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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
79/100

告白の落としどころ

  小山内 愛は暫く呆然と熊田 剛一郎の顔を見つめていたが、

 ありえないわって感じで首を横に振った。


「 あのさ…アラサーのバツイチのうちなんか好きになったとしても一時の気の迷いだよ 」

 寂しげな影を顔に作りながら愛は静かに呟いた。

 そしてその顔は星明かりに目の慣れた剛一郎にもよく見えた。


 ( そうそう…16の子供の考えてることなんてホントに馬鹿なことだよね。

  18で駆け落ちしたような馬鹿が、人の事をどうこう言えた義理じゃあないけどね )


 流石に28ともなれば、後先考えれるし剛一郎の様な未熟な心理も理解できる。

 

 ( でも、なんか変だよなぁ…剛一郎君とそんなに話した覚えもないし )


 熊田家で会った時にもただ単に調子の悪いお姉さんに向かっての言葉だったし、

 優しい感じの対応も剛一郎の風体ならそれが普通だと理解できる。

 

 あの時に自分に好意があったようには寸分も思わなかった…

 ただ愛本人としては

 くすんだ情感を少しだけ洗い流すような恋心ともいえないトキメキはあった。


「 それに…君、”みけ”の事好きだろ? 」


 愛は、少し笑いながらこの間の熊田家での剛一郎の態度を思い出した。

 流石にお姉さんは承知の様だけど、明らかにみけに好意を持っているような態度だった。


「 え? 」


 愛の言葉に剛一郎の顔が何か急に思い出したような驚きがあった。


「 みけ?みけみけ…あ~~~そうだったぁ…なんで忘れてたんだろう 」


 急に剛一郎の額に汗が吹き始めた。

 

「 それに、君…気が多すぎだろう?

  うちは方々に尻尾振る様な八方美人の男はもう飽きたんや 」


 ( まあ、うちの事どこまで好きか分からんけど二股は無いやろ )

 それは、男はモテるぐらいが丁度いいって付き合い始めて男に裏切られ、泥沼にはまって

 何もかも無くした愛の偽らざる気持ちだった。


 それに、高校の時から付き合って今も恋愛感情過多の南夫婦を見ているからだろう。

 一緒になるために島の実家の名前も捨ててこの町でひっそりと暮らしていた同級生…

 正直そう言うのを選ぶべきだったと今は思っているから、この間とは違い冷静だった。


「 八方美人? 」


「 っていうか、まだ誰も本気になって好きになっていないてった方がいいかな。

  うちの事も好きだけどみけも好きだし、タマも瞳も好き。

  ちょっと可愛い子見ると直ぐに好きになるんじゃないの?君って 」


( まあ、うちは可愛いって歳じゃないがこの際入れておこう…誰も困らんし )


「 瞳? 」


 剛一郎はその言葉に更に首をひねった。


「 えっと…確か、同級生にそんな名前いた様な気がするけど…なんでいきなり? 」


「 居た様なって…今日だって普通に会話してたじゃん。

  普通に仲良さげだったけど? 大丈夫か自分 ? 」


 剛一郎は怪訝な顔をしている愛を見ていると、急に瞳の顔が浮かんできた。

 思い出した顔は、つい1時間前ぐらいに専務の部屋で見たばかりの顔だった。


 ( あれ?なんで? )


 剛一郎は、そのまま夜のタクシーで二人で話していた場面、

 甘く心臓をゆっくりつかむ様なトキメキを感じたあの時を思い出す。


「 あ…そうだった。なんで忘れてたんだろう 」


 ”みけ”の事は本当に好きだが、珠美に関しても好意を持っている。

 それは16の子供からすれば当たり前の揺れ動く淡い恋の感情だったが、


 瞳については…波長が合う感じがして友達以上に惹かれるものがあった。

 それは恋愛感情ではないとは思うが

 失ってはいけないと思わせる妙な感情があって最近はずっと気にしてたはずなのに。

 それが…この瞬間だけ抜け落ちたなんて信じられない思いだった。


 ( そか…しかし、なんで愛さんに告白なんかしたんだろう?

   そりゃあ気持のいい人だし、美人だし好きか嫌いかと言われれば好きって言う程度なのに

   なんでだろう? )


 剛一郎は、その理由が分からなかったし、なぜこの場所に来たかもよく分からなかった。

 ただその時は、この場所に来てここで会い告白しなければいけないって思いがあったのだ。


 自分の行動に首を傾げるし、

 愛に気持ちも無いのに失礼な告白をした事は非常に失礼な事ではあると思ったが

 一回り上の大人の愛がにやにや笑い始めたので

 ここは素直に謝った方が得策だなぁと剛一郎は思った。


「 あ~ごめんなさい…急に変な話しました。忘れてください… 」


「 そかそか、まあ剛ちゃんも子供なんだから気にするなって。

  こんなおばさんなんて、16の君には釣り合わんしさ 」

 

 自虐気味にいう愛に剛一郎の胸に少し痛みが走った。


「 いえ、十分魅力的だし出来るならお姉さんとして付き合ってほしい気持ちはあります 」


 ( そうだそうだ、お姉ちゃんは所詮お姉ちゃんで家族だけど

   愛さんには大人の女性を感じていたんだな…そうそう、これが多分本心だろう )


 コロコロと心理が変わっていく自分に違和感は何故か感じないまま、

 剛一郎は深々と頭を下げた。


 小山内 愛はちょっと残念な気持ちが心を掠めたが、ちょうどいい落としどころかなと

 少し安心した。


 それと同時に、こんな子供の剛一郎に心揺り動かされる自分に少し驚いてもいた。


( まあ、2周り違うのにあんなベタベタな寮母さん達もいるから不思議じゃないか

  それに、この子とはその半分の1周りしか違わんし…もったいないなぁ

  ここでぶっつり切ってもうちに何のメリットもないし~ )


 愛は頭を下げている剛一郎の頭をいきなりヘッドロックした。


「 姉貴って事でうちも剛ちゃんに接するけどいいか? 」


 柔らかい体が剛一郎の体に纏わりついたので少しくらくらしたが、

 不思議に厭らしさも無く少しだけ心地よささえ感じた。


「 はい、よろしくお願いします 」


 剛一郎は力も掛けずにゆっくりと回っている手を軽く叩いてそう言った。





  その光景を別館の平屋の上で腰かけて見ている人影があった。

 金色の髪も、その大きな巨体も闇の中では愛にも剛一郎にも認識できない…



「 ヒック…馬鹿だねえ礼二君は無理やりにくっ付けても意味無いですわ。

  ちょっとだけ手助けはしましたけど、

  あんな風に自然にゆっくり進めるほうが面白いですのよ 」


 白い長い脚を大きく屋根瓦の上で広げて、持っている缶ビールに口をつけた。

 近くにはいくつもお酒の缶が転がっていた。


「 このジャニスさまがウイ…目の黒いうちは…青いか。

  勝手に人の運命なんて変えさせませんわよぉ、

  おっと、あの子の暗示も解かないといけないわね … 」



 ふざけ合う剛一郎と愛の元へ、血相を変えて飛び出してくる

 瞳の姿を見ながら、

 多くの男連中を酔い潰して暇なジャニスは、頬をアルコールで桜色に染めながら

 にやにやと笑っていた。

  


    

  


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