表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/51

奥の手

「キイィッ!!」


怒りの形相をした猿が一気に飛びかかってくる。


はっ、やっぱりな!こんな、簡単な挑発に乗ってくるよな。何せ、お前は人の言葉は分からないが人に近い頭脳を持っているのだから。


横に跳んで猿を躱し、大きく距離をとる。


怪我が酷いうえ、最後の一撃を確実に当てないといけないからな、なるべく慎重に動かないといけない。


「キイィ!!」


猿が間合いを詰め両腕を上げる。それと同時に、後ろに飛びながら激痛が走る右腕を左手で持ち上げて照準を猿の顔に向ける。


「ウキッ!?」


ほい、引っ掛かった。


猿の身体が僅かに硬直して僅かに口角を上がるのを感じる。

頭が良いと、ハッタリに引っ掛かってくれる。しかも、その威力を2度も見せられたら警戒してしまう。


だが、そこに付け入る隙が生まれる。


爪の間合いを弧を描くように避けて詰めて跳び、猿の膝の裏を目掛けてのしかかるように足を押し付ける。


「ウキィッ!?」


膝カックンの要領で体勢を崩す猿を足場から跳んでサマーソルトで後頭部を蹴り上げる。


「ウギッ!?」


後頭部を手で押さえる猿に左手を向け、周囲の落ち葉を操作、巻き上げる。


少しくらい、目眩ましにはなるか……!


「キィィィ!!」


木の葉の渦を突破した猿に驚愕しながら真横に跳躍して突進を躱し、着地と同時に膝を折り曲げ、地面を蹴る。


勢いよく跳び、振り向いた猿の顔面に素足の蹴りを眼球目掛けて叩き込む。


「ウギイッ!?」


流石に眼を潰す勢いの蹴りは猿でも効くな。目を攻撃するのは常套手段だし、案外使えるな。


「ウギッ!」


猿が右目を手で押さえながら跳び退くと近くの木を引き抜いて投げつけてくる。


身体を屈めて木を躱し、振り下ろされる爪をムーンサルトで弾く。


視線誘導か。なるほど、考えたな……!


波の如く絶え間のない攻撃を躱し、足で弾きながら頭をフル回転させる。


右腕を使うタイミングを封殺するために絶え間のない攻撃、視線誘導に時折混ぜられるフェイント。こいつ、どんどん頭脳が高くなっていやがる……!


だが、そこで焦って無理に攻撃に転じれば攻撃が直撃する。『奥の手』を発動させても良いかもしれないが、あれは中々に賭けをする必要がある。安全策があるのなら、そっちを選んだ方が効率的だ。


「ウキッ!!」

「あああ!!」


爪を薙ぐ攻撃をバックステップで躱すと同時に体に一筋の線が刻まれ弾き飛ばされる。


すぐに後転して起き上がり、その場を蹴って離れ、振り下ろされる追撃を躱す。


「ちっ……!」


右腕に刻まれた一筋の浅い傷を見て怒りを滲ませながら振り下ろされる爪をサマーソルトで弾く。


着地と同時に後ろに跳んで薙ぎ払いの攻撃を躱す。


こいつのメインの戦い方は爪を用いた戦闘方法。体勢を維持するために両足を用いた攻撃はできない。だが、それでも……!


「キィヤァッ!!」


猿のムーンサルトを左腕を盾にして防ぐ。同時に叩きつけられる衝撃で口から血が吹きでる。


相手は私の攻撃を学習している。そのため、動きを真似してくる。


猿というのも厄介なものだ。人に似た骨格をしているから私の動きを学習すればそのまま流用できる。何て生物を生み出したんだよ、あの神様……!


「難易度ベリーハード過ぎるだろ……!」


だが、これでより攻守の技量が高まってしまった。これだと、負傷から換算してもこっちが殺されるのが先か。


猿もそれが承知で攻撃してきている。私にパイルバンカーを使わせる隙を与えないつもりか。事実、猿の動きに隙がない。


水平の蹴りを身体を逸らして躱し、続く蹴り上げを折れた右腕を盾に防ぐ。


「ぎっ……!」


より骨が砕けた激痛に顔を歪ませ、同時に猿が踵を上げ、勢いよく振り下ろしてくる。


調子に乗るな……!


痛みを堪えて前に出て振り下ろしてくる足を左手で逆に持ち上げる。


「ウキッ!?」


体勢を崩した猿はそのまま後頭部から地面に倒れ込む。


猿が痛みに悶る間もなく右手首を左手で掴み、猿の右足に密着させ、パイルバンカーを起動、魔力の杭を放つ。


「ウギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!?」


ズドンッ、と重い音と共に猿の右足が千切れ、反動で右腕に凄まじい衝撃が押し寄せる。


「ぐああっ……!」


悶絶する猿に押しのけられるように飛ばされ、地面に尻もちをつく。焼けるような痛みが走る右腕を抱えながら立ち上がる。


あと一撃、確実に葬る……!


「ウキィ……」


猿は痛みに顔をより真っ赤にして起き上がり、四つん這いの体勢をとる。


出血から考えてもこれで最後の攻撃にするつもりか。確かに、その巨体の突進を避ける気力を私はもう持ってない。いくら身体能力が高くても、スタミナは普通の子供と差がない、ということか。


……仕方ない、か。


「ウキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」


猿が咆哮と共に私に向けて突進してくる。失われた右足を両手でカバーし、勢いをつけていく。それを私は避ける事なく受け、真上に吹き飛ばされる。


「【寄生樹】」


そして、告げる。


全身に蔓のような紋様が浮かぶと同時に眼下に写る猿にも同じ紋様が浮かび上がる。


「ウギッ!?」


それと同時に猿の全身から血が吹き出し、地面に倒れる。


落下しながら何とか受け身をとって衝撃を逸らしてダメージを緩和する。


あっぶねぇ……前世だったら確実に死んでいたぞ、今の。『ミストルテイン』で助かったぁ……。


痛む身体を起こして立ち上がり、血だらけの猿を見下ろす。


『ミストルテイン』に転生した際の特典は『特定条件下で自身の受けた攻撃を数倍の威力にして相手に返す』というカウンター能力だ。インターバルは一分。


だが、これはかなりシビアな条件をクリアしなければならない。


まず『反射する対象が生物である』こと。そのため、武器を使われたら反射する事はできず、自傷も意味をなさない。


次に『花から出ている花粉を吸っている』こと。そのため、近接戦が主体にされてしまう。


さらに『自身が満身創痍の状態である』こと。そのため、一方的に使う事ができない。 


そして『攻撃を食らって一分以内である』こと。そのため、どの攻撃の傷が良いか見切りを必要となり、ダメージ管理が必要となる。


この四つをクリアしなければ使う事すらできない。


だが、その反面かなり強力だ。決まれば確実に相手を殺す事ができる。まあ、使う機会があるということは追い詰められている、ということにもなるけどな。


「ゴホッ、ゴボッ……」


ちっ、身体の方はもう限界か。死んじまうかもしれない、が……ま、死んだら死んだであの神様を驚かせよう。


木の幹に凭れ掛かるように地面に座り、力を抜いて俯く。


……そういえば、あの『ドラゴニュート』に渡された角を渡せて無かったな。それは心残りだな。


「ちょっ、君、大丈夫!?」


意識が薄れてきていたら突然声を掛けられ聞こえた方に顔を向ける。しかし、それと同時に意識が暗闇に引きずり込まれるような錯覚を受ける。


はっ……死体を確認してもらえただけマシか。さっさと寝てしまおう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ