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泣き寝入り

階段を勢いよく登り、床を鳴らしながら部屋に入る。


「ゼルは無事か!?」


ゼルを探していたらオグマから連絡があった。クローリアが保護したと言っていたが……!


「無事じゃないわ。ちょっと手伝いなさい」


袖をたくし上げ、口に包帯を噛みながらドレディアがピンセットをアンダースローで投げる。片手でキャッチし、椅子を持ってきて座る。


酷い。顔や体にガラス片が突き刺さっている。足も変な方向に曲がっていたし、体に受けた傷はクミュよりも深い。クミュの状況よりも遥かに危険な状態だ。息をしていることが不思議なほどだ。


ピンセットを慎重にガラス片に近づけて先端で掴み、丁寧に抜いて持ってきてもらったトレイに置いていく。冷や汗が滲み出て額から頬を伝い、床に落ちていく。


ガラス片の怪我単体はそこまで深く刺さっていない。ある程度手先が器用ならとドレディアも仕事を渡したのだろう。


「出血の方はどうなっているのかしら?」

「致死量はリカバリーしました!後は頼めますか?」

「わかったわ」


バズが体の治療は終わらせたか。猫の獣人は殆どが魔法を使えないが、極稀に魔法を使える個体がいるらしいし、彼女がそうで助かった。


最後のガラス片をトレイに乗せるとドレディアがゼルの体に包帯を巻いていく。手慣れた手付きで、みるみる内に巻かれていく。


「これで良し、と」


傷が完全に見えなくさせると一安心して息を零す。


額に流れる汗を拭い、持っていたピンセットをトレイに入れる。


さて、と。それじゃあ話を聞くか。


ドアの方で待機していてもらっていたオグマ、クローリア、グリッドが二人の状態を見る。


「ちっ、ヒデェ事をしやがる。あえて致命傷にならない場所ばかりを狙っている」

「捕縛目的だったんだろうが、流石にやり過ぎだ。恐らく、二人が『ハーピィ』だった事が影響しているかもしれん。この街に根強い差別主義者がいるのかもしれんな」

「でも、生きてて良かったよ〜」


オグマたちは安堵し、床に座り私の方を見る。目に宿る冷たい感情に背筋が凍るような寒気を感じる。


「嬢ちゃんが殺した相手は懲罰粛清部隊『デッドエージェント』。聖典教会の暗部だ。透明化のコートに各々が持つ【神罰魔装】なんて呼ばれる武器を使うのが特徴だ。名前の通り、教会の利益や戒律を守らない連中を拷問、最悪の場合殺害する。んで、今の最大勢力は『法王派』、言ってしまえばあいつらは『法王派』の犬だな」


「『法王派』……ということは他種族に対する差別の要因の一つの命令か」


高い地位にいる人間というのは往々にして自分の過去に縛られるものだ。若い頃の罪をいかに上手く隠したところでそれが見つかれば今までの地位や財産、将来の全てが消える。


いいや、消えるだけならまだ良い。最悪の場合、命が無くなる。


そうならないよう、自分の過去を探る者には徹底的に潰す。僅かにでも知ればあの手この手で破滅に追い込む事すら躊躇わない。人の皮を被った邪悪そのものだ。


「だがよ、なんでそんな連中がゼルたちを襲ったんだ?普通じゃあり得ないだろ」

「それはこれが原因だよ〜」


クローリアがグリッドに紙束を渡す。羊皮紙の紙束を手渡されたグリッドは内容を読み、顔を蒼白にさせる。


何について書かれているか聞いていないが、この様子だと普通の内容ではないだろう。それこそ、『法王派』が直接刺客を送るほどに。


「これはね、現在の法国における『七天の執行者』が行ってきた犯罪の証拠。もし、帝国や他の強国に渡れば確実に法国の現行の体制が崩壊してしまうほどの強力な切り札だよ〜」

「『聖女派』の連中が調べていた物のようだがな。それの運送を小娘たちに頼んだのだろう」 


そして襲われた、と。


組んだ手に力が入り、怒りのあまり歯がカチカチと鳴る。

それはつまり、彼女らが聖典教会の派閥争いに巻き込まれて死ぬ寸前まで痛めつけられた、ということだ。不快、あまりにも不快だ。


だが、ここから出て教会を襲撃したところで無駄に目をつけられる。それが分かっているからオグマのような実力者も動いてない。


「その『デッドエージェント』だったかしら。殺しても良かったの?」

「問題ねぇぞ。あいつらは思考をバイザーで統制されているし、何より死んだとしても罪に問われない。あいつらの存在自体が無い事にしておかないといけないからな」

「ああ、そういうことね」


殺しても良い存在というのはかなり楽だろうし、向こうからしてもそっちの方が都合が良い。自分たちと通じている、と知られたらアウトだしな。


説明を終えたのか、オグマとクローリアは部屋を出ていく。後を追うようにバズ、グリッド、ドレディアたちも部屋を出ていく。


ここで聞いた話は今後口外する事はないだろう。相手が透明になれる以上、聞かれたら人知れず連れ去られて拷問されて殺される、何て事が起きてもおかしくない。眠っている二人にも話すことは無いだろう。


だが、それで本当に良いのだろうか。真実を告げたところで世界は変わらない、それどころか命が狙われる。メリット以上にデメリットが多すぎる。


「本当にクソッタレな世界だな」


神様が作り上げた様々な種族や生物が生きる楽園、その末路がこれほどまでに醜悪で悍ましいものになり果てるとはな。呆れているものも言えん。


それに、明日明後日でこの街から離れる。その後の結末は私が知ることは無いだろう。


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