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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第二部 夏休み編
95/100

なだらかな坂

 島の薄いアスファルトの道のあちこちに逃げ水が浮かび、

僕は家の前のなだらかな坂を陽炎の様に揺らめくそれらの中を歩いて下りて行く。


うちの旅館”潮風”は島の丘の上にあって、

吹き上げる潮風の向こう側はフェリーの桟橋に小さな管理事務所に待ち受け、

その手前には田舎らしい町並みが広がっているのがよく分かる。


夏休みは週に3日は高校の部活という事でこの坂を下りているんだが、

部活って言っても

島の高校の全校生徒なんて100人もいないから野球やサッカーなんて団体競技は無く

殆どが個人競技が多い…僕の場合は部員6名の陸上部だ。

予定では秋に本土で高校の県大会があるがしゃにむに練習する訳でもない。

なにせ、思い出作りで高校に行ってるし

シャカリキになって怪我でもしても痛いだけだし、有名にも別になりたくもない。

それに、

部活の担任も音楽の先生で門外漢の44歳のいっきー(笠松 雅先生)だもん。

差し入れのお菓子とかたまに奢ってくれるのは嬉しいけど指導なんて出来ないし。

しかしまあ…奥さんなんだよねぇ…18も上の。

ゴジラみたいな漁労長の奥さん。

でも人妻なのにその年とは思えないほど綺麗で、明るくていい感じでさっぱりして能天気。


僕はそんな彼女に会いたくて部活は休まないんだよね…多分好きなんだと思う。

不毛だよねぇ…人の妻で年上でその上僕は教え子なんだし。

なので悟られたら関係が一気に破綻するから、

その感情をぐっと押し込んで僕は高校へと向かっていくしかないんだよね。






 読んでいた小説を鞄に入れて、ゆっくりと席を立つ。

10年ぶりに乗ったフェリーの匂いはあのころと変わらないけど、私の方は凄く変わった。

高校の時、許婚のいる彼氏を強引に誑し込んで挙句の果てに取り返された私は

卒業と同時に逃げるように島を出た。

お母さんには黙って、死んだお父さんの実家を頼って逃げ出したんだ。


1年ぐらい家に帰らない間にお母さんは島を出て本土に出て、暫くして結婚した。

その事に知ったのは既に22歳…大学を卒業して社会人になり

何度かお母さんの住む街へとは

行くことがあったけど…そんなに頻繁にはいくことが出来なかった。

なにせ、お母さんが再婚した相手が自分の高校の同級生だし

私が島でどれだけバカやって皆に迷惑かけまくったか知っているんだもの。


そんな私だけど今回島に戻ったのは、30を前にちゃらんぽらんで独り身の自分を見つめなおして

新たに将来に向けて歩き出そうかと思ったからだ。

島を出てからいろんな男の人と付き合ったけど、どれもあの時の様にドキドキすることが出来なかった。

付き合った人たちに問題があったわけじゃあない。

容姿だってみんな平均点ぐらいあったし、性格や条件に問題などなかったんだけどね。

多分、思い出って補正がかかってるんだろうから

ちょっと精神的にきついけど昔付き合ってた問題の彼や奪い合いをした彼女に会えば

踏ん切りがつくって思ったのかもしれない。


オレンジの光が窓から入ってくる…重い足取りで案内に従い船から降りようと

荷物を肩にかけ通路に出る。


 「 あれ…あんた…瑞希? 」


懐かしい声が後ろから聞こえて私は思わず振り返った。


 「 あ…愛ちゃん? 」


そこには懐かしい顔が驚いた顔で…いやあの時に比べれば随分と大人で綺麗になった同級生が立っていた。

小山内 愛…私の高校の同級生。

私より1週間前に島を飛び出して同級生と駆け落ちした…


 「 えっと…和夫は? 」


一緒に逃げた同級生の名前を私は彼女に投げかけ、彼女の周りの人たちを見た。

40前ぐらいの綺麗な女性に高校生の女性が数名と端正な顔の同じく高校生らしき男の子…

和夫はいないようだった。


 「 ああ…和夫ねえ、取り返された沙紀に 」


 「 は? なにやってんのよ…本当に? 」


思いもよらない言葉に私は驚いた。

けど、同じように男を高校生で取り返された私が彼女の事をとやかくは言えなかった。


 「 一応は…結婚もしたんだけどさぁ…もう、2年は経つなあ 」


へえ…結婚はしたんだ。

ならいいじゃない取り返されたってさ…一応勝ったんだし。


 「 で…そちらの人達は? 」


 「 えっと…今お世話になってる所の同僚だよ皆。高校生の子たちはバイトね…

   それと…この子とこの子は私が勉強を見てるのよ 」


愛ちゃんはそう言うと少し猫っぽい感じの可愛さがある二人の女の子の肩を抱いて、

そこ子たちが私に向かってしっかりと頭を下げた。


 「 へええ…愛ちゃんが勉強ねえ… 」


島にいたころはやんちゃで喧嘩が何よりも好きなあなたがねえ…とは思ったけど、

島に仲間と帰ってこれる愛ちゃんが凄く羨ましかった。


私には一緒に来てくれる人が誰もいなかったから…







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