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black out  作者: 舞織
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五話・月崎恭子編・その五

これはいつかの、恭子と李焔のお話です。

月崎恭子編と称していますが、だいぶ李焔編っぽいです。








「恭子さんって、お幾つなのですか?」


きょとんとした表情で、言ってみせる李焔。

私は「…」とジト目で彼を見上げると、一つため息をついた。


「女性に年齢を聞くものじゃない、って、先生に教わらなかったのかしら?」


「先生…ですか。そうですねえ、僕が幼かった頃は数学や馬術、たまに児戯として球蹴りをやったりしましたけどね」


懐かしそうに、李焔は目を細める。


「へえ…って馬術!?あんた一体、どこの国の人間よ!思わず聞き流すところだったわ…」


思うに、こいつには謎が多すぎる。

てか、内容が滅茶苦茶な気もするけど…。


たまに、李焔は私とは違う時代の人間なんじゃないかと思う時がある。

そんなはずは、ないはずなんだけれど…


「私の故郷は、日本国とは違う大陸ですよ。」


「まあ、その服を見て違う国なんだろうなーとは思ってたけど…それって民族衣装?」


中国服仕様の、彼には少し長そうな袖。

韓国の方か、中国の方か、それとも朝鮮の方なのか、私は民族衣装には詳しくないけれど。

まあ、私の着ている着物みたいなものなのだろう。


「正装ではなく、簡易服ですけれどね。」


言って、長い袖で口元を隠し、クスクスと笑う李焔。


「何がそんなに楽しいのよ?」


「これは失礼…ただ、僕にしては珍しく、昔を思い出していただけですよ。」


ふーん、こいつも、昔を思い出したりとかするんだ…

そりゃまあ、当然の話か。


あ、いい事思いついた。


「ねえ、聞かせてよ。李焔の話。」


「え…別に面白くも何ともありませんよ?」


言って、でも李焔は少しずつ話始めた。

私はいつもより表情を輝かせて、耳を傾ける。


「僕には、生まれた時から婚約者がいましたね。」


「こ、婚約者…っ!?」


しかも生まれた時からって、一体どんな上流階級だったのよ。


「ええ。僕は幼かったころはしょうと呼ばれていまして…、婚約者は李鈴りーれい、学生の頃とくに仲のよかった友人はりぇんという名でした。

もうこんなに立派な見目麗しい僕でも、学生時代はホントにわんぱく坊主でしてね…友人たちとよくやった球蹴りで、師である冠儒かんじゅ先生の壷を、よく割ってしまったものです…。」


…こいつ、自分で自分のこと見目麗しいとか言いやがったわ…。

でも、李焔があまりに楽しそうに話すから、あえて匙は投げない。


まあ、言うの悔しいから言わないけど、実際こいつ、かなり綺麗だしね。


「それで罰として家畜小屋の掃除をさせられたり、学び舎の廊下、教室を全部水拭きさせられたりと…そうですね、一番辛かったのは町内を水いっぱいのバケツ両手に十周でしたか。」


クスクスと、本当に楽しそうに。

まるで昔に戻ったかのような、李焔の表情。


「なぜか、失敗ばかりの子ども時代でして…ですがそれなりに、楽しかったのですよ。」


「……。」


気のせいか一瞬、李焔の表情が曇った気がした。


「本当に、楽しかった。当時は近くの山で秘密基地を作って、学業が終わるといつでもその秘密基地に集まって、三人で遊びましたね…」


やっぱり少しだけ、彼は寂しそうに笑っていた。

なんだか思わず、目を逸らしたくなる程に。


「そのあとは…」





ざわ――――――、木々の葉が、舞い上がる。





「あはは、」


彼は、言葉に詰まっていた。

何か嫌な思い出でも…思い出したのだろうか。


「ここから先は、あまり面白くはないですね…」


「…そう………」


私は、目を逸らした。

なぜかこれ以上、彼のこんな表情を見ていたくなかった。


李焔らしくも、ない。




李焔らしさって――――なんだろう。




思えば私は、このフェンスの上の彼のことを何も知らないのに。

彼だって、私のことは何も知らないけれど。


でも、


「いつまでも、そんなシケたツラしてんじゃないわよ」


「はは、酷いですよー。僕は決してシケたツラなどしていません。」


それに、と李焔はまるで小さい子に教え諭すように、こう言った。


「淑女がそんな言葉使いをしてはいけませんよ?」


「…」と、私。

見ると彼は、いつも通りの笑顔でクスクスと笑っていた。

一瞬、呆気にとられる。






「今度は恭子さんのお話も、聞かせてくださいね?」







思えば李焔があんな情けない表情を私に見せたのは、あの時の一度きりだった気がした。




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