Gシリーズ
黒兎亭に入り広間を見回す。
オグマの奴は……いないな。あいつがどこで何をしているのか分からないし、仕方ないか。
「お、レスティアじゃねぇか。ギルドの方で話題になってたぜ」
「……バズか」
ゴールドに食事を与え、広間でオグマを待っていると宿に入ってきたバズが快活な笑顔を向けて話しかけてくる。
微かに血の臭いがする。他種族は人族の罪を裁くためにハンターとして活動しているらしいし、この時間帯に帰ってきたということは仕事が早く終わったのだろう。
「ま、今日は休んどけ。ハンターギルドの最終兵器、スコルと戦ったんだしよ」
「ああ。……そういえばグリッドは?」
「あいつか?あいつは今副産物の換金しているぜ。金回りあいつにきっちり掴まれているからな。……んで、気になってるんだがよ……」
バズが一心不乱に食事を食べてるゴールドに一度目を流し、こちらに向ける。
「この子は?」
「ゴールド。スラムで小遣い稼ぎしようとしてたらまあ、色々とあって保護することにした」
にしても、凄い量を食べるな……。大人でも5人前くらいの量のオムライス3杯目だぞ。食事を持ってきてくれている黒兎も調理人も大変そうだ。
「スラムでねぇ……。あそこは獣人や『エルフ』系のガキが結構いるから奴隷商からしたら穴場らしいぜ。それに、裏の奴隷商からは掘り出し物が出てくるとか。それと、娼婦街……一応は繁華街って名前だけど、そこに行くことはあまりオススメしない。犯罪に巻き込まれちまう」
「そうだろうな」
少し入っただけで身ぐるみ剥がして売ろうとする連中なんだ、その中でも賑わっている繁華街に行くなんて自殺行為なんだろう。
まぁ、敵対したら殺すだけだし、殺伐していた方が気が楽なんだがな。
「見た感じ奴隷商から逃げてきたのか。普通の種族なら兎も角、『鬼』をこんな簡素な鎖に繋いでいたのが悪いな」
「ああ」
まあ、追っ手は私が殺したのだけどね。
「そういえば、種族はなんだ?『鬼』といっても色々と細かい分類があるらしいし」
「そうなのか?」
「ああ。一言に『鬼』と言っても『炎鬼』や『氷鬼』と変わるらしい。髪の色で魔法適性が分かるらしく、それで決めているんだと。オグマのおっさんは白髪だから『万鬼』、身体能力に優れた『鬼』だしな」
「なるほどねぇ……」
そうなると、ゴールドの種族は……、
「確か『金色夜叉』とか言ってたな。有名な種族か?」
「いや、俺は聞いたことがないな。『夜叉』なら東の島国【ヒノワ】に住んでいるけど……」
それは初めて聞いた。
名前的に日本に似た文化があると見た。角を渡したらそっちの方に行くのも悪くはない。
「おーす、やってるか?」
「あ、オグマ」
「オグマのおっさんか」
瓢箪をロープで括って持って宿に入ってくるオグマはにんまりと笑い同席する。
私達の顔を見回して察したような表情をする。
「んで、この小娘は誰だ?」
「ゴールドだ。一応ながらスラムで保護してきた」
「それでよ、種族が『金色夜叉』なんだが何か知ってるか?」
「ああ?『金色夜叉』だぁ?それはGシリーズ以外にいないだろ。もう千年近く前に絶滅した種族だからな」
ぶっきらぼうにオグマは言い、少し驚く。
……やっぱりGシリーズについてオグマは知っていたのか。まあ、元暗殺部隊だ、そういった後ろ暗い話は色々と知っているか。
「Gシリーズ……!?悪名高いあの……!?」
あ、バズも知ってた。というか、これは常識か?
「よく分かってねぇ嬢ちゃんに説明すると、Gシリーズっていうのは今の皇帝のひいひいお爺さん『古の神に近い種族を人為的に生み出して兵器として運用する』というコンセプトの元に始まった計画だ」
「しかし、計画は頓挫。作っても肝心な魂が手に入らないときた。だからお蔵入りになった筈だ」
「でも、一応ながら成功してるよ?」
オムライスを食べ終えた少女が不思議そうに呟く。
顔に付着した汚れを貰ったナフキンで拭くと少女はにんまりと笑う。
「どう意味だ小娘」
「うーん……魂が収まらないのなら作れば良いんだよ。何十人もの人たちから抜き取って、そこから必要な部分だけを取り出して魂を形作り、器に入れる。そうすれば完成するよ」
「……そういうことか」
ドヴェルグが持っていた魂の欠片はそこから出された不必要な部分か。……外道の所業だ、全く。
「ちっ……鬼畜な所業してるな。まあいい。嬢ちゃん、この子の面倒を見てもいいか。子供二人で過ごさせるのはちと危険だしな」
「良いけど……本人的にはどうなんだ?」
「構いませんけど……えっと、名前は?」
ああ、名乗ってなかったな。
「レスティアだ。種族は……あまり知られたくないから植物系とだけ言っておく」
「よろしくね、レスティアちゃん」
「はいはい。それじゃあ、後は頼むぞ」
「分かってるさ」
二人が上の階に上がるのを確認すると席を立つ。
さて、と。喧嘩を売りに行くとしよう。彼女はオグマに預けたから身の安全は確保できたし、こっちもこっちで動く必要があるからな。
「さて、俺もうご……あれ?」
立ち上がろうとしたバズがそのまま床に倒れる。
厨房の方を覗くと黒兎や料理人たちが床に倒れている。
……毒物の類か?
「むぅ……毒物が効きませんでしたわ」
「植物性の毒は植物系の種族には効かない」
「わかってるわ!あくまで睡眠薬、数時間ほど眠って欲しかっただけよ!あの男を追いかけてきたのだから、ここで殺せるようにしただけでも十分でしょ」
厨房の奥から出てくる少女たちに身構えることなく警戒する。
どちらもゴシック調のメイド服を着た可憐な少女たちだ。双方が同じ白い長手袋を着け、黒いチョーカーのようなものを着けている。
お嬢様口調の方は緑色の髪を短く切り揃え、頭には大きな花が一つ開いている。頬から首筋、恐らく背中や腕、足にまで木の幹のような皮膚をしており、目尻に朱を入れている。
ぶっきらぼうな口調の方は赤褐色の髪をショートボブにし、頬から髪と同色のトカゲのような鱗が見える。こちらはメイクの類いはしていないが額にハートマークの入れ墨をしている。そして、臀部からコモドドラゴンのような尾が見える。
『ドライアード』と『リザードマン』か。やれやれ、こっちとしては敵対したくないな。
「ん、私達は上に上がった男に用事がある。関わらなければ見逃せる」
「へぇ……」
見逃す、ではなく見逃せる、か。
「こっちとしては命が惜しいし、関わるつもりはないよ」
「わかりましたわ。ほら、行きましょう」
「うん」
少女たちは横を素通りして階段の方に向こう。
通り過ぎたのを確認し異界からナイフを2本ほど取り出し、左右に持ってクロスさせるように同時に投げつける。
「なっ……!?」
「ッ……!?」
飛来するナイフに気づいた二人は互いに反転しながら横に跳んでナイフを躱す。ナイフは階段に突き刺り、僅かに震える。
「どういうまねかしら」
「……関わるつもりはないのでは?」
「ああ。無関係なら、な。だがお前らの雰囲気はブルーというやつによく似ている」
盲目的に誰かを信じ、それを守るためなら誰かの命の火を消すことを躊躇わない、そういう連中だ。
少女たちは剣呑な雰囲気を身に纏い、睨みつけながら懐からナイフを取り出す。
「ブルー、あの子を殺したのは貴女でしたのね」
「そして、お姉様から片足を切り落とした者」
ちっ……雰囲気が同じなのは当然か。こいつらとブルーは同じだったのだから。
「名前は何だ」
「ノルディ・アリアドネ」
「同じくウェスタ・アリアドネ」
ノルディとウェスタか。いい名前だ。
「それじゃあ……移動するか」
徐ろに手を上げ、軽く叩く。
「ッ!?」
「えっ!?」
その瞬間、視界が反転しスラムに移り変わる。
濃密な血の匂いに顔を僅かに顰めるが、すぐに含んだ笑みを浮かべる。
「空間転移。まぁ今回が初めての挑戦だが、上手く行った」
距離に応じて魔力を使うし、転移させる人数によっても魔力が変動しそうだしな。今回上手くいったのは運が良かったからでしかない。
それでも、この火薬庫に転移できたのは私にとっていい方向に向いている。
「なるほど……お姉様が魔法の腕が良かったといっていたけどこれは規格外だわ」
「肯定、でも勝たないといけない」
そうだ、それで良い。ここで逃げられると億劫だしな、
「潰してやるよ、小娘どもが」




