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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
82/100

合流

  えっと…目の前に凶暴な虎が飛び出してきたかと思った。

 珠美の体中からなんか凄い気迫が立ち上がってる感じがする。


「 先生! どいう事ですか。ってか剛ちゃんもさぁ…本当に先生の事好きなの? 」


 ど直球で珠ちゃんが言い辛い事を投げてきた。

 私も大概だけど

 珠美はレベルが違うって感じで引いちゃうけど、話速いから正解だよね流石だわ。

 

「 はーはー、え~、こんばんわ 」


 激しい声の口調の後に、息を切らした口調で”みけ”がぺこりと頭を下げる。

 なんとものんびりして場違いな感じの態度だけど、

 珠美と違って”みけ”自体は剛ちゃんには特別な感情は無いみたいだね。

 智彦ともそうだけど、こいつがそういうのに関心はまるでないのな…

 そう言うのがあると全部持っていかれるから一番危険なんだけど。

 まったく、男って頭が弱くて可愛い子って好きなんだよね。

 

 剛ちゃんが顔を真っ赤にしている…

 そりゃあそうだ、二人とも浴衣なんか帯が止まってるだけで凄い乱れ方だから

 凄い勢いで走ってきたんだろう。

 まあ、珠美が血相変えて走ったんだろうから相当な速度で走ったからしょうがない

 体育じゃあサボりまくりで弓道部だけど珠美は100メートル12秒台で走れるからね。

 それについていく帰宅部”みけ”も結構な体力だよ…

 しかし、その恰好

 ”みけ”は別としてそれなりに立派な体形の珠ちゃんは剛ちゃんには刺激が強いだろうな。


「 こんばんわって…さっきまで一緒じゃない。」


「 いやーなんて言ったらいいか分かんなくて 」


 ”みけ”はてっきり剛一郎が好きなのは自分と思い込んでいたので少しショックはあったが

 先程のにじり寄ってきた智彦のなんとも思っていない男からの行動から

 心底めんどくささと行き場のない恐怖からかなり無い胸を撫で下ろしてはいた。


「 なんや珠美はこんな事が気になるんかい? 」


 愛は何が面白いのかにやにや笑いながら珠美を挑発するような物言いだった。

 

「 先生さ~知ってるでしょ私が剛一郎君を好きなのをさ~ 」

 

 目が血走っているのを見て…ふと、瞳は思うことがあった。

 今の珠美ってちょっと前の私じゃないの?

 言ってる言葉は違っても、剛一郎を気にしてというのには同じだからだ。


「 ま~熊田家であれほどあからさまな態度やったでな…知ってるがな。

  そうそう血相変えて走ってきてもやな心配しなくていいよ 」

  

「 どうして? 」


 直ぐに食い下がってくる珠美に少し愛の口元に笑みが浮かぶ。


「 何べんも説明するのも何やし、うちの口からより… 」


 と、私の方を向いてウインクする愛さんに少しため息をついてから珠美に話す。


「 小山内さんが剛ちゃんに気が無いのは本当みたいだよ 」


「 そうそう…僕はすっかり子ども扱いだしね 」


 ここで初めて剛ちゃんが口をきいた。

 その声に待ってましたとばかりに珠美が食いついた…勿論、凄く下手に。


「 ねえ、ホントにホント?好きってまともに言ってたじゃない 」


 その問いに剛一郎が窮していると、不意に後ろから声がした。


「 まあ、お姉さんみたいで好きって感じじゃないの?

音声が途中で極端に小さくなったし

  貴方や瞳は殆ど聞き取れていないかもしれないけど…間違いなく恋愛感情は無いわよ 」


 白い体がお酒と、馬鹿な若い男をからかって遊んだせいで桜色になっているジャニスが

 ふらふらと近づいてきた。


「 そうだわね九鬼さん?あなたはあそこでしっかり聞いてたし 」


「 あ?あの… まあ、瞳の言ってることをもっと強く肯定する発言はあったけど…

  ここでは言えないですよ。

  でも…他の人が聞いたかもしれないからいずれ分かるかもしれないけど 」


「 あそこ? 」


 珠美の反応に九鬼と瞳の背中に冷たいものが走った。

 もしジャニスが盗聴の犯人が二人だとわかったら

 半殺しって言った怪力の愛だけでなく、”狂乱”まで加わったら…どうなるんだと。


「 ええ、すぐそこですよ 」


 ジャニスがにやにや笑いながら九鬼たちがさっきまでいた部屋を指差した。


「 え?だって、あそこ電気もついてなかったし…だれもいないって思ってたんだけど 」


 剛一郎の声に瞳は腎臓を(背中が痛くなったんで)鷲掴みされた思いがした。


 ちょ…何で知ってんのよ?と困惑の色を浮かべているのを見て

 ”みけ”はため息をついた。

 ( あ~、またか…最近、ジャニスさんてば能力使いすぎ )と思いながら。



「 九鬼さんに瞳ちゃん…盗聴はよくないですわよ 」


 ジャニスが事もなげに愛の方を横目に見ながら話した。


「 は?と…盗聴って 」


 剛一郎が驚いてジャニスの顔を見つめたが、


「 何言ってるんですか?盗聴した二人がこんなところにいるわけないでしょ?

  専務さんから連絡受けたって…どこなんでしょうかね?って惚ければいいんだし…

  大体、興味本位でそんな馬鹿な事する意味が分かんないし 」


 愛が至極当たり前のことを言ったのだが、

 惚ければよかったって…そりゃそうかって瞳は勝手に飛び出した行為を後悔し、

 この中で一番の年長者(九鬼がそう思っているだけ)なのに

 二回りも下の愛にそんな馬鹿な行為って言われることを瞳を巻き込んで行った九鬼は

 全身に一気に汗をかいた。


「 馬鹿な行為って言うのは確かでしょうけど、それ自体は礼二君の指示でもあるのよ。

  まあ、盗聴って命令じゃなくて陰ながら監視しろって命令だったんだけどね 」


 ジャニスの言葉に全員が驚いた。

 

「 な…何言ってるんですか? 何の意味があって? 」


 瞳がそんな声を上げている中、愛と剛一郎に睨まれて九鬼は涙目になるし

 珠美は話を飲みこめずに首を捻り、

 ”みけ”は一人冷静に下着が見えていた自分と珠美の浴衣をそそくさと直し始めた。


「 それはね…ちょっと待ってね 」


 ジャニスが何事か呟くと、さっきまで瞳が感じていた夜風も虫の音も全て止まって

 ”みけ”が浴衣を直しながら動いている以外はすべての人の行動が停止した。


「 え? 」


 瞳がその様子に気が付き周りを見回している間に

 ”みけ”がゆっくりと瞳に近づいて横に並んだ。


「 あの~、私が止まらないって事は…私にも用があるって事ですよね 」


 やれやれ…といった感じの”みけ”の口調に凄い違和感と

 まるでさっきと別の世界にいる様な違和感とで

 震えるほど動揺している瞳の手を握りながら、”みけ”は静かにジャニスに言葉をかけた。


「 まあね、”みけ”は私の事情も知ってるしこの子や九鬼ちゃん達とも仲いいから

  上手く立ち回ってもらいたいからねえ… 」


 ジャニスの口調は、まるで旧知の友達か身内に対する様な気さくな態度で

 普段よりも砕けた口調だった。


「 え~、また面倒なことを私にやらせるんですかぁ? 」


 不満そうに”みけ”が横でいうのを驚愕のまなざしで瞳が見つめた。


「 まあそう言わないでよ…結構頼りにはしてるのよ”みけ”ちゃん

  それに、私に借りもあるでしょ? 」


「 まあ、そうですけど…せっかく友達になったのに瞳に嫌われるの嫌だなぁ… 」


 瞳の目に恐れを感じてる光を見て”みけ”が寂しそうな目で瞳を見つめるが、

 


「 大丈夫大丈夫、全部忘れるから 」


「 時間停止なんてすごい能力使った後で記憶を消すの? 」


「 時間の停止なんて事しなくても認識と空間の固定化の術式で大した事でもないし 」


「 まあ、”みけ”に使った能力の5パーセントも使ってないわよ能力 」


「 え~、それここでいうのぉ?勘弁してよ 」


 瞳にはよく分からない会話がその後も少し続いた。

 時間が経つにつれて瞳の心臓のざわつきも治まったところでジャニスが瞳に声をかける。


「 瞳ちゃんさ…礼二君に呪いをかけられてるのよ。

  そこの剛一郎君の事に対しての関心を失う呪いをね… 」


「 え? 」


 目の前で起こっている非現実の状況についていくのがやっとなのに、

 自分自身にそんな呪いがかけられている意味も、

 その言葉自体も現実味を感じることが出来なかったが…


 ただもし、それが本当なら…何故に剛一郎の事をこんなに気になっているのだろうと

 小山内愛の横で、仲睦まじく立っている剛一郎に

 心がキリキリ痛むのだろうかと…素直に思った。

  

 

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