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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第二部 夏休み編
93/100

ふるさと

  青い空、白い雲、腹に来るエンジンの音に少し揺れる船内。

 外から見たらなんて襤褸船って感じだったけど、船内はかなり綺麗で新しかった。

 トイレは掃除の行き届いた広めの水洗だったし、

 客席に座って前を見ると、しっかりとした柱に支えられた展望窓が広がっている。

 うん、

 これこれ…こんな感じがいいな。椅子も広めでビニールだけどクッションもいいしね。


 一番うれしいのは異常気象で暑すぎる外から解放されたことだけど…


  九鬼さんは3時間と長めの航海なんで雑魚寝のフロアの方へと出かけて行った。

 なんだかんだといっても50超えの体に長時間の移動は疲れるもんね…寝てください。


  んで、通路を挟んで右斜め前の席には隣り合わせで智彦君と木田ちゃんが座って

 仲良く何かを話している。

 耳をそばだてて(元猫なんだから人間よりはかなり耳がいいので丸聞こえ)

 内容を確認するけど、色っぽい話なんか無く普通の世間話で拍子抜けする。


 んで、私の方をたまにチラッと見てくる智彦君の視線をさっとかわしながら

 二人の匂いを確認するけど、やはりお互いにその気はなさそうだ。

 嗅覚もかなり言い私の鼻はついぞ発情近辺の匂いを感知できなかったのだから。



 「 ”みけ”さ~、翔子っていつの間に西宮とあんなに仲良くなった? 」


  この間の事件で私とかなり境遇が近い(元猫らしい)珠ちゃんが

 私も大好きなミルク味のアイスキャンディーを頬張りながら聞いてきた。

 あの件はジャニスと専務さんが記憶を書き換えて事なきを得たけど

 あの件以来から前にもまして珠ちゃんには親近感がある。


 「 それってさ…木田ちゃんが智彦君の事を好きかって事かな? 」

 

 「 … 」


 口の中がアイスでいっぱいの珠ちゃんはコクコクと頭を上下した。

 まったく…そういうの興味あるんだよね子の年頃の女の子って、私は無いけどさ。

 と、さっきまで耳を立てて匂いも嗅いでいた私が偉そうにそう思った。


 「 無いわよ…木田ちゃんには聞いたもん。

   慣れておくためには絶好なんだって西宮君ってさ…瞳や他にも好きな娘いるし

   だいたい智彦君自体が木田ちゃんの事を親戚の子かみたいな感じかなって言ってるし 」


 それはちゃんと聞いたから本当だと思う。

 それはさっき確認もしたから分かる…間違いなく何もないわ。


 「 慣れる? 」


 「 そうそう…木田ちゃんってば狙ってる人いるし。 」


 私は、自販機でコーヒーを買っているお兄ちゃんを指さした。


 「 省吾さんか…無理じゃね?モテそうだし彼女ぐらいいるだろうし 」


 「 ええ、いるわよ…すっごく綺麗で頭良くて足は長くてスタイル良くてね。

   それでいて凄く理解があって大人の女性がね 」


 「 か~やっぱりねぇ 」


 直美さんの風体を思い出すけど…可愛そうだけど外見では何一つ勝てそうも無し(木田ちゃんがね!)

 お金持ちの家なのは同じだけど、片や国立大学生で片や全国有数の底辺高であるし

 なにより大人でお兄ちゃんをコロコロと転がす度量もあるもん。


 「 でも、いいんじゃない?どうなっても若いんだし

   お兄ちゃんも私の友達に馬鹿な真似は絶対にしないから安心であるしね。

   それに、誰かを好きになるって大事なことだと思うしね。」


  負けようがどうしようが、そんな事も思い出になるし可能性だってないわけじゃない。

 一度死んだ私にしろ”みけ”にしろ死んだら、なにもかもゼロなんだから

 やりたいことを精一杯やればいいと思うしね。 


 「 まあ、ゼロじゃねえって感じか…人の事とやかく言えないけどさ 」


 私は珠美が剛ちゃんとなんとかなる可能性よりは低いけど、10パーセント以上は木田ちゃんも目があると思う、

 なにせ、お兄ちゃんは年下の女の子には甘いから…あ、私だけかもしんないけどね。


 そう思って、少し意地悪をしてあげよう…お兄ちゃんにだよ(笑)



 

  展望デッキの瞳


  夕方と言っても午後6時なんて8月ならまだ日中で日差しもかなり強いけど、

 展望デッキは大きな日よけ屋根もあり潮風もあって

 これでたまに冷たいジュースでも飲めば暑さもそうは気にならない。


  そうはいってもさっきまでは涼を求めて船内で横になってたけど

 急に電話していた九鬼さんが


「 もうすぐだから外に出たら面白いものが見えるから 」と

 何か良くは分からないけど九鬼さんが真剣な顔でそういうので私も小山内さんも

 それに従って最初にいた展望デッキの手摺の所まで出てきたのだ。


 なるほど…さっきまでは代り映えのしない海だけだったけど

 まだ到着までは1時間ぐらいはあって島影も薄っすら見えているし、

 漁業が主な産業という小山内さんの島らしく 

 少し距離を隔ててのんびりと船がエンジン音を響かせて数艘が行きかうのが見える。


 そんなに面白いかこの光景?まあでも、折角だから少し観察する。

 

「 へえ、夕方に漁に行くのね 」


 テレビなどで4時に出港して7時くらいには漁が終わってってイメージなんだけどな…


「 基本は早朝にチームで漁に出て、市場、漁協で仕事して昼前には仕事は終わるよ。

  今は朝方仕掛けた罠や網を回収、もしくは個人で趣味で魚釣りもいるわ 」


 流石に漁師の娘って感じでよく知ってるわ…


「 漁師なのに趣味でですか? 」


「 網で取ったり罠で嵌めたりした魚はたくさん採れてお金になるけど、

  美味い魚は一本釣りに限るのよ。」


 そうなのか…んで、多分そういうのは市場には出ないんだろうなぁ。

 食べてみたいなそういう魚。


「 えっと…あの船近づいて来ません? 何かこっちに手を振ってるみたいだし 」


 私は少し離れてこちらのフェリーに追走している船を見つけた。

 目を凝らして漁船を見ると、

 船の上には仕事って感じじゃなく嫌に普通の格好をしている人影が見える。

 スニーカーにジーンズ?

 ありがちな長いゴムの前掛けもゴム長も履いていない…


「 なんや?あいつらあんな格好で… 」


「 え…あれ女の人じゃないの?ちょっと背が高いけど 」


 確かに女性だった…良くは見えないけど175ぐらいはありそうな背の高い女性…

 何か叫んでるけどエンジンの音や潮風にかき消されてよく聞こえない。


 そうこうしているうちに船から男の人が出てくる。

 背は女性よりかなり低い…165もあるかないかっていう感じ…


「 ま…まさか 」


 小山内さんがその船を見ながら口に手を当てている。


 男性と女性は二人で大きな白い布を船の上で広げ始めた…凄く大きくて力強い字で


 ”おかえり!待ってたよ愛ちゃん” と書かれた白い布を。


「 姐さんに…あれは、俊くんかな…なんで?な…ん…で 」


 どうして帰郷を知ったのか、多分小山内さんの昔の友達だと思う。


 なんでって?


 そりゃあ、手すりから崩れ落ちて船を見ながら声を上げて泣いてりゃあ誰でも分かるでしょ。

 

 10年か…忘れてなかったんだ。

 少なくとも船を操縦している人と布を広げている二人だけは。


「 来てよかった? 」


 返事は聞かなくても分かったけど一応聞いてみる。


 うんうんと、子供みたいに涙を流しながら頭を上下する29歳の姿を見て

 私も目じりに暖かいものが貯まった。


 でもなんで九鬼さんがこんなことを知ったんだろう?


 




  




 

 








  



 

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