知ったかぶりの猫たち
星降る空の下、露天風呂で平泳ぎ。
中村 珠美は緩やかに白い手を掻き、思いのほか長い脚を緩々と流していた。
「 しかし、この旅館って化け物ばっか集まるのなぁ 」
珠美は、ついさっきまでの”限界しらず”の光景を思い浮かべていた。
殆ど人外と思える様な飲みっぷりのギーちゃん達や、
天を突くような巨体のジャニスには手を出すと燃え尽きそうな迫力があった。
それに、ここのバイトの同級生は、初めて同等ぐらいに喧嘩が強そうな瞳。
片手で30キロはある長くて大きな机を汗もかかずに持ち上げる化け物 小山内 愛。
長い間、裏世界との人間(まあ、田舎だから…地周りだよね)とも付き合いがあったが
化け物って思った奴はいなかった。
「 まあ、それでもあたしにとっては居心地がいいけどね 」
化け物、怪獣扱いで”狂乱”の名前で他と浮きまくっていた自分にとって
この旅館は相対的に普通で居られる現状は心地いいものであった。
「 そういや、今度は木田ちゃんも連れてくれるかなぁ… 」
この間、珠美から見たらただのゴミの様な不良から助けた翔子とは
短い間ですっかり友達になっていた。
ガラガラ
内湯から外へ繋がる戸が開いて、
ふらふらと珠美の入っているお風呂に眠そうな顔の”みけ”が向かってきた。
「 どうしたん、寝てなかったんか? 」
先に眠たくて潰れたのを智彦が連れて行ったのを見ているので珠美は首を傾げた。
「 うん、まあ…目も覚めたし…ラウンジで汗かいちゃってたんで 」
みけは、力なく笑った。
実際は、それにかこつけて智彦から逃げてきたとはとても言えなかった。
「 智彦はどうしたの? 」
「 え?ああ…まあ、もう寝たんじゃないかなぁ… 」
「 へえ、”みけ”をおんぶしてたから、
何かあるといけないと思って脅したのが効いたみたいだなぁ。
あいつ、瞳がいるのにお前に夢中みたいだしあぶねえなあと思ったんだよな 」
みけは驚いて珠美を見る。
さっき、流石に自分が好かれていることに初めて気が付いたのに何で知ってると…
「 あ…ゴメン。知らなかったか…だとしたら相当なバ…鈍い奴だぞ。
あいつは知らないだろうけど、瞳もあたいもそんな事はとっくに知ってたよ。
あんな…強烈な視線送って後をつけてるの見たらさぁ…ストーカーかと思っちゃたよ。
ホントにさ、男なら正面切って告白すりゃあいいのにさ 」
「 へ…へえええ 」
まあ、さっき告白されそうになったから…ギリギリ男だろうけどね。
そっか…鈍いんか私とみけは思った。
( そうだよねえ、匂いに現れるほど性欲の対象にされて初めて理解した位だもん。)
「 め…迷惑だわ 」
( はっきり言おう、迷惑だっての!16の身空で性の対象になんかごめんだわ! )
「 なんで? いいじゃんか男から好かれたぐらい勲章みたいなもんでしょ?
それに結構いい男だと思うよ。
頭いいし、顔もいいし、スタイルもいいじゃん。
その上、性格も優しいし…なかなかいない優良物件だと思うけど? 」
「 でもさ、怖いじゃん男の人ってアレの事で頭いっぱいだし… 」
人間でも猫でも処女のままの”みけ”が頬を赤く染めて振り絞って言ったつもりだったが、
珠美の方はあっさりとした反応だった。
「 そんなの当たり前じゃん。本能だもんさ…無けりゃあ男でも無いじゃんかぁ。
幼馴染でしっかり惚れてる瞳なんか、望まれれば躊躇なくエッチぐらいするだろうし 」
「 こ…高校生で? 」
珠美は呆れたようにじっと”みけ”の顔を見つめた。
「 あんなぁ…早い奴だと小学生でも経験するんだけど…
高校生は早いけど別にさぁ、特段に早いって訳でも無いんだけど…
それにしない選択も妊娠して退学が怖いからでしょうに 」
「 そうなの? んじゃあタマちゃんは経験あるの? 」
急に”みけ”が珠美に近づいてきた。
自分に振られる話題は苦手でも、他人の情事には興味津々だった。
「 あ~ねえよ一応。あ、最初の相手は決めてるけどさぁ… 」
少し鼻の頭に汗をかいたが、濡れた体の為に”みけ”には分からなかった。
ただ、急にニヤニヤとして
「 な~んだ…経験無いんだ。偉そうに私にいろいろ言ってくれたのにさぁ
でも、最初の相手って剛ちゃんだよねぇ…多分 」
「 う…うっさいわ。そのまま結婚に持ち込むんで処女は大事な武器やんかぁ
そこらのナンパ小僧に捧げてどうするん?
あたいは剛ちゃん以外なら一生独身でも構わんないから、
最初も最後も剛ちゃんでいいの 」
みけは、”狂乱”と言われた不良が真っ赤な顔をしているのに可愛いとさえ思った。
「 剛ちゃんねぇ… 」
お姉さんから自分の事を好いていること聞いて、知っている”みけ”は
内心申し訳ない気持ちになった。
そしてついでに、瞳の想い人からも告白されそうになった事を思うと
関係ないが少し落ち込んでしまった。
「 まあ、女性に今は興味が薄いかと思うけどさ 」
「 それは無いと思うな。お姉さん大好きだし 」
自分の事は伏せるとして、自分の次に好きな女性は姉だと思って発言した。
「 だよねえ~血が繋がってるから結婚は無いけどさぁ… 」
あるわけないじゃんって態度の珠美に”みけ”は首を振った。
「 あのさ、世間では隠れて姉弟で内縁関係で夫婦同然ってカップルもいるし
多分、あのお姉さんに勝てる女なんていないだろうし…
ひょっとしたらひょっとしてって事もあるんだけど 」
それは自分ですとはいえずに”みけ”はどこか上から目線で珠美に告げた。
「 無い無い…あたいが力づくでもものにするからさぁ。
高校だって中退してどっか遠くで二人っきりで暮らす覚悟だってあるし… 」
漫画じゃないんだから…”みけ”は短絡的な珠美の発想に呆れ果てた。
その時、静かな別館の露天風呂の館内用の案内スピーカーから声が急に聞こえた。
「 僕…愛さんの事が好きになったんだと思います 」
その声は紛れもなく、今噂していた熊田 剛一郎の声だった。
”みけ”と珠美はその声を聴いて一瞬にして時が止まってしまったのだった。




