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六月の告愚痴

作者: 一利

 価値観の違いって埋まらないし埋められない。

 私は英語がなんとなく分かるけど、フランス語やポルトガル語が分かるわけじゃない。

 努力で差を埋めるしかないのなら、人は努力し続けしなければいけない。スタート地点が不平等なのに。

 だってそうじゃん。お金持ちの親がいて、優秀な先生が、競い合える敵が近場にいるのと、そうじゃないのって全然違う。

 都会の便利と田舎の便利は全然違うように、そこにある自由が違うことを知らないと分からない。

 検索エンジンでヒットするのは刹那的な結果の出し方ばかり。執念深く努力し続けるなんて、「流行り」じゃないんだよ。

 コンテンツは消費するものだし。芸術は掲げるための立て札だ。数が多いって誰でも分かりやすいセールスポイント。収益、フォロー数、再生数。記録更新って毎月毎週やってるよね。

 今や配られたビンゴカードに穴を開けるような安っぽさで感動していく。ピックアップの話題作を共有して、満足していく。

 とても自然に数字を比べ合う。

 感動は味わうものから、共感の道具に成り下がった。有名作品を知っていれば話題に困らないものね。

 いいよ。知ってる。これまで上げたすべては私の愛すべき恨み言だ。嫉妬と寂寥だ。

 努力して結果を出す人がみんな大好きだ。きっと奴らみたいな人間を英雄って言うんだ。天才を担ぎ上げるのが凡人の役割だ。

 本当は私もそちら側だ。私は凡人。いや平均的で普通の人にすらなれていない。

 だって私には才能がない。誰にも認められてないし、私だって私を認めない。何一つ結果のない自分をどうして誇れようか。だから全部全部、奴らに八つ当たりってね。

 百人を殺せない。百人を殺さなければ英雄になれない。

 私という感受性をいくら表現しても、人を撃つ力が足りない。殺したい。

「感動を届けたい?」

 おめでたい勝利者の言葉だ。成功したから信じられるのだ。自分のことを。失敗したら、自分のことを信じられるわけがない。

 「苦しい」ならやめればいい。「辛い」なら休めばいい。

 だから、だから、嫌いなんだ。

 それはただの遅れだ。人より才能がないのなら、もっと時間をかけるべきだ。ない才を地力で誤魔化して、ようやく始まるんだ。

 一生懸命作ったものは、誰にも気づかれずに埃をかぶって消えていく。忘れていくし、私もきっと思い出さない。

 それでいいんだ。才悩人な私の物語は、うず高く積まれ読まれず、私が仁王立ちする足場になる。

 何も残れないかもしれない。誰にも読まれないかもしれない。お金にならず、時間の無駄かもしれない。

 それがどうした。

 私は力が足りないけど、私が書くのをやめる理由にはならない。

 恨みも、呪いも、嫉妬も、やっかみもここにある。ただただ苦しいという言葉さえ、床に詰める。振り返ればもう捨てられない程縋って、学校も卒業しそうになっている。捨ててしまえば、自分も失くせて身軽になれそうなほどだ。

 私が私である限り器の小さな愚痴を零し続ける。今はただこの思考が止まってしまうことが怖いと。死ぬことが怖いから、書き続ける。じゃないと人生なんて投げ出してしまいそうだ。それぐらい私には価値がない。

 それでも私は生きていたと、思わせるために言葉を遺す。



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