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他種族の商人

全く……この程度の実力で私を殺せると思っていたのだろうか。


血に濡れた手を舐め、周囲を見渡せば地面には盗賊たちの骸が転がっている。


女、子供、一人とくれば盗賊が襲いかかってくるのは分かる。私もそっちの立場ならそうするのも変ではない。


だが、一週間の内に18回は可笑しいだろ。一日に約2回は襲われるって、この世界治安がかなり悪すぎる。


しかも、襲ってくるのは基本的に人族ばかりだ。逃げ出した他種族が盗賊に転じるのは分かるが、何故支配階級である人族が盗賊何てしているんだ。


「……そういえば、この服と頭巾、血に汚れてないな」


汚れのない白いワンピースと頭巾を見て少し違和感を感じながら異界からリュックを取り出して背負う。


転生した際に世界と世界の境界を見てしまったのか、世界の裏とも呼べる異界にアクセスする事が出来てしまう。これも隠しておかないといけない技術だよな。


森を抜け、街道に出ると何かを話すことなく歩き始める。 


盗賊から聞いた話だと、ここらへん一帯はエルボリート伯爵家の領地らしい。あの『エルドーラ』の少女を精神崩壊するまで傷つけたサド一家だ。


ここから北に行くとキケロ辺境伯が治める地域に出る。そこには、大きな商業都市があるそうだ。


馬車が使えればそれなりに時間を短縮できるらしいが、そんなお金ないし人族が使わせてくれるか怪しいからな。


「……ん?」


ガラガラという音が後ろから聞こえてきたため道の脇に逸れると馬車が通る。 


馬車は少し前に通り過ぎると少しずつ速度を落としながら止まり、御者が降りてくる。 


「何やってんや、嬢ちゃん」

「……え?」


降りてきた人物を見て、何度か瞬きしてしまう。 


降りてきた人物は若い男だ。黒い髪を短く切りそろえ、どこか子供っぽい笑みが張り付いている。しかし、本来白目の部分は黒く、両腕は力強く、刺々しい鱗に覆われている。 


間違いなく、他種族だ。


「嬢ちゃんの目的地はどこや?」

「……キケロ辺境伯の商業都市」

「アールエレインか。そんなら、ワイと同じや。乗ってきな」

「あ、ああ……」


男に促されるまま馬車に乗る。馬の手綱を握った男は手慣れた様子で馬車を動かし始める。 


不思議な雰囲気を持っている人物だな。けど、信用できるか分からない。


「何故、私に声をかけた」

「そんなん、いたいけな少女を見捨てておけんからに決まっとるやろ。それにな、アンタは実家におる歳の離れたワイの妹によう似とる。そんなのが盗賊に襲われんのは少し嫌やしな」

「ふーん……」


片膝を体育座りのように曲げ、膝の上にに頬を乗せる。


「なんや嬢ちゃん、下着の類を身に着けておらんのか」

「……無かったからな」


流石に大人用の下着を着けることはできないし、下を着けるのも面倒だったしな。


「まあ、この帝国は他種族に厳しいからな。あ、獣人用だけど子供の下着あるけどどうするん?」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」


後ろの荷台に置かれた木箱の中から何の柄もないパンツを探し、身につける。


これ、素材的に水着のようなものだよな。大きく作って後は紐の長さで調節するやつだ。


何時交換できるか分からない以上、あまり身につけたくない。それに、獣人用ということで尻尾を出す穴が空いている。……まあ、少し恥ずかしかったのは事実だし諦めるか。


「そんじゃあ、自己紹介といこか。ワイはパリス。『パキファロン』で商人をしとる」

「レスティア。……口外無用だが、私は『ミストルテイン』だ」

「ほえぇ……絶滅した種族の最後の一人かいな。そりゃ大変そうやな。分かった、誰かに聞かれても話さんでおく。……にしても、あの『種族淘汰』を切り抜けれたんた奴がいたんやな」

「……名前は知っているが『種族淘汰』で何が起きたのかよく分からない。教えてくれるか?」


上目遣いにパリスに聞くと、少し嫌そうに顔を歪める。


「あんまり女の子らしい態度をとらんどいてくれんか?別嬪さんなんやから、そんな態度とらんくとも男は靡く」

「……わかった」


こういった態度は苦手だしな。……それにしても、別嬪なんて言われてもそんなことが言われるほど顔立ちが整っているのだろうか。


「まあ、教えたるわ。『種族淘汰』ってのは数百年前に行われた他種族狩りや。起きちまった理由はその当時、人族の土地で疫病や作物が流行ったのに他種族の方では豊作だったからや」

「……そんなの、他種族の農作物が優れていただけだろ」


吐き捨てるように呆れ混じりに呟く。


この世界の生産体制がどうなのか分からないが、非支配階級である他種族が自分たちの生活は勿論、自分の命を守るためにはより美味しく、より冷害や虫害、自然災害に強い農作物を作り、それを献上するしかない。


人族もそういった農作物を作ろうとする動きはあっただろう。だが、人族よりも遥かに他種族の方が寿命が長く、経験も深い。明確な差が出て当然だ。


「本来なら酷くならなかったん筈やれど、当時の王族は舵取りに失敗したんや。そのため、人族だけは餓死者が出た。それを、人族が逆恨みしたんや」

「…………」


妬ましい、憎たらしい。自分たちが苦しんでいるのに何であいつらだけ。……当時の人族はそんな事を考えたのだろう。

まあ、その考えに至るのは無理もない。私も人族の立場ならそうなっているだろうしな。


「切っ掛けは、とある村で起きたことや。人族の子供が他種族が死んだことや。その子供はな、死に際に他種族が毒を畑に流しているのを見たといったんや」

「……そんな事、他種族の方がする必要ないだろ」

「せやな。その子供はな、有名な貴族の一人息子だったんやけど、とんでもない嘘つき小僧だったんや。せやけど、その息子を目ン玉入れても痛がらないほど愛していた父親は信じてしまったんや」

「……馬鹿だろ」


その貴族はとんでもない大馬鹿者だ。嘘を嘘と気づけず、それを信じた結果、何が起こるのかも予想できていない。


「そうやな。その結果が『種族淘汰』や。……おっと」


急に馬車を止め、ガクンと体勢を崩すがすぐに元に戻してパリスを睨みつける。


一体何が……ああ、そういうことか。


「盗賊か」

「ワイは他国から来た他種族や。せやから、普通の人族と同じくらいの地位はある。せやけど、いつ何処で殺されても文句は言えへんのや」


馬車の周囲を取り囲む盗賊たちを見てパリスは唸るように手綱を力強く握る。 


仕方ないな。さっさと都市に行きたいし、良い話を聞かせて貰った恩もある。少しやってやるか。


「動かないで。私が片付ける」

「あん?ちょ、嬢ちゃん!?」


馬車から飛び出し、近くにいた人族の男の首目掛けて腕を振るい、空気の刃で切り落とす。


数は50人程度か。この程度なら、殺し方はいくらでもある。

振り下ろされる剣を空気の盾で防ぎ、剣を持つ手を掴む。同時に盗賊は一気に老化し地面に倒れる。


細胞を酸化させ、急速に老化させる。体内の空気を爆破するよりも難しいが、無音で殺せるのは良いな。


「気をつけろ。このガキ、強いぞ!」


そんな事を言っている暇はあるのか?


大声を出す盗賊に肉薄し風を纏った貫手で腹を穿ち体内を爆散させる。


反転しながら血に濡れた腕を振るうと間合いにいた盗賊が数百メートルまで吹き飛ばされる。 


「に、逃げろ!勝てるわけがない!」

「くそっ、速く逃げないと殺されちまう!」


ま、出鼻を挫けばこの程度か。


盗賊は蜘蛛の子散らすように逃げていく。その有様をため息混じりに眺める。


やれやれ、何時もなら皆殺しだが今回はパリスがいるしやめておこう。


「うっへぇ……嬢ちゃん強いんやな」

「強くなければ既に死んでいた」

「ま、別嬪で強いなんて大人になったら本当にモテるんじゃ?」

「黙れロリコン」

「酷くない!?」 


軽口を叩きながらパリスは手綱を操り馬車を動かし始める。


たく……まあ、今回ばかりは良いか。どのみち、あくまで都市に着くまでの短い付き合いなんだしな。


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