第三話:プロローグ3
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「黙れぇ!」
親友のフェフィトの死を拒むようにニージェは大きな悲鳴を上げる。そんなニージェの足元に短剣が突き刺さる。ニージェが顔を上げれば軽装の男が睨みつけていた。
「これ以上騒ぐならお前もこいつみたいになるぞ」
軽装の男はそう言ってフェフィトの頭を踏みつける。地面にはんばめり込んだフェフィトの頭を見てニージェは涙を流しながらも口を抑え声を上げるのを我慢する。そんなニージェをランジは強く抱きしめた。軽装の男は不快そうに二人を睨みつけると鎧の男の方に向き直った。
「フール、いくら何でも殺す事は無かっただろう?こいつらは魔族だが希少な鬼魔族の奴だろう。男だろうと欲しがる者はたくさんいる」
フールと呼ばれた鎧の男は心外だとばかりに肩をすくめる。
「おいおい、確かについ勢いで殺しはしたがそんな事気にする必要なんてないだろう?」
「は?」
軽装の男はフールの言葉の意味が分からないのか眉を顰め低い声を出している。そこへ今まで黙っていた杖を持った男が口を開いた。
「こいつらは鬼魔族の子供。この近くにこいつらが住み着いている巣があると言いたいんだろう?」
「イディオタ、その通りだ。規模は分からないが巣が近くにあるのはほぼ確定と言っていいからな」
「…成程。なら巣の場所までこいつらに案内してもらうか」
軽装の男はそう言うと檻の近くまで行きランジとニージェの前に座る。
「おい、お前らの巣は何処だ?」
「だ、誰がいうもんか……!」
軽装の男の言葉にランジがそう答えるも同時に頬を殴られる。いくら身体的能力に優れた鬼魔族と言えど不意打ちには対応できないうえに恐怖で体が動かない事もありランジは軽装の男に一発二発と殴られていく。その様子をニージェは恐怖で顔を引きつらせながら見る事が出来ない。彼女の下腹部に黄色い染みが広がっていく。
「……もう一度聞く。お前らの巣は何処だ? 素直に言えば命は助けてやる」
「……ぁ」
ランジは幾度となく殴られた為意識がもうろうとしており焦点の定まらない瞳で軽装の男を見上げるのみだった。その様子を見てこれ以上はランジから情報を得られないと判断したのか、軽装の男の視線はニージェに向かう。
「ひっ!?」
「お前らの巣の場所を言え。そしたらこいつがこれ以上苦しむ事はないぞ」
「ぎっ……ぃ!」
ランジの顔を踏みつけながら言う男にニージェは恐怖で感情を支配されつつ一生懸命に考える。しかし、その思考も恐怖のせいでまとまらず、ただただ無意味に時間が過ぎていく。
そんなニージェを答える気が無いと判断したのだろう。ランジの顔から足を離すとそのままニージェの方に向かっていく。一歩一歩近づくごとにニージェの表情は恐怖で染まっていく。そして、冷たい瞳で見下ろす軽装の男の剣が振り下ろされ、
「……待って、くれ」
ようとした時、か細い声でランジがつぶやいた。
「村の場所を、言う。だから、ニージェに、手を、出さないで、くれ……」
「……良いだろう。先ずは巣に案内しろ。それから決める」
軽装の男はそう言うとランジの髪を掴み引きずるように土の牢から出した。それを見たフールもニージェを俵担ぎのように肩に乗せると痛みで呻きつつ案内するランジの下その場を離れた。首と胴を切り落とされたフェフィトと胸を貫かれたラッハを置いて。
冒険者の四人はこの時ランジとニージェに集中していた故に気付いていなかった。胸を貫かれ、死んだと思い込んでいたラッハの指が動いていた事に。ラッハをここで殺し損ねたという意味に。彼らがそれに気づくときには既に手遅れとなってからであった。
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いたい、痛い、イタイ……
息が出来ない。吸っても吸っても空気が抜けてるように苦しい
胸から液体がこぼれる
力が入らない
いたいいたいいたい
痛い!
「う、ぐ……」
胸から感じる痛みで僕は目を覚ました。でも力が入らなくて立ち上がるどころか体をひねる事も出来ない。胸から血が出ているのが分かる。口からも結構出てる。喋れない。
「だ、じか、ごごに……」
血を止められる実がポケットにあったはず。本当は実を潰して乾燥させた方が効果が何倍もある。でもこのまま食べたり実を潰して出た汁にも効果がある。
実は潰れてる。3っつあったから二つを胸に、一つを食べる。これで出せる力を全部出し尽くしちゃった。もう力はいんないや。
「……あ、火だ……」
煙の臭いがする。きっと村でお祭りがあるんだ。だってお祭りの時みたいな大きな炎が出た時の煙だし。あれ?今ってお祭りの時期だっけ?
「おまづり、ざんかじだい、な……」
もうだめ。眠いや。後は起きたら考えよう。きっとその時には体もなってるだろうから……。