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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第二部 夏休み編
91/100

電車内にて

  田舎駅だから目的地までは何度も乗り換えして最後は連絡船に乗る。

 時間にして昼食などを挟んで11時間かかる長丁場。  

 到着は早くて夕方の5時ごろだから先はすごく長い。


  今は何度かの乗換の後、名古屋に向かっている電車の中。

 わいわいと話していたみんなも流石に4時間近いと話題が無く静かなものだ。


 僕の隣の九鬼さんはすっかり寝込んで僕の肩に頭を乗せて口を半開きにはしている。

 九鬼さんは僕に対しては弟か年齢から言っても息子って感じで警戒感がまるでないが、

 僕だって頭ではお母さんより年上だって分かってるけど、

 凄く若い顔で柔らかい体をしてるし、

 甘い匂いのする寝息がちょっと気にはなる。


 前の席には流れていく風景を頬杖ついてぼんやり見ている小山内さんに

 女性週刊誌をだるそうに読んでいるナディアさん。

 流石に世代が違うから話題も少ないし、僕も黙って外を見ている事しかできない。


 斜め横の席では省吾さんが楽しそうに皆と話している。

 隣は翔子さん、前に”みけ”と中村…正直羨ましい。

 なんでこうなった?

 

 「 あっち行きたい? 」


 窓を伝って小山内さんの声が僕の耳元に響いてきた。

 小山内さんは顔は僕の方に向けないけど流し目の様に僕の方を見る。

 156センチと小柄だけど大人の女性の雰囲気と20でも通りそうな若々しい顔で

 僕が”星の海”にバイトに行く楽しみでもある。

 ”みけ”は彼女にしたい女性で、小山内さんは憧れのお姉さんって感じかな。


 「 いや、そんな事は無いですけど 」


 「 こっちはナディアが一番若そうでも20をいくつかは超えてるだろうし、

   隣はお母さんみたいだろうし、うちは一回りは上のおばさんだもん分かるわよ 」


 窓を伝わって聞こえると耳元で囁かれてる様な気がして少し気恥ずかしい。

 少しハスキーな声は凄く魅力的だ。


 「 愛さんがおばさんって思った事なんか無いですよ。」


 「 おばさんじゃなければ何? 」


 少し口元が上に上がって歯が少し見える…物凄く白い歯だった。


 「 え…と、お姉さんみたいな感じかなぁ…こんな綺麗なお姉さんがいれば嬉しいかなって感じの 」


 すると、愛さんは僕を暫くじっと見てから軽く首を振る。


 「 君ね、12も違うって言うのは小学校に上がって高校卒業するまでの時間だよ。

   小学校一年生が高校卒業した人見てお姉さんて思う? 」


 「 いや、でもとっても若く見えるし… 」


 「 見た目の事を言ってるんじゃないのよ…経験というものを言ってるの。

   それにお母さんのほうがうちに近いわよ考え方もね 」


 経験か…

 大学を卒業して、結婚もしてそして離婚して独り暮らしで田舎の旅館のバーのママ…

 普通の人より相当濃い人生を送ってるのは確かだし、

 僕なんか好きな女性とキスの一つもしていないガキだもんな。


 「 じゃあ、愛おばさんでいいんですか? 」


 その返しに愛さんは目を丸くした。


 「 いや、そこは…一応、まだ20代だし 」


 凄く失礼なことなのは分かるけど、ここで引き下がってはそれこそ子供だと馬鹿にされそうだ。

  

 「 じゃあ、愛さんにします。でも、自分の事をおばさんって呼ばないでくださいよ 」


 「 そうするわ…ってか、君ってうちに関心あるの? 」


  思いっきり関心はある。

 多分自分が40ぐらいになれば12の歳の差は凄くでかいけど

 まだ16の僕からだと28の愛さんは手が届きそうな気がするからだ。

 勿論、年齢以上に彼女が魅力的であるのだけれども…


 「 関心ですか?ありますよ…”みけ”や中村さんが世話になってるし

   歳が離れても”星の海”のみんなの中じゃあ近い方だし親しみがあります 」


 それ以上の関心など愛さんにしてみれば迷惑な話だし、この辺がちょうどいい落としどころ。


 「 親しみねえ…まあ、いいわ。出来の悪い弟ぐらいには見てあげる。

   それはそれとして、さっきまでナディアが起きていたから

   踏み込んで話できなかったけど… 」


 ナディアさんはよく見ると本を見ながら舟をこいでいた。

 

 「 踏み込んだ話? 」


 「 君さ、瞳と”みけ”のどっちが好きなの? 」


 ちょっと心臓がドキッとした。

 ”みけ”の座っている席からは少し離れているし、窓に伝う小声ぐらいなら聞こえないだろうと

 僕は頬を窓に寄せる。


 「 大きな声は… 」


 「 分かってるわよ 」


 愛さんは僕と同じに窓に頬を寄せる。

 大きくて黒目がちで魅力的な瞳と僕の眼が一直線に結ばれる気がした。


 「 ”みけ”の方ですけど…瞳は親しいけど幼馴染って感じしかしないんで 」


 「 ふ~ん 」


 愛さんはそう言うと少し間があって僕に質問してくる。


 「 聞くけど…瞳とはいつからの知り合い? 」


 「 生まれたときから…隣に住んでいるんですけど。

   幼稚園から中学まで…高校は一緒に受験したけど瞳のほうが病気で失敗して別の… 」


 「 なんだか懐かしい話よね。…諦めなさい”みけ”の事は 」


 「 は?いきなりなんですか? 」


 「 君さ、”みけ”の事をどこまで知ってる?瞳の事はどこまで知ってる? 」


 「 そんなの…瞳に決まってるじゃないですか。

   小さい頃は裸でも遊んでいましたし知り過ぎてて姉の様にも妹のようにも感じてますよ。

   それだから…女性として見えないのもあるかな。


   ”みけ”の方はバイトで出会ってからだし学校も違えば家も離れてるし”星の海”だけ

   そこがいいのかもしれませんね…勿論かわいいし素直だし魅力的だし 」


 愛さんは何だか辛そうに胸のあたりを握りしめる。


 「 瞳も負けないぐらいに魅力的だと思うよ…だから”みけ”は諦めなさい。」


 「 でも… 」


 「 話はそれだけよ… 」


 そう言うと急に愛さんが黙り込んで、窓の外を険しい顔で眺め始めた。

 触れてはいけない雰囲気に僕は沈黙をするしかなかった。



 

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