四話・月崎恭子編・その四
ヒロイン結構発狂しております。
※
震える。身体中が震える。寒くない。まだ寒いなんて季節じゃない。それなのに、それなのに震えが止まらない。
どうすれば、どうすれ、ば。
私は一体、どうしたらいいの――――?
どくん、どくん、と私の中で脈打つ何か。
怖い、恐いこわいこわい怖い怖いの、コワいこわい怖い恐い恐い死ぬが、生きるのが?恐い恐い恐い怖いただ終わらないのがコワい、怖い、いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだイヤダいやだよ!!!!
(「ああ…死ぬのが怖くなったんだ?」)
言ってた。李焔が。
あれは一体、いつのことだったんだっけ?
私、
私はまだ、生きてる?
誰も答えてなんか、くれない。
私が死んだら、他の誰かは悲しんでくれるのかな?
父さんや、母さん。あの人は――――――私の、ことを。
まだ知り合ったばかりだけど、鈴凪さんは―――――。
フェンスの上の、彼は。
「う、っううううう、…ううううううう、うう、っああ、」
声が、漏れる。別にいいじゃない。他に誰も居やしないんだし。
私だけの部屋。私しかいない。私だけの世界だもの。
たった一人の、私の牢獄。
私は右手に持った刃物を見つめる。
いつも果物とかを切ったりに使ってる、アレ。
やけにぼんやりと、やけに幻のように、私には見えた。
銀色
いや、灰色なのかな
わからない。
もう、とっくの昔に普通でなくなった私には――――――――!
人でなくなった、私には。
きん、と音を立てて、それは私の手から滑り落ちる。
ぼんやりと、外を眺める。そしてゆっくりと、視線を机の上へと移動させた。
「…………」
両親からの手紙は、最初の一年目でこなくなった。
忘れられてしまったのか、死んでしまったのかわからないけれど。
それによって私は本当の意味での、外の世界とのつながりが途絶えた。
寂しくはなかった。
悲しくはなかった。
嘘。本当は寂しかったし、悲しかった。
それぐらい、私には縋れるものが欲しかった。
だから李焔と会えたあの日は、本当の、本当に嬉しかったんだ――――――。
私が泣いてた時、いつも傍にいてくれた。
慰めは、彼は絶対にしようとはしなかったけれど。
ただ、そこにいてくれた。
誰かが死んで、私がどことなく落ち込んでるときとか。
下らないことで言い合えたりとか、そんな普通の日常が、私は欲しかったから。
どんなに手を伸ばしたって、私には届くことのなかった幸せ。
結婚もしたかったし、子どもも欲しかった。あの人と、一緒に生きたかった。せめて女としての人並みの生活を生きたかったんだ。
「………、」
考えないようにしてたのに、欲しかった幸せを思い浮かべるときりが無かった。幸せになりたいと思った。死にたくないと思った。生きたいと――――思った。
ここから、ここから出たい――――――!!
ぽつり、ぽつりとひんやり冷たい床に、雫が落ちていく。
私の頬を、伝っていく。
外はもう暗い。
空気はもう冷たい。
ごほ、と私は咳き込む。
私の目に映る、真っ赤な血。
鈴凪さん――――――私だって、もう長いわけじゃないんだよ。
私の身体は、もうとっくの昔に悲鳴をあげてた。
私の心だって、悲鳴をあげてた。
私はいつだって、目を閉じ、耳を塞いで気付かない振りをしていただけ。
さっさと終わってしまえばいいと思った。
でも終わって欲しくなかった。
あいつとまだ―――――楽しく喋っていたかった。
あとどれぐらい持つの――――?私の、身体。
だるい身体を、起こす。身体は、いつもより重く感じた。
寝台に、寝転がる。
もう、泣かない。
今決めた。
だから、私自身が朽ちてしまう、その時までは―――――。
物語は――――死に向かう。
恭子と李焔はどういう終わりを望むのか。black outの元を読んだことのある私の友人たちにとっては違うラストを迎えると思いますので、しばしの間、この物語にお付き合いください。