聖典の暗部
暗殺者の猫の獣人の男が疾走する。
接近し身体を基軸に回転しながら振るわれるハルバードを空気を蹴って躱す。
天と地が逆転した状態で男に指を向けて弾く。猫の獣人は空気の爆発を身を翻して躱し、ハルバードを投げつける。
空気の盾でハルバードを防ぎ、弧を描くように足を振るい、風の刃を放つ。
「ッ……!」
男はコートの裏に手を入れて掌に収まる程度の赤い宝石を取り出し、指と指の間に挟んで壊す。
同時に男の正面に炎の盾が現れて風の刃を防ぐ。男は地面に突き刺さったハルバードを引き抜くと、再び間合いを詰めてくる。
男に向けてナイフを投げるが躱される。
ちっ……!本当に獣人は苦手だよ……!
ハルバードを異界の穴を開けて盾にし、真っ直ぐに出される足を裏拳で弾く。
左足を踏み込んで左向きに回転しながら跳躍し男を蹴り飛ばす。
純粋な身体能力は向こうが優れている。そして、単純な力というのは合理的に実績を積み上げる。最もそれに長けた『獣人』系ほど植物系に対して相性が悪い。
間合いを開けると同時に肉薄し男の腹に掌底を叩き込み、掌の中にある空気を爆発させる。
「ぐっ!?」
一つの方向に衝撃が集約し男は大きく吹き飛ばされる。すぐさま間合いを詰めて足を大きく振り上げと打ち下ろす。男は横に転がって攻撃を躱し、立ち上がりながら足を振るう。
跳んで蹴りを躱し、手を振り下ろして空気の刃を叩きつけるがハルバードの柄で防がれる。
男は大きく後ろに跳躍して間合いを開け、懐から水色の宝石を取り出し、握りつぶす。同時に男の前に魔法陣が現れ、氷の槍が縦横無尽に放たれる。
手を叩き、空気を爆破させて氷の槍を粉砕すると男は一気に間合いを詰め、ハルバードを回転を加えながら振るう。
「ここを、退け!」
全てを躱し、怒りと焦りで額に汗を滲ませながら跳躍し、踵を振り下ろす。
ハルバードで防がれると手を叩き、私の体の周囲の空気を爆破させる。
「ぐうっ!?」
巻き込まれた男はハルバードを振るい、薙ぎ払う。
左肩から右腰を一直線に切り裂かれ、血を吹き出しながら吹き飛ばされながらアンダースローで右腕を振るい、空気の刃を放つ。
地面を切り裂きながら直進する空気の刃を男はハルバードの石突を地面に打ち付け、衝撃で身体を浮かせながら足を振るい弾く。
弾かれた空気の刃は進行方向にあった建物を切り裂き、倒壊させる。
私を殺すためなら罪のない人間を巻き込み、殺すことに迷いはないか。
傷口から漏れ出る血を指先につけて頬に塗りつけて口角を上げる。
ゼルについては色々と心配だし、早く終わらせないといけない。だが、こいつを早く終わらせることは難しい。真空による呼吸不可能の領域を作るにしても、あそこまで反応速度が高いと避けられる可能性が高い。
まあ、殺し方ならいくつかあるけど。
「【貫き燃えろ――神の敵】」
男はハルバードを投擲するように右手に持ち、左手を突き出して何かを唱える。
同時にハルバードを炎が包み込み、男は勢いよく私目掛けて投げ、接近を試みてくる。
魔法か。いや、宝石のような使い捨ての道具に頼っていたんだ、魔法ではなくあのハルバードの力だろう。十分強力だが、私にとっては致命的にやってはいけない事をした。
手を飛来するハルバードに向けて異界の穴を開けてハルバードを収容し肉薄した男の蹴りを空気の盾で防ぐ。
異界は生物以外なら何でも入れる事ができる。だが、生物が接触している状態だと入れる事ができない。しかし、今回は向こうから手放してくれた。ありがたく奪わせて貰う。
「何をした……!?」
「お前らに言う必要はない」
どこから情報が流れるか分からないからな。
男を弾き、振るわれる小刻みに振るわれる拳を掌で受け止めて後ろに跳ぶ。
着地と同時に飛来するレンガを身体を屈めて躱し、空気の砲弾を連射する。
男は空気の砲弾を足技だけで全て打ち落とし、すぐに近接の間合いに入り込む。
一部を除いて魔法の適性がない獣人ならそうするよな、私だってそうする。分かっていれば対応の仕方も変わるものだ。
「がっ!?」
拳の射程に入ると同時に男の体が吹き飛ぶ。起き上がろうとした瞬間男の周囲の空気が一斉に爆発する。
砲弾を一つだけ間合いの内に設置しておいて入ると同時に爆破、吹き飛ばしたあとに打ち落とした砲弾を手動で爆破させる。
男の動きは静かだが直線的だ。恐らく、暗殺者ではあるが主な標的は人族で、高い技術を使うまでもなく寝首を掻くことができた。
だから、不慣れな強襲の場合は何がなんでも自分が優位を取る事ができる近接戦に持ち込む必要があった。それに、私が魔法を多用することもあり、距離を取られるのは極めて不利になる。それが更に男の考えを縛り付ける。
「致命的だな」
肉弾戦を仕掛けるために間合いを詰める男に呆れ混じりに空気の刃を纏う腕を無造作に振るう。
間合いを最短最速で詰めていた男は回避する事ができず、下半身と上半身が分たれる。
行動のパターンが単調な相手だからな、それさえ読み切れれば簡単に殺す事ができる。この男が不利な状況を何度か遭遇していれば私は負けていた。まぁ、経験の差だな。
「……ああ、そういうことか」
男の首に垂れていていたロザリオを見下ろし、後頭部を掻く。ロゼリアはルーナのものと同一のものだった。
聖典教会、恐らくは裏側の暗殺部隊といったところか。恐らく、あのバッグに入っていた紙束は誰かがとある真実を書いたもので、教会の一部にとって不都合な真実が書かれていた。それを安全な場所に移動させようとゼルたちに依頼した。しかし、真実を隠したい側の協力者が密告、白昼堂々の襲撃を行った、といったところか。
大胆というか、殺しても罪にならないという自信故か、こうも無謀な事をしてくれたな、全く……。
さて、さっさとゼルの方に行かないと。あいつの命だって危ない筈だしな。




