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旅立ち

翌朝、黒兎に鍵を渡して宿を出る。


あくまで宿が一緒だっただけ。挨拶する事はない。それに、まだ朝は早い。眠らせておいた方が良いだろう。


少し肌寒い街を歩きながら反転し、背後から飛来する剣を反転しながら蹴り飛ばす。


「やっほー、レスティア。朝から元気良さそうだね」

「……そういう貴女も動きに支障は無さそうだ、フレイヤ」


投げられた剣を踏んで上げて手に取り、フレイヤに向けて投げる。クルクルと縦回転をする剣をフレイヤはさも当然のように手に取り、鞘に収める。


フレイヤは私の隣を歩きながら少し嬉しそうに表情を和らげると、


「当然だよ。ボクはこれでもSランクハンターだからね、毎日の体調管理は当然さ」

「Sランクか。ランクには興味ないが、対人戦の実力はどうなんだ?」

「うーん、上の下かな。相性次第でジャイアントキリングも為せるけどね。実際、レスティアはボクに勝てるでしょ?」

「10回やって良くて3回、最低でも1回は勝てる」


確実に相手に致命傷を与えるカウンター技を保有しているからな。タイミングさえ間違えなければ確実に1回は勝てる。


「一言にハンターと言っても得意な魔物は違うからね。そういうボクはドラゴンが得意かな。特別な薬草を採取する際によく戦っているから。レスティアは?」

「さあ。私は人を相手にした方が楽だからそっちで稼いでいる」


魔物は圧倒的な身体の強度で力押ししてくる。それに対し、人は考え、理知的に攻めてくる。相手しやすいのは後者だ。


「そういえば、貴女は古い種族だと聞いたがどんな【魔装】なんだ?」

「あー……あれをあまり使いたくないんだよね。ほら、【魔装】って絶対強者を倒すためのものでしょ。普段使いするのは少し困るほどの威力なんだよね」

「なるほどな。……最後の一人としてはどうなんだ?」

「……やっぱり、【魔装】の真実を知っているんだね」


少しもの憂いだ表情でフレイヤは空を見上げる。


『ミストルテイン』と同じく、『ヴィナス』も絶滅した種族だ。だが、彼女は私のように転生した訳でもない。いくつかやり方はある。


「【魔装】というのは古い種族のなかでも更に古い……今では殆どの種族が絶滅した前期の種族に共通して発現する特殊な力だ。まあ、『ヴィナス』の最後の一人だというのは予想外だったけど」

「騙したの?」

「いいや。私も同じだからな。『ミストルテイン』。最弱の種族の最後の一人」

「そう……それじゃあ、異種同類という訳か」


フレイヤは少し嬉しそうに笑い、瞳から一筋の涙を零す。同じ境遇の人がいて嬉しいのか、悲しいのか、よく分からない。


「『ヴィナス』は種族としては『エルフ』なんだ。でも、産まれてすぐに銀の蜜を食べさせられる。そうすることで『ヴィナス』になる。でも、元々蜜に適応する人も少ないし、その蜜を生み出す木は私が10歳の時に人間たちに燃やされた。数百年ぶりの『ヴィナス』を最後に、もう『ヴィナス』は生まれない」

「なるほどな」


人間の愚かさに絶滅が確定した種族か。恐らく、帝国の尖兵だろう。帝国が人から魂を抜き取る技術と魂のない器を造る技術を獲得している事は知っている。帝国は絶滅した種族を作り出そうとしている、といったところか。


「そういえば、帝国がリンビート王国を狙っていると言っていたが、そこに何か絶滅した種族に関わる伝承がないか?」

「えっと……確か現在の王都として栄える場所には『ユグドラシル』、ラプス山脈頂上には冷凍保存された『ファフニール』が眠ってるけど……それがどうかしたの?」

「……いや、何でもない」


帝国がリンビート王国に攻め入ろうとしている理由の一つに、その二つの種族の遺体を回収するつもりなのかもしれない。


「ねー、教えてよー」

「鬱陶しい」


私の体を上げて頬擦りしてくるフレイヤに苛立ちながら抵抗する。が、コンクリートのように動かない。


こいつ、体の動きに制限を加えるように持ち上げていやがる。上手く抵抗できない。


「あ、待ちあわせ場所はここみたい」

「お、アンタらか。……え、レスティアの嬢ちゃんは何しとるん」

「……聞かないでくれ、パリス」


待ちあわせ場所で馬車に乗って待っていたパリスが唖然としている中、フレイヤに降ろされる。


宝石商がパリスだったとは少し意外だ。


「パリスのメインの品物は宝石だったのか」

「そうやぞ。そういや、言っておらんかったな。ワイは衣類何かも販売しとるが、専門は宝石。この街に来たんも宝石関連の取引で来たんや」

「なるほどな」


そう考えると妥当か。……フレイヤの情報が正しければ、リンビート王国と一触即発の状況でよく行こうと考えたな。商魂逞しいというか、なんてやら。


「え、二人は知り合いだったの?」

「そうやぞ。この街に来るん時に一人で歩いていたから乗せてきたんや」


二人もどうやら仲良くなりそうだな。


「にしても、エラい別嬪さんやな。純粋に美しいっちゅうか、レスティアの嬢ちゃんのような浮世離れした神の彫像のような美しさとはちゃう、最高級の宝石のような美しさや」

「えへへ、褒めるの上手ですね。名前はなんて言うんですか?」

「ワイ?ワイはパリス、『パキファロス』や。嬢ちゃんは?」

「フレイヤです。種族は『ヴィナス』。数日間よろしくお願いします」

「おう、まかせとき。んじゃ、馬車に乗ってくれ」


パリスに促され、フレイヤと共に荷台に乗り込む。適当な木の板に背を預けるとフレイヤも隣に座る。


パリスが鞭を叩くと馬が歩き始める。景色が変わっていき、城壁の門に近づく。門に入るとパリスが通行証を衛士に見せて門を出ていく。


「…………」


クミュとゼルは大丈夫なのか、少し気になるが問題はないだろう。


だが、これからが問題だ。私が向かう場所は血に濡れる事が確約された国、リンビート王国。最悪の場合、帝国との戦争に巻き込まれる可能性もあるな。


まあ、そう簡単に戦争に巻き込まれないだろうけど。

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