転生前
気がついたら、そこは満天の星空が広がっていた。
……なんだ、ここは。いや、私にとっては気にする事はないし、現状は理解できている。
「おおよそ、死後の世界か」
私は過去の所業から考えても地獄行きが決定しているかと思ったが、存外綺麗な場所だな。まあ、星空を見たところで意味をなさないが。
「ええ、貴方は地獄行き確定ですよ」
だろうな。
振り返ると女性的なフォルムをした光が立っていた。
それで、何時になったら地獄に落としてくれるんだ?
「……怖くはないのですか?」
「ああ」
私は人間を殺した。理由何てどうでもいい。それだけが明確な事実として残る。
だから、俺は死刑で殺された。それだけだ。
「……雨宮ちひろ。没年28歳。三年前にとあるマフィアの構成員やコネクションを持つ人たちを殺し尽くして出頭、死刑が確定し三年後に死刑執行……貴方の生い立ちは理解していますが本当に受け入れているの?」
「まあな。あいつらを皆殺しに出来たからもう後悔はないさ」
私の妹がマフィアの慰み者になって末に殺されてから十年。十年もの年月を費やした復讐劇は既に幕引きがなされた。地獄に行くことに後悔はない。
あいつらも、地獄に行っているのだからな。
「そういえば、ここはどこだ?」
「ここは『星の臨界』。死んだ魂を収集し新しい世界に転生させる役割を持っています」
「へぇ……」
転生、ね。まあ、私としてはそこら辺の犬にでも転生させてもらっても構わないけどね。
「本当に無頓着と言いますか……新しい人生なんですから真面目に考えて下さいよ」
「興味ないよ、そんなもの。私の人生はもう終わったも同然なので。それと、心の声でも聞いているのならやめて貰いたい。不愉快だ」
「…………」
どのみち、転生先も転生する世界も神様の采配で決まるものだろ。なら、ここで何を言っても無駄な話だ。
「……貴方がこれから転生する世界の名前は『ニライカナイ』。多種多様な種が生きる命の楽園として設計した世界……でした」
「…………」
「しかし、長い時間が経つに連れて人族……ホモ・サピエンスが台頭、結果として他の種族が陰惨な扱いを受けている有様なんです」
「……まあ、それを生み出した神様の誤算だな」
私が知る人間というのはどこまでも欲深く、どこまでも他の生物に傲慢になれる。
神様は人間を作ったが、人間の際限の無さは創造主の想定を超えたのだ。
「それで、私をそこに転生させるが……何の目的だ。お前に何の利益がある」
「……利益何てありませんよ。打算に塗れた不完全な生物とは違うのです」
「不完全、か。よく分かってるさ」
何せ、私は人間だからな。人間の不完全さは理解できている。
最も、私は自分を人間だとは思っていないが。
「それで、どんな種族に転生できる」
「やっと乗り気になりましたか」
神様が嬉しそうに言うと手元に分厚い冊子が虚空から現れる。
手に取り開いて見ると様々な生物のパラメータが写真付きで書かれていた。
この中から選べ……ということか?六法全書よりも厚いぞ。
「オススメの種族とかないのか?」
「ありません。魂の規格の問題で虫や動物には転生できませんのでそれ以外は自由です」
なるほどねぇ……こりゃあ、かなり時間がかかりそうだ。理由は主に二つある。
まず、記載された情報の密度があまりにも多すぎる。身体能力は勿論、外見的な特徴に魔力の性質、魔力量、現状まで様々な情報が書かれている。しかも、転生時に貰える特典までもかなり書き込まれている。
また、この冊子には絶滅した人についての情報まで書かれている。転生可能だとは書かれているが、こちらの情報はあまりにも埒外だ。少なくとも、現生生物では相手にならないほどの怪物たちだ。
「古代と現在ではやはり違うのか?」
「ええ。基本的に絶滅した人は限定的な神に近い種族でしたから」
なるほどねぇ……ん?
説明を受けながら読んでいたページで目にとまる。
種族の名前は『ミストルテイン』。別名は『宿り木』。外見的な特徴的は同じ植物系の人である『ドライアード』に酷似していて頭に大輪の花を咲かせており、種族として共通で瑠璃色の瞳を持っている。
身体能力、魔力は人族を除く全ての人の中でぶっちぎりで最弱。特殊能力も条件が厳しすぎ。特典は強いけどあまりにもピーキー。絶滅理由は弱すぎた事による乱獲というあまりにも残念な種族だ。
けど、こいつの能力は使い方次第では恐ろしいものになる。特殊能力も特典も『宿り木』らしい決まれば凶悪な力を持っている。圧倒的に強い力よりもこっちの方が好みだ。
「決めた。私はこれにする」
「……いいの?この種族、単性で女しかいないよ?」
「構わない」
そもそも、性別なんてどうでもいい話だからだ。
「……分かった。それじゃあ行ってらっしゃい」
神様がそういうと同時に私の視界がホワイトアウトする。次第に五感が感じなくなっていく。
転生……転生か。死んで地獄に落ちるだけだと思っていたが、世界というのは案外慈悲深いな。