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black out  作者: 舞織
12/13

李焔編最終話








散っていく。

総てが、真っ赤に。







「しばらくここに姿を現さなかったのは――――鈴凪さんとかいう、女性の為ですか」


憎まれ口を叩くかのように、僕は言いました。

僕は彼女に―――、死にいく彼女に、腹が立っていました。


いいえ、哀しかったのでしょうか。


だから僕は恭子さんに、その怒りをぶつけました。


「でも、死んじゃいましたね――――彼女も」


ああ、口が勝手に動く。

こんなこと言いたくはないのに。

彼女を傷付けたくなんてないのに。


でも深く狂おしい感情だけが、強く僕を押していました。


「誰も彼も、貴女を置いていってしまうのに―――辛くはないのですか」


悔しかったのだと思います。

彼女が僕を置いて逝ってしまうと思うと。


酷く、寂しいと思いました。


だって彼女は、絶対天国に行く。

天国なんてものがなくとも、恭子さんは絶対にこれ以上辛い思いはしなくてすむはずなのです。



しかし僕は恭子さんと―――――同じところへは、いけないから。



そう思うと、酷く寂しい気分になったのです。






僕を独りに―――――しないでほしかった。






「辛いに、決まっているでしょう」


今にも死にそうな声で、恭子さんは言いました。

しかし僕は、言葉で彼女の心を抉り続けました。


「だったらその懐にある刃で、御自分の喉を貫いてみたらいかがです?

そうすれば…、もう辛いことも悲しいことも、憎しみも絶望すらも、感じなくていいのですから。」


必死でした。

きっとこの時の僕は、情けない貌をしていたのでしょうね―――。


「お生憎様、私みたいなちっぽけな女に、自分の手で命を終わらせる度胸なんてないのよ…」


一瞬恭子さんは、苦笑したように見えました。


「なんで、どうしてですか――――どうして、貴女は」


彼女が困るだけだというのに、僕は必死で。

ただただ、わけもわからずに―――必死で。


「最初の頃の貴女は―――、出会ったばかりの貴女は!怒り悲しみ、絶望して!あんなにこの世界を憎んでいたのに―――、なのに、貴女は、…何で今の貴女は…っ、そんなに、穏やかなのですか!」


なぜ、そんなに。






僕を置いて、逝かないでください






「はは、私、もう眠りたいんだけど…」


もう限界なのか、恭子さんはその場にへたりこみました。

今にも倒れて、しまいそうでした。


「恭子、さん――――」


貴女の名を呼ぶしか、僕にはできないのに。


「最初に言いましたよね、僕は、ゆーれい、だって。なのに貴女は、そんな僕のこと、全然是信じようともしなくて―――」


「何よ、今更、」


今にも死んでしまいそうな貴女を、僕は必死で繋ぎとめようとした。


「それに、僕はさっき嘘をつきました。死んだって、楽になれやしませんよ。だってずっと、僕という存在はこうして在り続けているのですから―――」


だから


お願いですから、死なないで。


僕のようには、ならないで下さい……!




「貴女だけ楽になるなんて――――許しませんよ」




僕は、彼女の前に降り立ちました。

いつもより、なんだか彼女は小さく見えました。

線の細い美しい顔立ちが―――穏やかで。



綺麗、でした。



「だったら」


もうすっかり疲れているはずなのに


彼女は僕のためだけに、言葉を紡いでくれようとしました。


「だったら、ほんとにあんたが、ゆーれいだと言うのなら…」


途切れ途切れに、彼女は。



「ずっと、いつまでも、あんたの戯言に付き合ってあげる。

ただし私が…死んでからね。それで、いっぱい、飽きるまでお喋りでもしましょうよ。そうして飽きたら…私をどこへでも連れていきなさい。天国でも、地獄でもどこへだって、付いてったげる。」



だから、と彼女は言った。



「お願いだから―――今は、寝かせて」



呆気に、とられた。


僕に涙なんかないのに―――泣きそうに、なった。



貴女のその言葉だけで―――僕はきっと、救われましたよ。



「恭子さん…」



僕は恭子さんの身体を、抱きしめる。



「全然似てないくせに…、あの子に、そっくりですね。」



僕は、空を見上げる。

秋の空は、冬へと変化し始めていた。





                      それはさながら、御伽噺のようで――――。








次話でblack out自体は完結となります。

あと一話、お付き合い願います。


後日談です。

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