空輸の品物
「ふわぁ……」
小さくあくびをして街を歩く。
金もそれなりにあり、自由に動けるため今日は街の散策をしているが……ルーナの言った通り、少しお洒落な格好をしていると害意ある視線を向けられないな。気が楽だ。
入り組んだ道を通り、再開発中のスラムを見て回る。
城壁があるため使える土地も限られてくる。スラム化していた土地が使えるとなれば向こうも利益を上げるために使うか。
それに、私が娼婦街を破壊した影響で多くの犯罪組織が陽の光を浴びることになった。もうすでにかなりの数の組織が消えている。無駄に力を持っていた組織も半壊したおかげで滞りなく進めている。
「あ、レスティアだー!」
「やっほー」
瓦礫の山に足を伸ばしているとクミュとゼルが空から降りてくる。
彼女らの仕事は確か郵便配達だった筈。国外の『ハーピィ』の多くは郵便の配達や荷物の運送といった運輸業に従事しているらしいし、今日もそれが理由か。
「くそっ、なんであいつらだけ……」
「俺たちの苦しみも理解できない連中がのうのうと……」
それにしても、奴隷たちからの恨み節が凄いな。
まあ、他種族という括りは同じなのに、たった生まれた場所が違うだけで片方は自由に生活でき、片方は奴隷として強いられている。不平不満に満ちているだろうさ。
理解はできる、だが共感はできない。同じ負の感情でも憎悪と嫉妬は全く違うからな、そのあり方を許容できない。
「レスティアはここに何をしに来たの?」
「理由は色々とあるが……大きな理由は暇潰しだな。そっちは」
「クミュは仕事が終わったから新しい仕事を探しているのー!」
「正確には、こちら側に仕事の依頼があったので来ただけですよ。……ここは人の害意に満ちていますのであまり好んで来たくはありません」
クミュはくるくると私の周りを回りながら踊りながら、ゼルは敵意を向けてくる奴隷たちに殺気を向けてながら話す。
あーうん、分かっていたが二人とも、私やオグマと同じくらい変人だ。
踊っていたクミュは首を曲げてこちらの方を向くと少女然とした笑みを向ける。
「ここの人たちはねー、基本的に他人の事はどうだって良いんだよー。自分さえ良ければそれで良い、生きるためとはいえ醜いよねー」
「ええ、とても醜いです。しかし、そういった人たちは総じてなんだってします。例えば……」
ゼルは両肩からはえる翼を振り払うと羽が散弾のように飛び、ナイフを持った奴隷を血だらけに変える。
そういえば、他種族が人族を傷つけることはアウトだが、他種族が他種族を傷つけることは問題なかったな。何せ、法律で他種族はいくらでも傷つけることが許されているし。
「このように、当たり前のように私達を襲ってきます」
「『ハーピィ』は単性だから男の人は基本的に拒まないけどねー」
向けていた手を下ろすとクミュは背後から剣を振り下ろす人族を反転しながら蹴り飛ばす。
踊るように回りながら振り下ろされる剣を翼で弾き、ハイキック一発で獣人をノックアウトさせる。
たじろぐ奴隷たちが怒りを滲ませる中、クミュは満面の笑みと妖艶な視線を向け、ゼルは無表情と氷のような冷たい視線を向ける。
「こういった襲ってくる人は勘弁して欲しいかなー。それに、クミュたちにも負ける程度のゴミの子種なんて興味すらないかなー」
「ええ、全くです。最低でも私達より強ければどんな不細工でも構いませんが、流石に弱いのは虫にすら劣ります。ええ、虫ですら私達の食事になるのに弱い男は栄養にもなれません」
「という訳で、消えてくださーい。クミュたちには入りませーん」
「とっとと失せなさい、ゴミ虫ども。お前らの子種なんて受け入れる価値すらない」
そこからは一方的な展開だった。
人族は近づいた蹴りには気づかずに吹き飛ばされ、獣人は反応できてもあっさり地面に叩きつけられる。魔法を発動しようとすれば予備動作で見切られて封殺され、投擲すれば躱されて身体を切り裂かれる。
二人の動きは独特なステップと回転を交えた舞踏のようにも見える。血飛沫が散り、悲鳴が歌となり、血化粧を纏い、骸の山を積み上げる。死の舞踏だ。
『ハーピィ』は肉付が薄く小柄で踊ることが好きな種族だ。そのため、一部の変態からは圧倒的な人気がある種族だが、その見た目に反して極めて攻撃的な種族だ。強い者には柔順だが弱い者には徹底して辛辣な態度をとり、弱肉強食の原理を体現している。
いや、アマゾネスみたいな性格だな。
「んー?もういないの?」
「ええ、そのようですね」
死の舞踏を踊り終えた二人は辺りを見回し、それを見てため息を漏らす。
襲ってきた奴隷たちはほぼ全員が殺されたよ。やりすぎだ、と言いたいところだが襲ってきたこいつらが悪いから仕方ないか。
クミュとゼルは羽ばたいて南に向けて飛び去る。
この方向だと黒兎亭か。おおよそ、体に付着した血を流して別の服に着替えるためだろう。二人の服は胸に巻いたサラシとホットパンツだけだし、着替えはすぐだろう。
そういえば、あいつらは仕事で来たと言っていたがそこら辺は大丈夫だろうか。
「すみません、こちらに『ハーピィ』の姉妹が来ませんでしたか?」
ほら、やっぱり。
法服を着た人族の男性が屍の山や濃密な血の匂いに顔をしかめながら話しかけてくる。痩せこけた男性で手足は細く、窪んだ眼球と深い隈がこびりついている。
その手には人が一人入る程度に大きな巨大なバッグが持たれている。
この人が二人の依頼人か。……とりあえず、よく食べてよく寝た方が良いのでは?
「あの二人ならついさっき体の汚れを落とすために飛び立ちましたが……よろしかったら渡しておきましょうか?」
「ええ、ありがとうございます。我ら聖典の叡智を記すままに」
男は深く礼をしてバッグを手渡し、踵を返して法服の集団に向かって歩き始める。
あれは宗教関係者か?どうにも胡散臭い連中だが、それなりに人がいるし、かなり大きな宗教なのだろう。
「ん……?」
法服たちの集団の中に赤い瞳の少女が見え、手を振る。少女はそれに気づいて手を振り返し、どこかに立ち去る。
あいつもあの宗教関係者か。とりあえず、オグマの知恵袋を借りるとするか。




