次に転生したら、今度は家族と一緒に暮らせよ。


瞼を開けて、角を手に持ち立ち上がる。


……ずっと疑問だった。何で神様はここに私を転生させたのか、という疑問が頭から離れなかった。私はそれを理解しながら考えないようにしていた。


しかし、その答えを得た。……神様というのは人の心がない。あまりにも残酷な仕打ちだ。


立ち上がり、角をどう持つか考え、いい案が浮かんだためすぐに実行する。


木に巻き付いていた蔓を何本か束ねて腰に巻いてそこにぶら下げる。


これで両手の自由は守られたか。……だが、それでもここから出れるとは限らない。


……前世も今世も背負うものが出来てしまうのか。これが運命というやつなのだろうか。

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