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襲撃の寄生樹(エリザ視点)

「……暇だな」


仮設テントの中でカウチにゆったりと寝ながら僅かに欠伸を漏らす。チェスやリバーシ、トランプのような遊び道具が置かれた机に置かれたクッキーを手に取り、口に入れる。


森のほぼ中心にある隠れ里の位置を確認するためにベテラン一人と新兵二人を偵察させたが……それまでの間、かなり暇だ。


勿論、ベテラン数人で行かせればここまで時間はかからない。しかし、今回の目的はあくまで新兵たちの実戦訓練、あくまで教育である以上手間取ってしまうか。


「……お嬢様、その食べ方は些か見た目が悪いです。改めた方が良いでしょう」


カウチの後ろに立つブルーの苦言に僅かに顔を顰め、ブルーの顔を見上げる。正規の兵士ではないブルーは何時もの燕尾服を着ている。


「ここは私個人のテントで、私の許可なく入る事ができない。ある意味家や寄宿舎の部屋と待遇は変わらない。それにね」


カウチに立てかけた剣を手に取る。刀のような反りはないが真っ直ぐで、無骨な鞘に収められた剣を取り出す。


開閉式の排煙口から入ってくる日の光に当たり、銀の刃に当たり反射する。


「ここの騎士たちと私では明確な違いがあるの。そうそう殺られる事はない。まあ、懸念すべき事案はあるけどね」


剣を鞘に収めながら少し憂いだ表情をブルーに向ける。


獣人や『エルフ』ならどうとでもなる。だが、隠れ里を蹂躪するのに問題になってくるのは古い種族だ。今の獣人や『エルフ』とは比べ物にならず、その中でも古い種族は総体として強いからだ。それこそ、人族が絶滅しなかった方が珍しいくらい。


だが、最終的に人族が秘境に古い種族を追いやった。しかし、森や洞窟に留まり、隠れ里を作った者もいる。天変地異を神ではなく人が引き起こす。比喩なく天候を操り、血を砕き、法則にも縛らない彼ら彼女らは発見次第殺すよう説明してある。


この戦いは負ける要素が一切ない。


「騎士たちの実力は高いのは認めています。『ディバーンの鎧』の量産や研究の成果によって帝国の支配は盤石のものでしょう。しかし、それと傲慢になることは違います」

「傲慢ではない。私はあくまで必然だということを言っている」


女である私が帝国の剣になるために男たち以上の訓練と経験を積み、武術を磨いてきた。その努力の結果、家の力を使わずに一等騎士の位まで登る事ができた。


そこら辺の騎士では相手にすらならず、ブルーたち暗殺者とタイマンが張れる程度に強いことは自負している。


「そういえば、グリューとバルカは元気にしてる?」

「はい。二人は今、ファーザーに命じられて他国のスパイとして潜入しています。他は準備中です」

「準備中……」


お父様が保有している暗殺者の数は総勢40人。しかし、動いているのは3人だけ。お父様の事だ、何かしらの目的があるのだろう。それも、極めて大規模な。


「戦争でも起こすつもりなの?」

「はい。相手はリンビート王国です」


ブルーの発言に眉をピクリと動かし、身体を起こす。


「リンビート……鉱山と固有の薬草が目的かしら」


リンビート王国は鉱山と豊富な植物資源に恵まれた小国。また、極めて珍しい奴隷制がない国でもある。そのあり方から、様々な国から他種族が流入している。


「もしくは、『ドラゴニュート』が目的?」


山に囲まれたリンビート王国の山間部に『ドラゴニュート』が生息している。極めて強い戦闘能力を保有しているため、稀少価値が高く、我が国でもその価値は高い。また、『ドラゴニュート』の女性は一部の好事家や研究所から評価が高く、その需要も大きい。


「ファーザーの考えは私には分かりません。しかし、ファーザーとしても『ドラゴニュート』の暗殺者と愛人を欲しているでしょう」

「そうよねぇ……」


お父様は人族の女を愛せない。そのかわり、他種族の女を愛している。一応、正室と側室を持っているが殆ど手を出さず、自分が買った奴隷たちと交わっている。そのため、私を含めてお父様の子供たちはみな、他種族とのハーフという貴族の中でも特異な存在だ。


私と兄はその中でも見た目は人族に近しいということで外での活動を許されている。他の子供たちはみな家の使用人か暗殺者として育てられている。


「ねぇ、貴方はお父様がああも歪んだ理由を聞いてない?」

「いえ。少なくとも私は聞いておりません。ツヴァイとドライなら聞いていそうですが」


ツヴァイとドライ……ハーピィの姉妹か。確か、メインの仕事は屋敷の周りの警備だった筈だし、その成果を伝えるときにお父様ともよく会っていた筈だし、あの本音しか話さない二人の事だ、聞いていても可笑しくない。


「ですが、ファーザーが貴女たちを作っている理由は知っているでしょう」

「ええ。『美しき者を作る』ことがお父様の夢だものね」


お父様は貴族としての顔以外に芸術家としての顔も持っている。特に彫刻は国内外でも評価されている。そのお父様の傑作の一つが私なのだから。


私たちお父様の子供はお父様の作品の一つなのだから。


「し、失礼します!」


小腹が空いたためクッキーを食べていると一人の騎士がテントの中に入ってくる。


中年の騎士だが、彫りの深い顔には幾つもの傷がついており、筋肉隆々の身体には力が宿っている。


「どうかしましたか、バールド準騎士」


確か、彼はカストロとポルクスを連れて隠れ里の偵察しに行かせた筈だ。その二人がいないのに帰って来たのだから、何かしらのアクシデントがあったと考えて良いだろう。


「敵襲です!森の内部で子供の他種族と交戦。カストロ、ポルクスを撃破されました」

「……はい?」


バールドの口にした情報に僅かに怒り、カウチから立ち上がりバールドを睨み付ける。


「騎士が子供に負けた?それはどういうことだ。三行以内で答えろ」

「はっ。両腕に奇妙な武器を取り付けた子供の魔法によって両名が重傷を負い、その後、よく見えませんでしたが彼らから情報を盗み取っていました」

「そうか。だが、これで大義名分が出来た」


報告を受けて私はニヤリと笑い剣を引き抜く。


こっちから出向いて蹂躙するつもりだったが、向こうから仕掛けてくれたのなら大義名分が出来た。


さて、蹂躙を始めようか。


「他の騎士たちに連絡を。直ちに準備を整え、森に侵入。隠れ里を包囲後殲滅するぞ」

「はっ!」


バールドがテントから立ち去るとブルーが歩いてくる。


「……子供にやられるような兵士は使い物にならない。使える者と使えない者に分けれそうですね」

「ええ」


さて、私も準備を……。


「報告します!たった今、森より少女が現れ、騎士たちに攻撃を仕掛けています!」

「何!?」


別の騎士の情報に言葉を荒げてしまい、少し後悔する。それと同時に命令を下した。


「すぐに殺せ!」

「無理です!もう既に半数の騎士たちが殺られました!」


なん……だと……!?


「馬鹿な、相手は子供だぞ!?どうやったらプロの騎士が殺される」

「簡単な話だ。騎士たちの壊し方を理解しているからだ」

「ッ!?」


背後から聞いたことのない声が聞こえ、振り返る。


いつの間にかテーブルに座っている少女がパンッと手を叩く音が聞こえる。


その刹那、凄まじい衝撃で私とブルーが吹き飛ばされた事に気づいた。


「なっ!?」

「くっ……!?」


テントを突き破り、外に叩き出される。空中で体勢を整え、何とか着地し、辺りを見回す。


「なんだ、これは……!?」


周囲には騎士たちの骸が転がっていた。 


外傷はない。しかし、全員が自分の手で自分の咽を掴み、白目を向いて絶命している。


毒が散布された訳でもない。しかし、全員が同じ殺され方をしている。


「空気だよ。一定の空間内の空気をゼロにして真空に変えた。いくら強力な力を発生させる鎧を身につけてようがベースは人族なんだ、空気が無くなれば鎧を起動させても意味がない」


テントから出た少女が先ほど入ってきた騎士の首にキスをして投げ捨て、理知的に説明する。


「まあ、範囲外にいた二人を殺せなかったのはミスだな」


少女はほれぼれするほどの美少女だ。白いワンピースに白い頭巾、色白で細い手足に人形のように作り物とも思えてしまう可憐さと美しいを併せ持った顔立ち。瑠璃色の瞳がミステリアスな雰囲気を醸し出し、フードを外して見せてくる緑色の長い髪に赤と白の花が可憐さを引き立てる。


しかし、その眼差しは剣呑そのもの。そして両腕には篭手が、両足には具足が、右腕にはパイルバンカーが装着されものものしさを感じる。


十中八九、植物系の他種族だ。 


「空気の直接操作だと……!?」


それは絶対に魔法だろう。しかし、リアルタイムで変動する空気をこうも簡単に操れるのは彼女が極めて高い魔法の腕前と才能を持っている証拠になる。


「どうでも良いです。殺しましょう」


そうブルーが吐き捨てるとどこからともなく取り出したナイフを少女に投げつける。 


少女は飛来するナイフに手を向ける。ナイフが掌に触れる直前でナイフが勢いを失い地面に落ちる。


「しっ――!」 


短い呼気と共に回り込んでいたブルーが鋭い回し蹴りを少女の首めがけて放つ。


少女は身じろぎ一つしなかった。しかし、ブルーの蹴りが首に触れる直前に勢いを失い当たる直前で動きが止められる。


「空気を操れる時点で理解しておくべきだったな」


少女はブルーの蹴り出した足を掴むと投げつける。ブルーは空中で回転して体勢を整えて着地する。


同時にブルーの足元が爆発する。


「がっ……!?」


吹き飛ばされて地面を転がるブルーに少女が肉薄しボールを蹴るように蹴り飛ばす。


「ごほっ……!?」


蹴り飛ばされたブルーに少女が詰めようとするのを防ぐために二人の間に入る。


少女は小さく舌打ちをして私との間合いを開ける。


「お嬢様、彼女は強いです」

「ええ。分かっている。少女、名前はなんていう」


少女に問いかけると少女は少し驚いたような顔をするが、すぐに微笑んで答える。


「レスティア」

「レスティア……!?」


間違いない。彼女がクローリアが探していた少女だ。


あの『狩猟場』の生き残り、どうりで強い筈だ。


「隠れ里を庇うのは重罪です。大人しく投降すれば命だけは助けます」

「興味ないな。私は生きようが死のうが関係ないしな。それに、私は隠れ里を庇っていない。一人の奴隷を人として生きさせようとした人族の男がいたんだ、そいつらが殺されないようにする結果に過ぎない」

「目的は他種族です。人族は対象ではありません」

「それでもだ。お前らの所業を知っている以上、その言葉を信じれる訳がない」


確かに、正論だ。


レスティアの言っていることは極めて正しい。


レスティアには良くてお父様の手駒、悪くて処刑の道しか残されていない。


「だが、それでも戦闘は回避できます。いい提案の筈ですが」

「そっちにとっては。こっちにとってはデメリットしかない。というわけで、失せろ」


レスティアが駆け出し、私との間合いを一直線で狭める。咄嗟に剣を引き抜いて振るうがレスティアは空気を蹴って攻撃を躱す。


危険を察知して飛び退くと同時にレスティアの右腕に取り付けられたパイルバンカーから空気の杭が放たれ、反動でレスティアが大きく飛ばされる。


「はああっ!」


レスティアの後ろをとったブルーがナイフを横一文字に振るう。レスティアは着地と同時にバク転、ブルーのナイフをサマーソルトで弾き飛ばす。


「何故獣人が人族に従う」

「決まっている。ファーザーに救われた命をファーザーのために使うためだ!」


レスティアの拳とブルーのナイフとぶつかり合う。踊りのように振るわれる足と拳をブルーはギリギリのところで防いでいく。


その背後をとり、私は剣を振り下ろす。


「話の邪魔だ」


レスティアは反転しながら振り下ろした剣の腹を蹴って軌道を逸らし、拳を放つ。


僅かによろめいて後ろに下がるとレスティアか左手の指を弾く。


パチン、という音と共に吹き飛ばされる。


「がっ!?」


空気が、爆発した!?


衝撃で吹き飛ばされ、地面を転がる。


すくさま飛び起きると同時に倒れていた地面が吹き飛ぶ。


「何て魔法の腕なの……!?」

「生憎と、魔法種族ではないから二流が精々だがな」


回転しながら接近したレスティアの回し蹴りが脇腹に直撃し木に叩きつけられる。


うめき声を出す間もなくレスティアの拳で再び木に叩きつけられる。


「お嬢様!!」


さらなる追撃を試みたレスティアが腕を止め、横に跳ぶと同時にブルーのナイフが振り下ろされる。


痛む身体で立ち上がり、レスティアに剣を向ける。


「ふん……人族と、君は何の種族だ」

「『ワーウルフ』。狼の獣人の一種だ」

「そうか。それで、名前は?」

「……エリザとブルーだ」


不本意だが、彼女は名乗ったのだ、私達も名乗らなくてはならない。


「そうか。それじゃあ、潰してやる。あいつらの幸せを守るためにも、お前らは邪魔だ」

「そう簡単に潰されると思わない方がいい」

「ファーザーなら、貴女のような不確定分子は消すでしょうしここで殺します」

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