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狩猟ゲーム

木々の匂いが強くなってくると、次第に馬車の速度が落ちていく。


馬車が完全に止まると馬車に鎧を着た人族の男が入ってくる。男は奴隷たちの首に黒い革製の首輪を嵌めていく。


「これ、なに?」


私は首輪をトントンと突きながらオグマに尋ねる。オグマは少し考えた後、口を開く。


「魔法具だ。これを装着されたら一定の領域外に出たり人族に危害を加えると死んでしまう」

「魔法具?」

「魔力を流す事で魔法の効果を発生させることができる道具のことだ。詳しいことは知らん」


オグマと話していると奴隷たちが馬車から降りていく。流れに沿って私も馬車から降りる。


馬車から降りた場所は鬱蒼とした森だ。木々が生い茂り、強い木の匂いに満ちている。また、囲いのようなオレンジ色の光が出ており、そこから出た奴隷はすぐに地面に倒れる。


ここが『狩猟場』か。主なルールは『囲いの中から出たら死ぬ』『奴隷は反抗したら死ぬ』『貴族たちは何をしても良い』といったところか。


また、何しても良い、という中には性的な意味でもそうなのだろう。見た感じ、綺麗な女性が多いのはそういった意味合いもあるのだろう。


……女に転生したからそういうのにも狙われてしまうのか。まあ、それは流石にそれは勘弁だな。


「ほら、とっとと逃げやがれ!」


男の一人がそういうと私とオグマ、クローリアは一気に駆け出し森の中に入る。


オグマもクローリアも障害物が多々ある森の中を軽快に走っていく。木の幹や大きな石、崖があろうと突き進んでいく。


二人とも速い……!種族の差があってもここまでの差があるのか……!私が前世で復讐のためにパルクールを習ってなければついて行けなかった……!


「っと、ここら辺でいいか」


四分後、見晴らしの良い高台でオグマが足を止めたため私とクローリアも足を止める。私は息を絶え絶えに地面に座り込み、汗を拭う。


つ、疲れた……。いきなりかなりの体力を摩耗させられた……。


「レスティアちゃん、植物系なのによくついてこられたね」

「はぁ……はぁ……ついていくのに精一杯だったけどな」


総合的な身体能力が高く、それを暗殺のために鍛えられた獣人と現存する種族の中でもダントツに高い身体能力を持つ『鬼』。そんなのと一緒にされても困る……!


「ま、それで上等だろうよ。さて、それじゃあさっさと始めるか」

「始めるって……何を?」

「決まってんだろ?殺しだよ」


そういうとオグマは首輪に手をかけ、薄い紙を千切るかのような気軽さで首輪を引き千切る。


唖然とする私とクローリアを見てオグマは子供のように笑うと、いとも容易く首輪を引き千切っていく。


えっ……?


「この首輪、旧式でな。破壊の際のデメリットがなければ肉体に対するデバフがない。狩りを面白くするためにそうしたんだろうけど、俺から言わせれば、あまりにも甘すぎだ」

「えっ……えっ!?でも、こういった魔法具の革ってかなりの強度があるはずだけど!?」

「そんなので『鬼』を、それも帝国直属の暗殺者を封じれる訳がないだろ」


二人の会話を右から左へ流し、息を整えて空を見上げる。


私は全てを終えた。あいつらに復讐を終えた時点で私の人生に決着がついた。だから、神様にここに転生されようが生きていても死んでいても、そう大差のないことだ。


だが、無意味に散らす必要もない。少なくとも、私は外道に命を渡すつもりはない。そして、反抗する機会を与えてもらえた。


なら、どうするか。単純な話だ。


「……潰す」


私は二人の言い合いを見据え、立ち上がる。


命を散らすのなら、ただ棒立ちで首を刎ねられるよりも抗い抜いた先で絶命した方が良い。


「たく……嬢ちゃんはどうする。……て、その目はやる気まんまんだな」

「勘違いするな。私は自分の人生の決着は既についている。だから、これは番外。全てを終わらせながら、生き延びてしまった者が死ぬための戦いだ」

「お、おう……。だが嬢ちゃん、一つ言っておく。死に場所はどこになるかは俺たちでは選べない。それだけら頭に入れておけ」

「……分かった」


そう言い残すとオグマは何処かに立ち去る。ふと気がつくとクローリアの姿もない。既にここから立ち去っているのだろう。


死に場所がどこになるか誰にも分からない、か。


私の前世は死に場所を決めていた。死刑という終わりを目指していた。


しかし、この世界では他種族は理不尽に死ぬのが日常で、平穏無事に生きることが非日常だ。どこで死ぬかを自分で選ぶことはできない。


なら、精々生き抜いた果てに死ぬしかないのか。


「ガウ、ガウッ!」


……お?


鳴き声が聞こえると同時に思考を切り替えて聞こえた方を見ると、大型犬が私に向けて吠えていた。


狩猟犬か。いや、正確には『狩猟場』専用の狩猟犬か。普通の狩猟犬はもう少し小さい。だが、それだと威圧感がないからここでは大型犬を使っている、といったところか。


観察していると大型犬が一気に私に向けて駆け出してくる。


確かに速い。それに、威圧感もあって迫力もある。追われればそれなりに恐いだろうし、噛みつかれれば簡単に押し倒される。


だが……。


「キャイン!?」


たかだか犬一匹に負けるほど私の命は軽くない。


飛びかかってきた犬の懐に潜り込み、首を掴んで頭を地面に叩きつける。


おお、こんな小柄なのに前世と同じような動きができた。体つきから考えるに、まだ10歳程度の筈。この時点で一般的なホモ・サピエンスの成人男性とそう大差ない身体能力を持っているのか。種族差というのは考えものだな。


だが、これなら前とよく似た感覚で動ける。誤差は身体を動かして解消していけば良さそうだ。


さて……飼い主が犬が一匹いない事に気がつく前にさっさと何処かに退散するとしよう。


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