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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
83/100

陰でこそこそ見ていた男

  ウッドデッキに繋がっている特別室の灯りがウッドデッキに

 瞳たちの影を反対側に伸ばしている。

 ジャニスが現れたときにスイッチを入れたと思うけど、瞳には記憶が無かった。

 

 ただ、”みけ”はジャニスに促されて

 透明できらきらと綺麗な産毛まで認識できるほどに顔を近づけてきて、

 始めて灯りがあるのに気が付いたのだ。


 これから何が始まるのか…

 透き通る様な”みけ”白い肌と不思議に気が遠くなるような甘い匂いに

 同じ女性でも何故か瞳はドキドキしていた。

 更に金縛りの様に体はほんの少ししか動かないし、

 他のみんなはまるでストップモーションの様に身じろぎしない不思議な空間で

 ジャニスと”みけ”だけが不自由なく動いている非現実な世界に…


「 な…何をしようとしているの? 」


 瞳が絞り出すように声を出すと、”みけ”が驚いたように眼の色を変えた。

 その眼を見て瞳は気が遠くなってしまう。

 文字通り目の色が変わっていたからだ

 白い目の部分が金色に、そして瞳孔が立てたフットボールの形をしていた。

 人間の眼がいきなり猫のような目になったから当然だった。

 

「 意識あるの? 」


 驚いたのは瞳の方なのに、更に驚いて”みけ”が後ずさりした。

 想定外だったようだ。


「 彼女の場合は忘却の術式以外に

  礼二君のかけた剛一郎君に特別な意識を持たせない呪いがかけてあるから

  多少には意識があってもらわないといけないのよ。

  他の人はさ、ちゃんと動かないように… 」


 と、ジャニスがしたり顔で何か言おうとしていると

 ふわっと柔らかい風が吹いたかと思うと珠美が凄い顔をしてじりじりと動き出した。

 最初はほんの少し指が動いただけだが、少しづつその範囲が広がっていく。

 今度はジャニスが本当に意外そうな顔で珠美の方を凝視した。


「 え…なんで動けるの?…ってかその眼って… 」


 ”みけ”は猫の目のまま珠美を凝視する。


 コバルトブルーの眼に光が反射して光り輝く瞳孔…”みけ”と同じ猫の眼だった。

 更に体に纏わりつくものを引き剥がすように両腕で動かし始める。


「 驚いたわ…私たちの拘束を強引に引き剥がそうとするなんて

  人間の…というか、普通の人間じゃないようね 」


 観察するようにジャニスが見つめる中、

 珠美の動かす手が何とかついていたブラジャーを剥ぎと取ると、

 火照った体に白い筋が浮かんでくる…縦に8センチ、横5ミリ程度の細長い松葉のような形

 汗が珠のような素肌にころころと流れていくのが分かる。

 

「 な、何よこれ… 」


 瞳が2人の同級生が人間ではない何かに変わっていくように感じに戦慄を覚えた。

 ただ、それは”みけ”も同じだった。


「 ジャニ…ジャニスさんでしょ?珠ちゃんに私と同じことしたの 」


 ”みけ”が途方に暮れた様子でジャニスの方を振り返る。

 その眼は今までのただの大きな人間の瞳へと変わり不安の色が浮かんでいた。


「 し…知らないわよ私 」


 ジャニスはさっきまでの能天気な雰囲気も無く、酒もどこかへ消えたように

 少し青い顔で答えた。


 ギニャニャニャァ


 珠美はそう声を上げると、

 今度は何かを引きずるような動作でゆっくりとジャニスに向かって歩き出した。

 相当な力を入れてるらしく、 

 筋肉質の珠美のあちこちの筋肉が少し膨張し、血管が浮き上がっていく。

 少し大きめの口がゆっくり開くと丈夫そうな犬歯が覗いていた。



「 は~、しょうがないなぁ… 」


 その時、ウッドデッキから少し離れた星明りの中から、

 突然に”みけ”と瞳が聞きなれた声が聞こえた。

 更にぼそぼそとよく聞き取れない声が更に続き、指を鳴らす音が聞こえた。

 その瞬間に、

 珠美の声も荒い息も直ぐに聞こえなくなり再び石の様に固まって動かなくなった。


「 凄いなあ珠美は…意志の力でこの拘束を破ろうとするなんてねえ、

  ああそれからジャニスさん困りますねえ…、

  折角見つけてうちで雇ってる同族の為にお膳立てしているところなのに妨害なんかして 」


 そんな事を言いながら影が近づいてくる。


「 同族…同族ねぇ、体質はある程度受け継いでいるけど能力も薄いし

  ハーフかクウォーターでしょ彼女。

  それに関係ない人の意思を私たちの能力で変更しようってのはよくありませんわよ 」


 ジャニスが椅子に行儀悪く座ってこちらを見て固まっている愛の方を見る。

 事情も何も知らない”みけ”たちは

 困った顔でウッドデッキに現れた専務の顔を不思議そうに見つめた。

 勿論、瞳に関しては特に変わらない様子の礼二の顔を見て

 少しばかり落ち着いて胸を撫で下ろした。


「 そうなんですが…私たちの同族は結構少ないし

  幸せになってもらいたいじゃないですか…結構ひどい過去もあるし 」


「 へええ、この子少し好きになったの? みつきはいるのに?

  ああ、でも昔はよく私にいろいろとアプローチしてきたわね礼二君 」

 

 にやにやとジャニスが笑うのを大きく息を吐いて肩を落として礼二が答える。


「 嫌だなぁ…そんな古いことを持ち出して。

  みつきを貰ってからこっち浮気心なんか…ちょっとはありますが、

  愛さんに恋愛感情なんてありませんよ…うちの母さんが見つけてきたし

  もう数年一緒に仕事してるし、

  有能だし性格もいいし愛想もいいんで、妹?って感じで思ってるんですが 」


「 妹ねえ…玄孫じゃないの? 」


 いたずらっぽく笑うジャニスに礼二は大きくため息をついた。


「 それを言ったら…母さんと高校が同級だったジャニスさんはどうなるんでしょうかねぇ 」


 その言葉を聞いてジャニスの眼が泳いだ。


「 ま…歳の話はここではタブーでしたわね。

  それより、このタイミングで現れたってことはずっと監視してたんですか? 

  盗聴とか、館内放送とか事前に停めれたでしょうに…趣味が悪いですわね 」


「 まあ、瞳にあなたの干渉能力を感じてからずっと監視してました。

  どんなふうに転がっていくか見ているのも面白いもんですから止める訳ないでしょ。

  まあ、私のかけた呪いを完全に除去されるのも癪なんで現れましたけど 」


 ジャニスはその言葉を冷めた目で聞きながら、珠美の方を指さした。


「 で…あの珠美さんに術式をかけたのはなぜなのかしら? 」


「 珠美さんのおばあさまは私の所と繋がりがありましたし、

  やくざに胸を刺されてそのまま死ぬのもあまりにも若すぎるし可哀そうですからねぇ 

  まあ、使ったのはただこちらの猫じゃなくて私たちの故郷の猫ですけどね。


  でも、猫同士上手く”みけ”ちゃんと上手くやってるじゃないですか 」


 呆然とその話を聞いている”みけ”を視界にジャニスはとらえながら


「 ヤクザねえ…長くなりそうだから、まあ、そちらの話は今度じっくり話しましょうか。

  それより…この後始末どうします? 館内放送である程度の話が漏れてるし

  記憶を消去するのは簡単でしょうけど

  何も解決するわけでもないし瞳ちゃんにかけた呪いも今後どうするかもあるし


  ま、呪いをかけた結果がこれだからねえ 」


 ジャニスの言葉を、礼二はにこにこしながら聞いていた。


 それはもう、何か答えを思いついているような表情だった。

  



 

 




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