李焔編第参話
何もかも総て、ぶっ壊れてしまえばいいのに
※
その日の夜、僕は物思いに耽っていました。
遠い記憶の遥か奥底にある、昔のことを思い出していたのでございます。
「李焔、俺はいつか絶対景軍に入る。だから、お前も――――。」
遠い昔の、僕の友人。
彼は今、どうしているのでしょうか。
「李焔だって、いつかこの町を出たいでしょう――――?」
遠い昔の、僕の恋人。
しかし彼女は友人と違って、僕自身が彼女の死を確認しました。
彼女の死は、避けられるものでした。
僕の身代わりに、彼女は命を落としてしまったのです。
運がよければあいつはまだ―――蓮、は。
人としての寿命を、全うしていればいいのですが…。
そして僕と蓮は軍隊に入り、それぞれ別の道を生きました。
いつか会おうと誓いあいましたが、僕は心の片隅でもう会うことはないだろうなと思いました。
戦争です。
人と人とが、殺しあうのです。
僕だって、今まで人を何人殺めたかわかりません。
数えることなど、致しませんでした。
きっと彼も、同じことをしていたのでしょう。
頭がおかしく、なりそうでした。
そして気付いたら、僕は―――――!
捕虜として捕まり、その後のことは思い出したくもありません。
だって、あまりにも。
あまりにも、辛すぎました。
きっとあの時の僕も、周りの仲間も、心が壊れてしまったことでしょう。
ずたずたに
ぎたぎたに
引き裂かれてしまったことでしょう。
※
そして僕は、目を開ける。
周りは真っ暗でした。
聞こえるのは、秋の虫たちの鳴き声だけ。
他は――――何も、ない。
無。
しかし、恭子さんが息も絶え絶えにやって来ました。
「御機嫌よう―――――恭子さん」
「御機嫌よう…李焔」
彼女は笑っていました。
しかし僕には、彼女の心が泣いているようにしか見えませんでした。
彼女の命の灯は――――消えかけて、いました。
やはり人の命とは、儚いモノだったのです。