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精霊の子供

光の剣が眼前に迫る。体を反らして躱し、バク転しながら追撃を足で弾く。


地面に足がつくと同時に指をエリザに向ける。指先から放たれる風の弾がエリゼの脇腹を貫く。


「くっ……!?」


後ろに跳んで間合いから外れるエリゼの周囲が爆発しすかさず詰めてパイルバンカーで腹を殴りつける。


「ごほっ!?」


身体をくの字に曲げたエリザの顎をサマーソルトで打ち上げる。大きく後ろに下がるエリザを見て少し口角を上げ、着地と同時に左手に風の玉を作り出す。


腰の捻りを加えてエリザの腹に掌底を叩き込み、空気の玉で吹き飛ばす。


「ぐううううううう……!?」


回転しながら吹き飛ばされるのを見ながら間合いを詰め、エリザが木に叩きつけられると同時にパイルバンカーを殴りつける。


パイルバンカーを起動しようとした瞬間、背筋を震わせるほどの悪寒を感じ取り、背後に跳ぶ。


同時に光の義足から刃が突き出る。


「ちっ……」


肩からの出血を手で押さえながら後ろに下がる。


あの義足、刃が出るのか。まあ、光の剣と同じ素材で出来ているだろうし、当然か。


間合いを詰め、振り払われる剣を足で防ぐいで間合いから外れる。開けた間合いを詰めてくるエリザに向けて手を叩く。


その瞬間、エリザが大きく吹き飛ばされる。


「ごほっ……!?」

「地雷はそこら辺にある。例えば……」


草、とかな。


私の意思に従い周囲に生えていた雑草の葉が独りでに動き、舞い上がる。


森に比べれば葉が少ないが……それでも十分だ。


草たちは立ち上がるエリザを取り込む。手を叩くと同時に草たちが一斉に爆発する。


「ぐうううううううう!?」


地雷よりも威力は高いが、数が足りないな。それに、火薬を使っているわけではないからあくまで叩きつけられるのは衝撃だけ。そこがネックだな。


吹き飛ばされ、地面に倒れるエリザに手を振り上げる。勢いよく振り下ろし真空の刃を放つと同時に起き上がりざまにエリザが光の剣を振るい、光の刃を放つ。


光の刃と真空の刃がぶつかり合い、弾かれると同時にエリザも私も互いを間合いに入れる。


振り下ろされる剣を右足で蹴り上げるて弾き、右足を力強く踏み込み風を纏った左手の貫手がエリザの脇腹を抉り取る。


「ぐうっ!?」


溢れる血を舌で舐め、傷口に向けてパイルバンカーを殴りつける。


「があっ!?」


痛みで顔を歪めるエリザの腹に左手の掌底を叩き込む。パァン!といういい音と共にエリザの鎧が砕かれ吹き飛ばされる。


真空の掌底。充分な威力だな。


「……まあ、それくらいで倒せたらそう簡単ではないか」


光が傷を癒やしながら立ち上がるエリザを冷静に見ながら内心舌打ちをする。


身体能力の強化、傷の修復、光の物質化と言ったところか。


「はあ……はあ……!」

「まあ、それほどの力が人族が扱える時点で変な話だがな」


息を荒らげ、生まれたての子鹿のようにガクガクと震える足で立つエリザを見ながら薄ら笑いを浮かべる。


前提条件で人族は身体能力、魔力共に他種族より遥かに劣る。それこそ、最弱の『ミストルテイン』にも劣るほどに。それなのに、他種族に迫る身体能力を得ている時点で可笑しな話だ。


そうなると、あり得るのは……、


「他種族との混血か」

「ッ!?」


図星のようだな。


肩が跳ね、動揺を隠すためか投げられる剣をパイルバンカーで弾き飛ばす。


「光に由来する種族か。見た目から『エルフ』系ではないし、『フェアリー』系か、はたまた『精霊』系か」


どちらも魔法種族として有名だ。


しかし、『フェアリー』系はそもそもその殆どが絶滅している。『精霊』系は全種族が絶滅した。


どちらも、数百年前の人族が行った【種族淘汰】が影響している。


「そうだ。私の母は最後の『光精霊』だ。だが、それがどうした。それに何の意味がある」

「意味はあるさ」


手を振り下ろし、エリザの真上に風の槍が落ちてくる。


横に転がって攻撃を躱したエリザに向けて手をタクトのように振るう。手の動きと合わせて風の弾が装填され、一斉に放たれる。


エリザは光の剣を作り出し、風の弾を全て打ち落とすと瞬きする間に間合いをゼロにする。


胸に向けて光の剣が振るわれると同時にエリザと私の間にある空気が爆発する。


「くうううっ!?」


衝撃でエリザは吹き飛び、地面を転がる。私は受け身を取り、地面に着地する。


自爆覚悟の地雷爆破。鈍器に撲られたような衝撃だな。


「はあっ……はあっ……!魔法種族ではないのに、何故ここまでの魔法を連続して行使できるの……!?」

「空気中の魔力を感じれないのか」


充電中の充電器が熱くなるのと原理は同じ。魔法を使うと使われた魔力の一部がエネルギーではなく無色の魔力に変換され、大気中に流出してしまう。私はそれを回収して再び魔力にしているにすぎない。


何故できるかって?何となくできた。


「大気中の魔力を吸収……!?熟練の魔法使いがやっと出来る技術が何故……!?」

「さあな。そんなの、私が知るわけないだろ」


驚愕するエリザとの間合いを詰め、パイルバンカーを胸に密着させる。


これで止め……!?


「お嬢様!!」


殺気を感じると同時に向けられた方向を向くと回転しながらナイフが迫っていた。


すかさず右腕のパイルバンカーを振るい一つのナイフを弾き、もう一つを刃を指と指の間で挟み、投げ返す。


「がっ……!?」


回避する事が出来なかったブルーの肩にナイフが深々とめり込み、ブルーは傷口に手を当ててよろめく。


「分かった!」


しまっ……!


光の剣を大きく振りかぶったエリザに驚愕する。同時にエリザが勝利を確信したような笑みを向ける。


「何てね」


身体が地面に傾けながら左手を腹に密着させる。


それと同時にドンッ!という鈍い音と共にエリザが吹き飛ぶ。


「ぶごっ!?」


口や鼻から血を吹き出させ、エリザは地面を何度もバウンドしテントを押し倒して地面に倒れる。


【宿り木の支配下】の応用。掌の中の空気を地雷に変え、物に触れると同時に爆破し相手を吹き飛ばす。


空中や地面の地雷とは違い、これは面ではなく点を貫く地雷だ。指向性地雷と言い換えても良い。


「ぐふっ、ごふっ……!」


仰向けになりながら口から血を吹き出すエリザを見下ろし、パイルバンカーを脳天に向ける。


最後に勝利を確信しなければ、これにも気づけたかもしれないが……それは現実ではない。


まあ、とりあえず、死ね。


「させるか……!」

「おっと」


前に回り込みながら振るわれるナイフを防ぎながら間合いから外れる。


肩や口から血を流しながらナイフを逆手に持ってエリザの盾となるブルーに憐憫の眼差しを向け、鼻で笑う。


「滑稽だな。その思想が、その心が主にとって都合よく作られているのにそれを信じてしまうとはな」

「黙れ。貴様に何が分かる……!」


唸るような声を出すブルーが私を力強い目で睨みつける。


「奴隷市場で死んでいくだけだった私をファーザーは助けてくれました。温かい家を、寒くない服を、腹を満たせるだけの食事を与えてくれました。訓練は大変だったけど、それでも、父と慕うファーザーへの恩義を報いなければならないのです……!」


「やっぱり、お前は憐れだ」


ブルーの独白を聞いてより深く憐れみの目を向ける。


死ぬ寸前の状態にした後に買い、ブルーにとっての幸せを与える事で信頼を得る。また、頼る者を無くしているブルーにとって、そのファーザーと呼ばれる人物は頼れる柱、言い方を変えれば依存先を得る事ができる。


ブルーは依存先を得た事でその対象から見捨てられることを強く恐怖し、見捨てられないよう盲目的に従うだろう。


更に言えば、狼や犬の獣人の特徴には忠誠心や愛情の深さがあると神様のカタログで読んだ。多かれ少なかれ、一度忠誠を誓った者には何があろうと付き従う性質があるらしい。


そして、ブルーの主はこれらを理解した上でブルーを洗脳をしている。


ブルーの主は真正の外道だ。


「その植え付けられた忠誠心を疑わない。そいつにとって、お前は都合のいい犬だな」


「黙れ……」


「奴隷市場で死んでいくだけだった?それはお前の主が奴隷商を買収して仕組んだ事ではないか?」


「黙れ……!」


「衣食住がしっかりしている?そんなの、自分のペットに餌を与えているのと同じでは?」


「黙れ……!!」


「ああそうだ。お前の主は正真正銘、真正の外道だ!盲目的に従うお前は、指図め主人に尻尾を振って媚びる愚かな犬だな」


「黙れええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


怒りの咆哮と共に突進してくるブルーを見て口角を釣り上げ、目を見開く。


「そんなんだから、お前は私の罠に気づかない」


間合いを詰め、眉間目掛けてナイフを振り下ろすブルーに向けて手を叩く。


その瞬間、ブルーの全身の穴から血が吹き出す。


「ッ……!?」

「お前が吸っていた空気は私の魔力の支配下。それを起爆させた」


カストロやポルクスのようにダメージを与えるためのものではない。確殺、確実に殺すために全身の血管を爆破した。


「…………」


眉間に触れるスレスレで止まったナイフと全身から血を流すブルーを裏拳で払い除ける。


地面に倒れたブルーを中心に血の海が生まれる。


私が言った事に確証はない。ただ、その異常な忠誠心と言動から考察した内容で煽ってみて理性を鈍くする。


「さて、エリザは……」


いない。いなくなっている。


血に汚れたテントを見るが、そこにはエリザがいない。


私がブルーを煽り散らしている間に逃げたのか。とすれば、エリザの前にブルーが立ったのはエリザを逃がすためか。


やれやれ、勝負に勝ったのに取り逃がしてしまったか。


「……そういえば、ブルーはエリザの事をお嬢様と呼んでいたな。となれば、ブルーの主はエリザの父親ということになるのか」


どうにも、嫌な予感がするが……まあ、別に良いか。再び剣を向けてくるのなら、殺してしまえば良いのだから。

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