三話・月崎恭子編・その三
滅茶苦茶にしてあげましょうか?
※気付いたら、次の日の昼間だった。
私はただ、ぼーっと窓から差し込む日差しを見つめる。
「………、」
もうこんな時間、か…
私はだるい体を起こし、羽織とタオルを片手に自室を出た。誰もいない廊下に出ると、私の履物だけが軽い音を響かせる。
からん、からん、
廊下を右に曲がり、外へ。
結局《療養所》内を出るまでの間、誰ともすれ違うことはなかった。
ここ《感染者専用第十七療養所》には医者も、ましてや看護婦も存在しない。
だってここは…病院では、ないから。
月に一回、知らない誰かが僅かな食料を運びにくるだけで。
閉じ込められはしても、誰も自分の世話はしてくれないのだった。
だから勝手に生きて、勝手に死ぬだけ。
それだけが、私たちが生きるこのちっぽけなセカイの総てだった。
基本、ここにいるモノたちはみんな自分の部屋に閉じこもってばかりだから、誰かが死んでも気付かないことの方が多い。大抵は、最近食事を取りにこないなーとか思った私が部屋に訪ねてみると……って場合がほとんど。
ここでは誰もが他人に無関心で、ほとんどの人が他人と関わることを恐れる。
私のようなモノの方が、むしろここでは奇異に写るのだ。
…とは言っても、ほとんど女子寮で人と会うことなんて無いんだけど。
最近入ってきた、鈴凪さんぐらい。
ばしゃ、
私は井戸から汲み上げた水で、顔を洗う。
「………、それにしても、私は死なないな…、」
そう。もう三年もの月日が経つというのに、私は死なない。
ついでに言えば、頭もおかしくならないし。
いや、既におかしくなっていることに、私自身が気付いていないだけかもしれないんだけど。
「若いから、かな…」
ぽつりと、呟く。
何の意味もない、ただの独り言だった。
さて、すっきりしたことだし。本でも読もうっと。
ざわ、
風の音が、する。
何かが焼ける匂いが、する。
ぱちぱちと、何かを焼く音が、する。
「――――――、?」
嗅ぎ慣れた、―――――人の焼ける―――――匂い、
「………っ、」
私は、一気に駆ける。
火葬場の方は、見ない。
見ないように、必死で。
息をしないようにした。
しかしさっき吸い込んでしまった匂いが、私の肺を侵食していく気がして。
ばたん、と。女子寮の扉を閉じた。
…………………………………………
………………………………………………。
なおサン!コメントさんくー!ですです!!