8月1日 待ち合わせ
夏の日差しも午前6時ぐらいはまだ穏やかなもんで
眠そうな顔をしながらも送ってくれたお父さんは、
まだこれから家に戻って琥太郎おにいちゃんを叩き起こして
昨日私が作っておいた朝ごはんを二人で食べて出勤しなきゃあいけない。
ご苦労様です。
私がいない間どうして暮らすか心配だけど、
その辺は、琥太郎お兄ちゃんを好きな隣の奥さんに頼んでおいたから大丈夫だろう。
理由が出来てこれ幸いと…世話を焼きにくるに決まってるから一応安心。
単身赴任で何年も帰らない旦那さんがいるから寂しいのは分かるけど、
娘さんの同級生を見初めるのはどうなんだろう?とは思う。
まあ、そんな事より今日から長い間お兄ちゃんもこの町を離れるんだから
確認はしておこう。
「 本当に大丈夫? 」
「 なにが? 」
「 ほら…女の子たちと一緒に行くって彼女さん嫌じゃないの? 」
省吾兄は私の顔を見て少し笑った。
「 妹と行くんじゃあ、直美も信用してるよ。」
お兄ちゃんは数少ない男の人で必要だし木田ちゃんの頼みもあったんで
誘ったけど彼女さんさぁ少し油断過ぎない?
そう言う話はよく分かんないし考えるのもめんどくさい。
それに私が苦手になった智彦君がいるから私もお兄ちゃんがいたほうが安心できるしね。
少し熱を持ち出したロータリーエリアの歩道を歩いて
煉瓦調(煉瓦ではないよ)のサイディング(外壁仕上げ材)をみっちり張り込んで、
大きな透明度の高いガラスのエントランスがある地元の駅へと向かう。
この時間は流石にまだ人通りも少なくて静かで雀なんかの鳥の囀りも聞こえそうだ。
駅前には待ち合わせの”星の海”のマイクロバスが停まっている。
その中で私たちを見つけて木田ちゃんが飛び出してきて、後からみんながゆっくり降りてくる。
「 おはようございます! 」
真っ赤なキャップで白いスニーカーを履いて
とことこと走ってきた木田ちゃんは勢いよく大きな声で腰を折る。
パンツが見えそうなほど丈の短いワンピは着る人が着ると厭らしい感じだけど、
147センチで痩せている木田ちゃんだと逆に健康的な感じで印象がいい。
「 おはよう…朝から元気だねぇ 」
お兄ちゃんは大きな声で挨拶してきた木田ちゃんに対して嬉しそうに答えた。
まあ、小さい子に挨拶されると気分がいいのと変わらないだろうね…頬も赤くないし。
でも、木田ちゃんの方は狙ってるみたいよ。
その後から軽く会釈して手を上げるジーパンに赤いタンクトップでサンダルの珠ちゃん。
ロングスカートでゆったりとしたフレアーシャツにローヒールの瞳が
ポロシャツにハーフパンツに黒いスニーカー姿の智彦君の腕を確保しながら挨拶してくれた。
「 おはよう… 」
目も覚めるコスモブルーの弛みのあるカットソーを着て
心ここにあらずといった感じの愛先生が
ゆっくりと降りて来て鉄柵にお尻を付けて軽く手を上げて挨拶してきた。
「 えっと…これだけ?剛ちゃんは? 」
私の言葉に何故か瞳がビクンと反応する…愛先生は大きく欠伸しているだけだ。
「 まあ…用事があるってことで今回はこれないみたいなの、
困っちゃうのよねぇ一人分、向こうの旅館キャンセルしないといけないんだけど
まあ急用じゃあしょうがないけどね 」
ぶつぶつとそんな事を言いながら菫の花をあしらった麻の着物に
白い帯を浴衣風に横で縛った九鬼さんが赤い鼻緒の下駄を履いて檻って降りてくる。
「 お…おはようございます。初めまして 」
ここで二人でみんなに挨拶したけどお兄ちゃんは少しびっくりした反応を見せた。
「 あら、おはよう…あなたが省吾さん?ハンサムですわね 」
今更なんだけど50ん歳の九鬼さんは相変わらず30代程度にしか見えないし
色っぽいので勘違いしたお兄ちゃんの顔が赤い。
あのね…死んだお母さんとそんなに変わんないわよ。
最後にバスの助手席からナディアさんが眠そうに降りてきた。
「 あ~よく寝たわ~ 」
ナディアさんは周りの光に溶け込んで見えるほどの白い肌で
気だるく栗色の長い髪を跳ね上げる。
「 みけ、みけ 」
私の脇腹にお兄ちゃんの指がつんつんと押してくる。
少し屈んで私の耳元に小さな声でお兄ちゃんが呟く。
「 誰なんだよ、あの外人さん 」
少し興奮しているのか私の耳元に熱い息がかかる。
「 え?あの人が今日の引率のナディアさんだよ…言ったじゃない昨日 」
「 引率って…そこの和服のお…お姉さんじゃないの 」
耳がいい(地獄の耳)九鬼さんが私とお兄ちゃんの肩に急に手を乗せる。
「 引率がナディアさんで、私はお財布係なの。」
多分、わざとだと思うけど柔らかい胸をお兄ちゃんと私の背中にくっつけながら
両腕で私たちをくっつける。
「 そこの、愛さんと合わせて美人のお姉さんが三人いるんだから
変な気は起こさないようにね…省吾さん 」
デレデレと鼻の下を伸ばしているお兄ちゃんを見て少し頭が痛くなった。




