星降る夜の始まり
” そっか…昼間は快晴だったもんなぁ ”
目が覚めた時には既に体の痛みはなく、普通に手足が動くようになっていた。
毎度のことだけど、
うちの化け物じみた回復力には感謝している。
半面、今回みたいに直ぐに心のリミッターが外れて最大筋力が出てしまう体質は
ちょっと困りものだと思う。
まあ、中学からこっち男に言い寄られることが多かったんで
その力を使った拳で身を守ってこられたのもあるから一概には悪いわけでもないけど。
私は、それでもまだ治りかけなのか暖かい体のままで
夜空を見ながらそんな風に思った。
離島で育ったうちは潮騒を聞きながら、
のんびり波頭に腰かけて夜空を見上げたものだった。
漁火や灯台の明るい光や本土のほんわかとした光なんかで星よりは
満月で波がはじけて輝く夜の海をよく見ていた。
それはそれで気分のいいものだったけど、
この山間の町に来て、更に山深いこの旅館に来ると
この時期だとクビキリギスやキンヒバリ( 山間はまだ夜は寒いからね )が
田舎の潮騒の代わりのBGMになって
さっき言った通り快晴で、綺麗な山の空気もあって
空から、それこそびっしりと星が海のように広がっている。
旅館”星の海”の名前の通りの風景が広がっているのだ。
うちは特別室に繋がったウッドデッキに体育座りをして、呆然としていた。
まあ、呆然と言っても
この空の繋がる下に幸せにやっているだろ元旦那と親友の事は少し思う。
旦那の和夫と別れてからもう大分経つ。
夜の一人寝に涙を流さなくなりはしたが、いまだに寂しいのには変わりない。
夜に”限界知らず”で働かしてもらっているのは結構有り難い。
流石に家に帰れば、疲れて眠るし
泊まっていけば、ベテランの未婚女子の九鬼の姉御と、歳のいった女子会も出来るし
暇があれば、仕事抜きで店で牢名主たちと酒を飲むこともある。
まあ、そうなったのも
うちの事情を聴いて気を利かせて夜の仕事って事で、
夜勤や深夜手当を付ければ女一人暮らしも余裕があるでしょう?って言ってくれた
ここの女将のおかげなんだけどね。
でも、不思議な出会いだったなぁ…職安の前で声かけられるって何なんだろう?
まるで、私のことを探してるみたいに私見つけてほっとした顔したのはさ…
まるっきり初対面だったんだから。
しかし…ちょっと待たせるなぁ姉御…
ここで話があるって…部屋ですりゃあいいものをわざわざこんな所に呼び出してさぁ。
それになんで携帯に連絡入れるんだろう? 来ればいいじゃん。
大事な話らしいけど、それなら中のほうがよっぽどいいんじゃん?
まあ、取って置きのワインを開けるって言うから来たけどさ…
ミシ…ミシミシ
ウッドデッキの板を踏み込む音がした。
「 遅かったじゃんかぁ、あね… 」
うちが振り向いた先には姉御の姿はなく、空の星よりも綺麗な瞳をした
高校生の剛一郎君が立っていた。




