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【宿り木の支配下】

「はああああ!」


ポルクスが剣を中段に構え、私が間合いに入ると同時に剣を突きだす。


剣をスレスレの位置で躱し、パイルバンカーを突きだすと腕めがけてカストルの剣が振り下ろされる。


カストルの剣を防ぎつつ、ポルクスの蹴りを左腕で防ぐ。


パイルバンカーの威力を驚異だと認識したか。だが、パイルバンカーの特性上、切るのなら一撃で切らなければならなかった。


後ろに跳んで間合いを外れるがすぐにカストロが間合いを詰めてアンダースローで剣を振ってくる。


軌道上に左手の篭手を置いて攻撃を防ぎ、右腕の力で起き上がり崩れた体勢を戻しながら剣を弾く。


パイルバンカーをカストロに向けると同時に強い殺気を感じとり、空気を床を蹴って跳弾のように上に跳び、ポルクスの剣の軌道から逃れる。


攻撃の隙を互いに補完されるのは非常に困る。それに、相手は私に魔法を発動させる隙を与えないつもりのようだ。


そうなると、確実に殺す手段は一つしかない。だが、それもこいつらに使えるかどうか、分からないときた。


そうなれば、少し反則技を使う必要があるな。


「兄さん、あれを使うよ」

「ああ。俺もそれを切り出そうとしていたところだ」


あれ……?それは一体何……!?


戸惑いを感じながら着地すると同時に間合いをゼロにした二人の剣が振り下ろされる。


まず……!?回避は不可能だ……!


「おおっ……!?」


衝撃と一撃の重さに上半身が傾き、足が地面に沈み込む。


いきなり速く、そして一撃が重くなった。恐らく、これが本来の二人の技量だ。


身体能力で大きくアドバンテージを得られてしまった。だが、その程度、前世で嫌というほど経験してきた!


「ああああああああああ!!」


咆哮と共に全身に魔力を流し、身体能力を増強、力技で二人の剣を弾く。大きくのけぞる二人に掌を向け、掌の周囲の空気を操作して壁を作り二人に押し付ける。


「なっ……!?」

「強引な……!?」


壁によって地面を抉りながら押し出され、絶好の機会を奪われたポルクスとカストロは俺に怒りの形相を向けてくる。


鈍色だった鎧が赤くなっているな。あの鎧が力を与えているのだろう。となれば、鎧を破壊してしまえば問題ない、ということか。


まあ、無理そうだけど。


身体を翻して二人の攻撃を躱し、後ろに飛びながら空気の槍を生成し、着地と同時に投げつける。


一直線に飛ぶ槍をポルクスが両断し、すかさずカストロが間合いを詰めて剣を振り下ろしてくる。


空気の盾で攻撃を防がながら間合いを開けると真横から剣が振り下ろされる。


「っと……」


咄嗟に横に転がって躱し、起き上がると左腕の二の腕に切れ目が出来ていた。


……僅かに掠ったか。まあ、問題ない。


「兄さん、彼女はやはり……」

「ああ、間違いない。他種族だ」


やっと気づいたか。まあ、殺すのは確約している以上知られたところでどうと言うこともないが。


ポルクスとカストロの気配がより剣呑なものに変わるのを感じながら散布した魔力を操作する。


それと同時に二人の足元が爆発する。


「なっ……!?」

「嘘だろ……!?」


残念、事実です。


ギリギリのところで躱した二人が突進すると同時に空気が炸裂して吹き飛び、立ち上がれば地面が爆発する。


手を叩いたり指を弾く手動ではなく、私以外の触れたり干渉したりすると自動的に爆発する、謂わば不可視の地雷原。相手がどれだけ速かろうと確実に仕留める。


「名付けるなら【宿り木の支配下】と言ったところか」

「が……あ……」

「くうう……」


まあ、威力の方は手動よりも格段に落ちるけどな。


目に見える皮膚が壊され、ダメージが入れられ倒れる二人に近づきながら、パイルバンカーに力を込め、周りをみる。


中年の兵士は……逃げたか。流石に仕留めるのも億劫だったし別にどうでも良いか。


「質問に答えろ。でなければ殺す」

「はっ……他種族に答えるとでも?」


飛び起きながら剣を振るってくるカストロにため息をつき、パイルバンカーを横に振って弾く。


カストロの手から剣が離れ、呆然としたところに背後から剣が振り下ろされる。


手を軽くと同時にポルクスの周囲の空気が炸裂する。


私の支配地域の中である以上、ここにある空気や地面は私の支配下にある。爆破させたり、潰したりするのも私の自由だ。


「ゔぐあぁ!?」


吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れ起き上がらないことを確認し、首根っこ掴んでカストロの横に捨てるように投げる。

立ち上がろうとするカストロの顔面を蹴って地面に倒す。


「ぐっ……!?」


まだ起き上がろうとするカストロの上半身に乗り、パイルバンカーをポルクスの脳天に向ける。


「質問に答えろ。でなければ大切な弟は殺す」

「答えるものか……。貴様ら他種族に屈する訳にはいかない!」


潔癖だなぁ……。帝国の人間からしたら、他種族に従うということがどれだけ屈辱なのかがよくわかる。


私としては、質問に答えてくれれば生きて帰してあげたのに。


仕方ない、あれをやるか。


頭に生えた赤い花から雄しべと雌しべが伸び、男の耳の中に入り込む。


「がっ……」


男は悲鳴を上げることなく目から生気が抜け落ちる。


「【寄生粉】」


『ミストルテイン』には男性はいない。なら、どうやって繁殖するのか。答えは単純、『ミストルテイン』には女性に男性の器官が備わっているのだ。


植物が花粉を出して個体数を増やすように、『ミストルテイン』は生殖細胞が入った花粉を相手の体内に直接入れる事で個体数を増やす。ちなみに、普通の交わりでも可能。


そして、その花粉とは別に通常時に散布している花粉と特殊能力のための花粉、【寄生粉】が存在する。


この特殊能力はその花粉を対象に取り込ませる事で相手を一種のトランス状態にする事で、相手を人形のようにする。謂わば自白剤だ。


まあ、この花粉の影響がないのは私だけで、もし密閉空間で使えば悲惨な事になるのは確実だし、花粉が重いのかすぐに落ちてしまうため直接体内に突っ込まないといけやいのが欠点だが。


「それじゃあ、答えてもらおうか」

「はい」


よし、効いてるな。


「その鎧はなんだ」

「この鎧は帝国兵士専用防具『ディバーンの鎧』。魔力を消費することで身体能力を向上させる事ができる」


身体強化のための道具、ということか。


「次に、何故この森に来た」

「この森にいる他種族の掃討、及び新兵の実戦。私たちは偵察の予行練習で来ていた。本隊は私達が帰り次第、森に入る」

「……そうか」


言い終えたカストロの眉間にパイルバンカーを向け、起動。問答無用の衝撃で頭が破裂する。


衝撃で痛む右腕を振るい、真空の刃でポルクスの首を切り落とす。


「……兵士どもめ、隠れ里に襲撃するつもりか」


不愉快だ。あまりにも不愉快だ。


絶命したカストロの体から降り、怒りを滲ませながら歯をカチカチと鳴らす。


こいつらの話ではこいつらが帰った事で本隊が進軍する手筈となっている。逆に言えば、帰さなければ動かない。


「……消すか」


正直に言って、私はあの里がどうなろうが関係ない。


だが、あの芽吹きかけの少女と芽吹かせようとする青年がいる以上、助けなければならない。


「……さあ、殺し合いの時間だ」

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