もう2月14日
今日のカレンダーが告げている。
そして、時刻はすでに早朝を刻む。ベットの中で寝転がって、スマホで友達とやり取りをしているところで今日のようなイベントについて、ようやく語る女子。
【もうバレンタインになったんだけど、チョコの用意をしていない】
【え、買ってないの?】
【自分達が食べるようも買ってない】
【ええぇ】
男にチョコをあげる。そう思ったお方。
そんなわけねぇだろ。
なんで、甘くて美味しいチョコをお前等にあげなきゃならんのだ。
◇ ◇
そして、平日の8時頃。
普段だったら登校を遅めにして、遅刻でも構わないとするイケイケな男子高校生共が、今日に限ってはなんかの期待で早くに来ている。見た目もカッコつけてくるし。下駄箱やロッカー、机の下とかにチョコがあるんじゃねぇーの?っていう展開。
お前等が早く来すぎて、できないのよ!
そんな男達の理想的な妄想。女子がそこまで熱心に考えているから、チョコが受け取れないというポジティブで今日を乗り切ろうとする。
ハッキリ言って、女子達の大半は友達に渡すのである。
「はい、御子柴」
「ありがとね、川中」
通学途中で出会った友達と、チョコの交換ならぬ、チョコの食べ比べ。2人共、眠そうな表情でいるが。舌をとろかすチョコで目が覚める。
「手作りね。美味しいよ」
「えへへへ、美味しいでしょ」
「でもね、私。ホントになーんも持って来てないんだけど」
「いいのいいの。どーせ、お金と時間がなかったんでしょ?」
所詮はチョコである。しかし、チョコだけじゃないだろうって、男達は無駄な期待をしている。
「今日はバレンタインデーだから、みんなにチョコを配るよー」
川中はクラスに着くと、まるで鳥達に餌をやるように。だがしかし、それは男子達にとってはまさに天使。誰にでも優しく、容姿も可愛くて、イベントに参加してくれる川中は
「ありがとう川中さん!!」
「この日は忘れない!」
「お返し、楽しみにしてください!!」
男子達の憧れである。そして、女子達からも妬みの少ない女子。
本人は善意のみでやっているから凄いものだ。
「まったく」
夜遅くまで、チョコ作りお疲れ様って感じで御子柴は自分の席のところから、川中のやり取りを見ていた。浮かれる男共に対し、女子としては川中の寝不足ぶりな顔を見てやれって思う。この日のためだけにチョコを作る努力。見習え。
川中を除き、友チョコで交流する女子達。あいにく、御子柴は買って来てもない。少しハブられ気味なところで、からかいに来た男子生徒。
「なんだ?作ったチョコが不味くてダセねぇのか?」
「そんな貢ぎをすると思う?」
川中からもらったチョコも食べたが、自分で買ったトッポも食べながら舟は御子柴に話してきた。
「だよなー。お前がチョコを渡すなんてな!」
「あんたみたいに自腹でチョコを買う事を勧めるわ。チョコ欲しい、チョコ欲しいの面で今日を生きている男達は、待っているだけでは何も変わらないのを知らないんだから」
「ひでぇー事言うな……って!おい!」
御子柴は隙を見て、舟のトッポを2本もらう。女子がチョコを男子にあげる日だと思っている、男達の妄想に反し、女子がチョコを食う日と考えている女の思想の差だ。
1本は手早く頂いたが、残った1本は
「……これでまけてくれない?」
「は?」
とはいえ、女子だって。
乙女としての夢もあるものだ。
そんな練習を冗談として、猫かぶり全開で行なう。
「舟くん、あのぉ」
甘えている声に変えてまでの御子柴の演技。
チョコたっぷりのトッポを口に咥え、舟と向き合う。両手も恥らっている女子のように、御子柴の豊満な胸を抑え付けて、可愛らしいポーズのまま
「こ、このまま。トッポを、ちょっとずつつ……た、食べて……キスまで……して……」
ドキュンっと来て、舟は確認なく。
俺もこんな瞬間が来たのかと、胸を弾ませながら。御子柴が咥えているトッポの先端に口を近づけていく。舟にとっては、1秒が1分に感じるほど印象が残るやりとりになろうとするドキドキ。
舟もトッポに口を咥えようとする、直前。
ザクッザクッ
御子柴が上手い事、トッポを食っていった。ポッキーゲームとならずに、舟の悔しがっている表情を見れて、御子柴は高笑いしながら
「男子に食べさせるチョコなんかあるわけねぇだろがーー!!あはははははは!!」
「こ、こ、このやろう……」
クラスの中で、そんな事をするんだから。ぜってーありえねぇと思っていたが、いざそんな状況となると男共はひっかかるものだ。
「ポッキーゲームをトッポでやるわけないでしょ!!中までチョコたっぷりじゃない!!」
「チョコ部分だけ食っただろ、お前!」
宣伝文句も添えて、舟を煽りまくる御子柴。
「なになに?めっちゃ期待したの?チョコと一緒に告白されると思ってたの?ねぇねぇー、すっごく馬鹿面でやろうとしてたよね」
「うるせぇな!お前が誘ったんだろうが!!」
せめて、俺が買ったチョコなんだから、それを俺に渡す時くらい。
可愛い女をやってくれや!!




