表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第二部 夏休み編
99/100

夜風に打たれて

 夏の日差し、海の煌めき、潮騒の心和むサウンド…

そんな眩い昼間の時間を過ぎた太平洋の上に浮かんだ孤島で迎える真夜中の2時過ぎ…


 ”星の海”だと丈夫な遮音ペアガラスの洒落たシャインブラックのサッシだけど

ここでは時代物の古い銀色のアルミサッシ。


 そこに掛かる潮風に負けないような丈夫な生地のカーテンを引くと、

窓の外はすっかりの闇、港の方には薄暮の様なオレンジの光が見える。


 私は長野の山間の宿”星の海”が高校出てからの人生のすべてで、海なんか久しぶりだ。


 旅館の寮を起点に麓で部屋も何度か借りたことあるけど

 いい歳になったら女将から何も言わずにタダで戴いた今の家に落ち着いた。 


 休日には仲居仲間か、旅館の友達と町に繰り出して買い物かカラオケ

ってな感じで非常に狭い世界で生きてきたけど楽しかった。


 そんな肌寒い山間の空気も静かに息づく動物たちの雰囲気に

漆黒の闇なんかに慣れた私には、

この島の星降る空に生暖かい潮風、潮騒なんかは

異世界にでも迷い込んだような場違い感が邪魔で寝付けなかった。


 広い10畳間には”みけ”がうつぶせのまま枕に沈んで、

珠美は布団を蹴飛ばしたままの開けた浴衣もそのままに寝息を立てている。

さっきまで私と飲んでいたギーちゃんの友達は

すっかり酔いが回って大の字に寝転んでむにゃむにゃしている。

いづれも若い女性独特な匂いを纏って明日がまだいつまでも続きそうな顔をして

幸せそうな寝顔だった。


比べると窓に映る私の姿は

流石に56…この身はみすぼらしくて老いぼれすぎ悲しいと思う。

…年齢の割には若いとは思うが、

本当の若さを持ったこの子たちには比べるまでもないし、思うこと自体少し痛いかもしれない。


 ”限界知らず”のお姉ちゃんと瑞希って女は

同級生で友人ということでここの女将とどこかへ出ている。


瞳と翔子ちゃんは隣の8畳間、

省吾君と智彦たち男の人は当然別の部屋で寝ている。


スリッパを脱いで少し冷たい板の間に足を付けて

海を見ながら備え付けの冷蔵庫を開けて硝子天板の小さな机に瓶ビールを

ついでに小さなグラスと栓抜きを取ると尻をソファーに沈める。


「 売店のお酒も相当買い込んだんだけど1日で無くなるなんてねえ、

 ナディアは馬鹿みたいの飲むんだもの…まあ、私もだけど 」



机の横には空の缶ビール、酎ハイが無造作に置かれている。



 みんなのお母さん役というか引率の先生役の九鬼仲居頭は

ゆっくりと泡を立ち上げながらコップにビールをつぎ込んでいく。


少し開け放した窓から鼻を擽る磯の香りを肴にしてグラスに口を付ける。

関係ないのに朝早くから歩いてきて疲れた足がフルフルと震えだす。

( 歳って食いたくないもんねぇ)

九鬼は少し溜息を吐きながら暗いけれど僅かな光を拾って輝く海を見ていた。


 「 しかしさぁ…あれは意外だったわ 」


九鬼はそう言いながら旅館で初めて勝に会った時の事を思い出した。







  旅館 ”海風”到着早々…



「 いらっしゃいませ!! 」


 浅黒いというか長野の山奥から出てきた”みけ”達からすると真っ黒い肌の少年が

 浅葱色あさぎいろの作務衣を着て”みけ”達の前に立ち、

 旅館としては狭いが民宿としては大きすぎる微妙な玄関の前で軽くお辞儀をした。


「 え…あ…いらっしゃいましたぁ 」


 素っ頓狂なその声は、一番物おじしそうもないナディアだった。

 

「 どうしたの?  」


 九鬼が不思議そうにナディアの顔を覗く…頬が真っ赤だった。


「 あ… 」


 その声に我に返ったのかナディアは首を振って直ぐに真顔になった。

 一瞬にして頬の赤みが消えたので見間違いかな?って九鬼が思うほどだった。



「 ああ、あの子が私の息子ね…勝っていうの、本能寺勝 」


 みどりが玄関口の小さな椅子に荷物を置きながら瑞希や愛たちに説明した。


「 む…息子?って、こんな大きい子なの? 」


 瑞希がビックリして声を上げる。


「 ああ、旦那は41やから別におかしくないでしょ。」


 愛が勝とみどりの顔を交互に何度も見やる。

 

 いかに再婚で連れ子と言っても年が近すぎる…どう見ても15.6…高校生ぐらいにしか見えず

 なおかつ尋常でなく若く見える”みどり”はお母さんといより姉ぐらいしか見えない。

 それも2つぐらいしか離れてないような…


「 まあ、どう見えるかってのは十分知ってるけど小さい時からちゃんと面倒見てるし

  うちからしたら本当にただの可愛い子供や 」


 そんな声をよく聞くのか苦笑いを浮かべてトントンと小上がりへと上がると

 勝の肩に手を当てた。

 隣に並んでみると益々…いや、同級生でも通用するような風体にしか見えなかった。



  ナディアの後ろでその光景を見ていたが、小さな声がナディアの方から聞こえた。


「 ふ~ん、同族って呼び合うのかもね 」


  確かにそう聞こえたが、それ以上声も上げなかったし周りも気にしなかった。

 瞳は同じような言葉を”限界知らず”でギーディアムやリンドが話していたのを思い出していたが

 ただ単に断片的な記憶でしかなくどんな内容だったかどうしても思い出せなかった。


  その時、奥から「 いらっしゃい、お嬢さん…久しぶりですね 」と声が聞こえ、

 大柄な男性がのしのしと板張りの広めの廊下を歩いてきた。


 その声を聴いて愛が目を丸くして驚いた。


「 え…結婚したって…このゴ…ってか、あんた本能寺って名前やったんか? 」


 愛が目を丸して見つめた先の男…勝の父で同級生の旦那さん。


 身長は180ぐらいだが決してひょろ長くなく、

 ほれぼれするような筋肉の山脈が半袖のシャツを弾き飛ばしそうなほど。

 焼けた肌など遺伝はしないが親子だなと思うほどに焼けた肌。

 愛嬌のある口元に真っ白な歯。

 

「 41って聞いてたけど… 」


 潮風に痛めつけられて皺は深いっては思ったけど…一同は一か所に眼が一斉に。

 見事なまでの禿頭…にねじり鉢巻き。

 とても”みどり”の横に立つとお父さんとしか思えない風貌で皆が声を失った。


 まだ若い高校生の瞳や珠美に至っては更にちょっと感覚が違う。

 こんなおっさんにあんな…若い奥さんが来るっていうかという不思議。


 しかも2度目…41で高校生ぐらいの子がいるって事は24.5の時の子

 結婚とか考えたら22ぐらい?って感じ

 うんじゃあ、私らの歳から6年後?って思い現実感がまるで得ることが出来なかった。


「 で…美優さんはどうしたんよ。あんなに仲良かったのにさぁ…

  勝って…まさかあの時のちっさい子がこの子? 」


「 ええ…そうですよ。

  家内は…美優は残念ですが8年も前に亡くなっちゃって。

  みどりはその時に妻が入院してた病院で事務してたから…それが縁で

  勝も非常に懐いてくれたし 」


  それを聞いてもそれ以上話を続けたかった愛だったが


「 まあまあ、いろいろあったのよ。何せだいぶん前の話だしさ。

  それよりまずは皆さんに落ち着いてもらわないと…話は後でさ 」


 積もる話はまた後で場所を変えてからということでそれ以上の話にはならずに終わり、

 ”みどり”たちに案内されてそれぞれの部屋へと散っていった。


 九鬼達の部屋は、

 旅館の二階で二部屋で一応バストイレ付きでちょっとした広縁が付いた純和風の部屋だった。


 案内を終えて、

 帰ろうと襖に手をやったところで急に勝の背中に柔らかい感触を感じると同時に、

 右肩に細い指が急にかかって北。

 驚いて振り向くと、そこには目が大きな少女が縋りついて来ていた。


 「 君さ~歳いくつなの? 」


 生暖かい吐息とくらくらと来る女性の甘い匂いにドキッとした勝だった。


 「 困りますよ~そんなに体くっつけちゃあ 」



 勝は正直、同世代の女性にはあまり興味が無かった。

 大体、今40路のしかも主婦で子持ちでしかも先生という熟女に恋をしているのだ。

 しかし、 それとは別に体は反射的に反応してしまった。

 しかし、抱き着いた少女以外には気取られることは無かった。

 それを理解してニヤニヤしながら少女は勝に耳元で呟いた。

 それを聞いて少し溜息をついて勝は答えた。

 

 「 16です…島の高校2年に通ってます。」


 「 へえ、やっぱタメ年って事なのね。 」


 すると、少女はナディア達の方に顔を向けるとニコニコ笑って


 「 この子がさぁ、明日ぜひとも島を案内したいんだって! 」


 へ?とびっくりした勝だったがいまだ落ち着かない下半身を

 背中をこちらを向けてみんなに見られないように指さして

 ( 断ったら、みんなに言いふらす )とでも言ってる様な

 有無を言わせない雰囲気になってしまったし、何せこの部屋には女性しかいないので

 これから数日間も白い目で見られたくもないので諦めるしかなかった。



 「 え…っと、是非とも案内させてください。

   とっておきの所では海水浴なんかも楽しめる秘密の砂浜なんかもありますし 」


 勝はそう言うとぎこちなく頭を下げた。


 その様子を少女は満足そうに見やりニコニコと笑って腰に手を当てた。





 「 まったく…意外だったわ。好きな男いるのにどうしたのかしらねぇ… 」


 九鬼は2本目のビールを無造作に開けながらつぶやいた。


 勝をからかった少女…それは剛ちゃん一筋かと思った”中村 珠美”だったからである。


 「 高校生は若いだけあって積極的だわねぇ… 」


 56にもなって真面に告白する事すら出来ない自分に頭を抱えながら、ビールを流し込みだした。

 



 








  


 

 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ